掛け直されたボタン

Eスポーツシーンにおけるソビエト地域の「評判倒れ」について、僕はそんなに書けるだけの知識を持たないのだけれど、ロシア上層のレベルの高さはどこに居ても聞こえてくる一方で、Eスポーツの都たるスカンジナヴィアは遠すぎる上にビザがなかなか出なかったりだとか、国際大会に出てきても早々に消えていくだとか、スポンサーが付かずに遠征費用が確保出来ないから解散、といったよくないニュースは目にする。WC3シーンではMadFrogの再来蘇る不敗神話mouz.HappyがWCGでGrubby、Moonに次ぐ3位入賞を果たしGrubbyのチームメイトにまで成り上がったりしたけれど、DOTAシーンにおける最近のソビエトの低調ぶりは、一時のソビエトの存在感からすれば、それはもう酷い物だった。

以前はソビエト地域の強さを見せつけるリプレイが盛んにアップロードされ、研究面においても最先端を行くスマートさを持ち、有名プレイヤーを多数輩出したが故に、どんな風にチームが再編成されても「世界的名手が5人集まった!」と見えてしまう。それ故に、華やいだ結果を伴わない時期が少しでも続くとすぐにネチズンは「ドリームチームを集めてそれか」と叩き始める居心地の悪さ。

それも、二番手三番手に付けているならまだいいものの、新興チーム相手にも苦戦が続き、「強いは強いけど、大勢の中の1チーム、それもどちらかと言えば下の方」というくらいの、トップ集団の中位も微妙な低空飛行が続いていた。昨今アジアDOTAシーンの盛り上がりもあり、もうどうもロシアのDOTAはもう駄目だ、という感触すら、僕は持っていた。




その印象を追認する出来事が、先日行われたF4Fでの残留戦であった。
DTS vs OK(InTheShit)である。

DTSは全員が「ソビエト地域のトップ10プレイヤー」と言っても過言ではない充実っぷりで、それどころか一時は、「世界最強の10人」と目されたプレイヤーのうち、3~4人がチームに居るという、再編成によるチーム力インフレ時代を代表する豪華なチームである。はっきり言って、名前だけ見ればDTSに負ける要素は全く無いかに思われた。ところが、一試合目を見て、僕は本当にがっかりした。

この二本先取の1ゲーム目でDTSが取った戦略は、「相手のエースを完全に潰す事」だった。相手のエースは13babyというスカンジナヴィア人(多分デンマーク)で、確かに力強いプレイヤーとして多少は名前の出てきた人である。とは言っても、「たかが13baby」という程度のプレイヤーであり、典型的な「弱小チームの大黒柱」にすぎないはずだった。そのプレイヤーを寄って集って必死に叩き潰すDTSを見て、「これだけの面子を揃えながら、こんな危ない橋を渡って勝ちにいかなければならないのか」と強く思った。

なにせ、名前だけ見れば、世界最強プレイヤーに挙げられた経験を持つ人間が4人も揃ったチームである。世界最強carry。世界最強ganger。世界最強solo side。そのチームが、寄って集って懸命に「チームプレイ。チームプレイ。」と念仏のように唱えながら13baby目掛けて突進する様を見て、僕は本当に悲しくなった。それだけの時間が流れたことに。時代の流れの薄情さに。「もともと、烏合の衆を叩いていただけで、そこまでのプレイヤーじゃなかったのかもしれない」とすら考えた。




その曖昧模糊としたやるせない予感は、二試合目で具現化した。

二試合目も全く同じように「相手のエースプレイヤーさえ叩き潰せば恐れるものは何もない」という態度でゲームに挑んだDTSは、その叩き潰そうとした相手のエースプレイヤー。即ち13babyに、逆に叩きのめされてあっという間に完敗した。けれども、それすら、まだマシだった。何故ならば、三試合目はさらに悲惨な結果に終わったからだ。


13babyに得意ヒーローであるSFを渡さない為にわざわざban枠を使い、mass miconを狙うという「弱者の賭け」とも言うべき微妙なpickを選択し、そしてまた懸命に「チームプレイ」「チームプレイ」と念仏のように唱えながらマップ上を右往左往した挙げ句、1つの見せ場すら作らずに、ジャングルの中を東へ西へ列を作って蟻のように歩き回っただけで負けた。「名前倒れのソビエトドリームチーム」。そんな印象を持ったのは、決して僕だけでは無かったはずだ。強い人達が揃い、強いプレイが出来るはずなのに、まるで自分の中の弱い心に押しつぶされるかのようにして自ら縛って自由を無くし、名もないチームに完敗する。そのあまりにも悲惨な試合内容は、ソビエト低空時代を決定づける象徴的な出来事であり、ソビエト凋落の集大成でもあった。もう、彼らは「その他大勢」の中の1チームでしかなく、「ドリームチーム」でもなければ、「世界的チーム」でも無く、そのメンバーには1人のクラックも存在していないかに見えた。それくらい酷い負け方だった。




それから、僅か数日の後。
DTSはpDcトーナメントの準々決勝で、KuroKy率いるニルヴァーナと対戦した。

それは「勝てるはずの無い試合」だった。
「結果が明かなゲーム」だった。







かつて世界最強のsolo sideプレイヤーではないかと噂されていた人。
かつて世界最強のcarry playerと目されていた人。
かつて世界最強のgangerと呼ばれた人。

DTSは5つの世界最強が集まった夢のチームである。
けれども、そんな彼らの最強は、全て昔の出来事だった。




一方のニルヴァーナは違った。

かつて世界最強のプレイヤーと誰もが認めざるをえないだけの結果を残し続けたkuroky。現在においても、誰もが世界最強と認めざるを得ないだけの結果を残し続けているkuroky。そして、これからも世界最強であり続けるであろう、紛い物無しの器用さと強さ。本物の今が、そして本物の未来がそこにはあった。欧州どころか世界を代表するDOTAプレイヤーの中のDOTAプレイヤー。その彼が自らその手でかき集めた「世界最強にして最高のチーム。」それがニルヴァーナだった。







現在のDTSは、過ぎ去りし栄光のソビエトとは全く違っていた。
最強とは名ばかりのトップには遠く及ばない中堅チーム。
かつての名前ばかりが一人歩きしているチーム。

勝てるはずの無い試合であり、結果が明かなゲーム。あのDTSの惨めな今を見た者にとって、どちらが勝つかなんて、胸躍らせるだけ無駄だった。実力差は歴然としていた。始る前から終わっていた。







ところが、この日のDTSは、あの日のDTSではなかった。
掛け違えられていたボタンは全て、正しく凛々しく直されていた。
DTSが選択した作戦は、まるで王者のそれだった。無敵の王者のそれだった。

王道。
正攻法。
正面衝突。

あのkurokyのニルヴァーナに対して、1つの奇策を用いる事もなく、平凡で凡庸なpickと戦略で、正面からDOTA allstarsを挑んだのである。ただ1つ「あの頃」と違っていたのは、かつて後衛をする姿など想像も出来なかった最強のsolo sideプレイヤーが、後衛に回り、泥中を這いずり回っている事くらいだった。そしてDTSは勝負に勝った。最序盤からダブルスコアを付け、その優位は最終局面まで維持され続けた。中盤までのfarm力こそ多少は見劣りしたものの、ゲーム全体を通してみれば、微塵の危うさも感じさせない完勝だった。



それはまるで奇跡だった。
混じりっけのない透明な奇跡だった。
「良いものを見られた」と僕は満足しきりだった。




ここまで落ちた彼らでも、うまくいけばニルヴァーナから1本を取るくらいは出来るんだなと、感心してたいへんに満足した。gangerとして鳴らしたdendiが、今一番旬で、今一番ピーキーなヒーローであるrkを巧妙に操り、ついにはニルヴァーナの5人を全殺し、「DOUBLE KILL」「TRIPLE KILL」「HOLY SHIT」さらには「RAMPAGE!」の効果音が高らかに鳴り響くのを、それはもう、最高の気分で聞くことが出来た。そして、あの敗北から完璧に修正してきた彼らの作戦にも敬意を抱いた。心地よい充実感だった。けれども、である。







まさかあの惨めで弱い過ぎ去りし落日のDTSが、僅か数日後にニルヴァーナをルーザーズブラケットに2-0のストレートスコアで叩き落としてしまおうとは。しかし、である。このDTSのあまりにも完璧なリプレイを見て記憶に残ったのは、DTSの素晴らしさではなく、あの男の素晴らしさだった。十八番とも言える大ポカをやらかして尚も目に付いてしまう、kurokyの気持ち悪いがまでの強プレイヤーっぷりばかりだった。もはやLodaすらもその地位危うい、クラックの中のクラックである。

このリプレイは残念なことに、ニルヴァーナのメンバーが完璧ではない(しかもチームリーダーのpuppeyを欠いている)上に、負ければ終わりのノックアウト形式の局面ではないので、ガチリプの中のガチリプだとは言い切れないのが残念なのだけれど、序盤へこみにへこんだkurokyが四苦八苦しながらどうにか立て直して体裁を保ち、チームの核となって圧倒的不利な中でも懸命に勝機を探るそのニルヴァーナのファイティングスピリット、執念深さ、ゲームに対する真摯な態度とチームワークは深く感銘を覚えるものであり、今年見た中では断トツの壮絶に悲壮なリプレイなので、dota allstarsシーンを多少は囓った事のある方には是非ご覧になっていただけたらと思う。




さて、果たしてニルヴァーナはルーザーズを勝ち上がり、dDreamTeam戦まで辿り着けるのだろうか。一方のdDreamはチーム力ではニルヴァーナに勝るので、TR、MYM、DTSと勝者側を勝ち上がってきそうな気がする。そうなれば、ニルヴァーナが仮にDTSにリベンジし、敗者側を勝ち上がったとしてもグランドファイナルではbo2を二度勝たないと優勝出来ない。これは相当厳しい。このDTSの奇跡的なまでに美しいボタンのかけ直しによる2連勝によって、ニルヴァーナの黄金時代は一気に遠く手の届かない所に行ってしまった感がある。もちろん、万が一にもニルヴァーナが優勝(さらにF4Fでも優勝)してしまうと、それこそ遂にあのLodaが「欧州筆頭」の位置から完全に引きずり下ろされてしまう事になるわけだけれど。

結局のところ、「いくらkurokyがクラックだとは言っても、puppeyのプライベートをてこで動かしてでも調整してプレイしてもらわない事には始らない」という事実が明白となったニルヴァーナは、掛け違えられたボタンを掛け直す事が出来るのだろうか。DTSにはそれが出来たんだから、ニルヴァーナにだって当然出来るはずである。けれども、果たして今現在のpuppeyにそこまでの力があるのかどうか・・・。そして何より、僕はメリーニを後ろに下げてデーモンを前に出した方が結果が出るのではないかと思うのだけれど。メリーニが輝くのは格下相手と野試合だけ、という印象がどうしても強い。1レーンを託すには、あまりにも弱点が多すぎるプレイヤーに見える。あと、ブラッドストーンは無い・・・素直にguinならば。




一応記憶を辿っておくと、昨年11月付近に集中したfunatic.Loda 対 MYM.Kurokyの決戦は、何度やっても結果は同じでほぼ全てKuroKyが完勝した。もちろん、あの日のKuroKyのチームメイトは今ではLoda側に居るので、どんな結果が待ち受けているかは誰にも予想出来ない胸躍る、まだ見ぬ未来の話なのですが。久しぶりにリプレイでこんな気持ちになった。おめでとうソビエト。おめでとうNS。おめでとうartStyle。おめでとうdriad。おめでとう王LTH。そしてなによりおめでとうviggosの系譜、King of ganker dendi。