2005年11月25日金曜日

人参と万国旗



太陽と月の間にいる時間に我々は、理想と現実の違いを認知する。
ここでいうWEとはskyではなく私たち、即ちみんなだ。




ため息をつきながら歩き続ける幾らかの人は、理想と現実の違いというものこそが人間をがっかりさせて落ち込ませ、駆ける意欲を失わせるものだと考えているようだけれど、そうではない。人がそれを失うのは、決して現実に叩きのめされたからでも、理想までの道筋を見失ったからでも、他の適度なぬるま湯加減の既得REALに満足してしまったからでもないのである。

人が馳せるのは理想と現実が違うからであり、人が馳せるをやめるのは理想と現実の違いを失うが故なのだ。




人の想像力には限界があり、万物には限界がない。
鉄より硬い友情なんてないし、海より深い愛などない。
虹より長い夢なんてないし、石炭より燃える魂なんてない。
秋より肥ゆる力士なんていないし、空より高い鯉のぼりなど無い。

世界は巨大すぎるのだ。
はじめは誰もそれを知らない。




何も知らなかった頃は誰もが、理想と現実は違うものだと心の底から思っていたはずだ。

ヒーロー戦隊の主人公と、今手元にある現実は別物。
スーパーサイヤ人と、今手元にある現実は別物。
Jリーガーと、今手元にある現実は別物。

ところが、実際はそうじゃない。
理想と現実はほとんど同じ、それも99.9999エンドレス、極限の一だ。




同じようにお腹はすくし、同じように雨は降る。
同じように春が来て、同じように老いてゆく。
僕らは生まれた時からもう既に、99.9%、理想の未来を生きているのだ。

世界のことを知れば知るほど、理想と現実の差異は次から次へと埋まってゆく。
人は不和から逃れられない世界に平和は訪れない。銅から金は生まれない親は子になり子は親になる。空は飛べない海は涸れない止まない雨と水不足。肉と肉とはぶつかるけれど心と心はすれ違う。

理想は魔法の景色ではなくなり、ほんの少しの違う現実、香醋の一滴入ったラーメン程度のものだという事を誰もが知る知り知った時、99.9%の理想と現実のほぼ完全なる一致がエクスプローラーに座布団を手渡して、誰もがそこに腰掛け息を吐く。パーフェクと。




そうならないために。
もしも走り続けたいと思うのならば。

何も知ろうとしないことだ。
ずっと馬鹿でいればずっと生きていける。
バレない罪は良い罪で、完全犯罪は犯罪ではない。

けれども僕はそんなものいやだし、残念な事にもう既に知りすぎている。
余白はもう無く、ここはほとんど理想の現実。




じゃあ、再び駆け出すにはどうすればいいのか。
それはおそらく、今現在未設定未想像の理想というものを一つ一つ丁寧に作り上げていけばよいのだろうと思う。そうして、現実から理想をもう一度、出来る限り乖離させればよい。万国旗の端に手を掛けて胃の中にある人参を引っ張り出し、再び天に掲げるのだ。そうすればまた駆け出せる。








一つずつ、一つずつ。
理想の靴下の柄。
理想の味噌の色。
理想の風鈴の音。
理想の暗証番号。
理想の夕暮れ時。
理想の天気、理想の髪型、理想の季節。
理想の夢、理想の希望、理想の現実、理想の理想。


理想の人参、僕は人参が好きじゃない。