インターネットは間違い無くおもしろいもので、探したい物がすぐに見つかり、見つけたいものは絶対に見つからないシステムになっている。たとえば、僕以外の誰かの作業というものは、どのようなものだろうかと興味が出て、作業配信というものを探してみた。インターネットの配信サイトで、何らかの作業を垂れ流しにしている類いの配信である。とは言っても、livecoding.tvは英語ばかりで肉感が無いので、日本人が日本語で作業を垂れ流している配信を探してみたのである。すると、すぐに見つかった、流石はインターネットである。
さてその作業配信、月曜までにやらなければならない作業があるらしい。今日は土曜日である。切羽詰まっている事が見て取れる。ああ、誰しも作業というのはなかなか思い通りに行かないものなのだなあと思いつつ見ていると、突然にうたいはじめた。生歌である。かなり壊れている。ああ、この人も追い詰められて作業が捗らず、ついにあたまがおかしくなりつつあるのだと、かなしい目でそれを聞いていた。作業というものは常に捗らないものなのである。ひとしきりうたいおえると、水を飲むと高らかに宣言したあと、おそらくは水を飲み、念仏を唱え始めた。「天才だ、天才だ、俺は天才だ、ああ作業が捗り始めた、天才だ、天才だ、俺は天才だ、ああ作業が捗り始めた」。
一度や二度ではない。延々と唱え続けている。思わず「おまえはアミバか!」とモニタの前で突っ込んでしまったが、天才だ天才だ俺は天才だの念仏は止まる気配がない。時々漏れ聞こえてくるうめき声からは、作業が捗っている気配はない。こわい。この世界はこわい。インターネットはこわい。気になったのでググってみると、作業が捗り始めた自称天才さんは、仕事でも趣味でも相当な実績があるようだ。天才かどうかは知らないが、それから2時間も天才だとインターネット上で主張し続けたからには、間違い無く天才なのだろう。途中、「天才だ、天才だ、俺は天才だ、進まない作業進まない」などとフレーズを変えてくるあたり、本当は作業などしていなくて、ウケ狙いで配信しているのではないかと疑いたくなったりもしたが、結局それから天才さんは、天才だ天才だ俺は天才だ、ああ作業が捗り始めたと2時間も唱え続けて、僕らのインターネットの夜は終わり、寒い寒い日曜日の朝が訪れてしまったのである。僕は天才ではないので、作業が捗らないのは仕方が無いと思った。作業とは天才が行うものであり、私達のような凡人は、何もせず寝て起きて死を待つのみである。