2004年11月27日土曜日

どざえもん



のど元に引っかかっていた小倉ゆう子を書き終えて、よし眠ろう、という段取りになったのだけれど、僕と眠りの間にはまだ大分の距離があり、このまま布団に包まっても時間を無駄にしてしまうだけだと判断して、しばらくは起きている事にした。

当然の結論である。ぬくぬくとよろしくやって時間を浪費するような事はなんとしてでも避けねばならぬ事柄なのだから。

布団に足を入れる余裕も無いくらいに「ぁゎうう、」などと呻きながら倒れこみ、そのまま一秒と待たずに寝付いてしまうくらいが丁度よい。布団の中というものは、世界と遮断されており、そのあまりの距離に動揺してよからぬ事ばかりが頭の中で芽生えてはすくすくと育つ。その木という木、ジャングルと呼ぶに相応しい邪念を片っ端から伐採しようと悪戦苦闘するうちに、当然の結果として頭が冴えてしまい、やがては目も冴え、眠ろうにも眠られず、起きようにもジャングルの蔦という蔦が僕に覆いかぶさって瞼に絡みつき目に光を入れる事すら出来ず、そうしている内に僕の体の中で最も我侭な部位である背中の素肌が干上がってシャツと喧嘩をし始める。
そうなってしまうと、DOTA allstars以外の手立ては無くなり、DOTA allstarsから綺麗さっぱりと足を洗い、ゲーム中毒者のブログであったという過去を知らぬ読者が大半を占めているウェブログの管理人である真性ヒキコモリとしては、そのような極地に追い詰められぬよう、安全地帯をセーフゾーンに駆け抜けて、睡眠へと向かわねばらならぬわけである。それが僕に求められる義務であり、最低限度の責務である。

しかしながら、DOTA allsatarsから完全に切り離された僕が、
「卓上で寝入ってしまいそうな程に眠たいのだけれど、
 横になったらおそらくは眠れないであろう程度の眠さ」
というものを抱えながら行える事はそう多くは無い。

まず、ブログを書くのは無理である。
僕は睡魔が過ぎ去った果ての眠さ眠りの崖っぷちで、さくさくと文章を書けるような人間ではない。先生あのねの、先生あのねすら書き躓く人間なのだ。パソコンモニタに映る原稿用紙、というかテキストエディタを見つめては立ちすくみ、一行も書き出せぬままで「ああ、」「あ、あ」などと頭の中でどもっている程度のブロガーなのである。
ブロガー、ブロガーって言うとかっこいいね。
もっと言って。
ブロガー。
ブロガー。
ローレン・ブロガー。
ランディ・ブロガー。
トレバー・ブロガー。
真性引き篭もり・ブロガー。YEY!!YEY!!

そこで僕が眠りを待つ間行うことにしたのは、ブログを読むという行為である。
僕は出来うる限り他人のブログは読まぬようにしている。
「その理由は」と問われると書いても書きつくせぬ程のものがあるのだが、一言で言うと、よろしくやりたい、よろしくやりたい、と過去ログ全てを読みつくし、日に10度は訪れていたブログの管理人が彼氏持ちであった、というか、同性愛者の男性であったというショックが抜け切っていないのである。正直、かなり堪えた。


あの日の僕の二の轍は踏まぬ。と固く心に誓った僕が読むことにしたのは、女学生とは程遠いブログであり、それを僕は適当な感想で噛み砕きながら睡魔を待っていたのである。

ところがである。
「ブログ」というフォルダの、女学生とは程遠いブログの真下で、こともあろうか女学生のブログがじっとこちらを見つめていたのであり、僕はついうっかりとそれをクリックしてしまうに至ったのである。

そのブログは正真正銘の女学生が書いているであろうブログで、日々の出来事を3日に一度程度のペースで赤裸々に語っており、女学生ともセキララとも程遠い僕としては、興味津々で過去ログ全てを読み尽くし、日に10度くらいは訪れてみたり、ハンドルネームを検索エンジンで検索してみたり、メールアドレスを検索エンジンで検索してみたり、出てくる地名を片っ端から検索しては学校名を推移してみたり、オフラインでの友達っぽい人のブログの過去ログを全て読みつくしてみたり、といった、まあ世間一般ではよくあるレベルのお気に入りであったのだ。

その女学生ブログを久々に訪れてみると、やはりその女学生は乱れに乱れた生活をしており、お金がどうとか、寝ずに学校へ行って昼前に学校を抜け出しただとか、楽しければいいだとか、自分を安売りしている日常をブログに書き綴っていたのである。それを読んだ僕はというと、「真面目に学校行きなさい。」などと幾重にも間違いが折り重なったコメントを心の中で投稿しては物凄くせつない気分になり、とりあえず未読のブログ投稿を全て読んでから憑き物に追われるようにしてそのブログから逃げ出したのである。


そのせいか、眠気は一向に追いついてこない。
逃げようとしたのは、女学生のせきららからなのに、それは同時に睡眠をも遠ざけてしまったのである。
困った。
さあ、どこへ行こう。
ブログは絶対駄目だ。

そこでふと「将棋でも」と。
なぜそう思ったのかは今でも謎だ。どうしてなのかはわからない。とにかく僕は「将棋をさせば眠たくなりそう」という意味不明な希望を抱いて、以前どこかのブログで目にした将棋24というウェブサイトを検索エンジンから辿り、そのウェブサイトにたどり着き、新規登録をクリックしてみると、何やら貴方の棋力を診断します、などと言ってくる。
その最初の質問を見て、将棋24はやめておこうという結論に達した。


「有段者に勝った事がありますか?」
ありません。
弟相手に飛車角落ちでも勝てません。



まったく、世界はどうして僕にこのような残酷な質問を投げかけるのだろうかと悲しくなり、他人の関わらない、自分との対話たる行動を持って睡眠までの時間を潰さねばならないと強く言い聞かせた僕がとった行動が、「テトリス フリー 凄い」と検索エンジンに打ち込むという行為であったというのは、至極正当なところであり、誰もが納得出来る満場一致なのである。

さすがに、「テトリス フリー 凄い」では何も出なかったものの、10分程で目当てのものを探し出し、ダウンロードし、解凍し、睡魔を待つために1ゲームだけ、あるいは2ゲームくらい、という感じでテトリスをプレイし始めたのである。

ところが、このテトリスというゲームが凄いやっかいなのである。

■           ■
■■ を待っていたら、■■ が来るし、
 ■         ■


■      ■
■■ でも ■■ でも来い!と構えていたら ■■ 
 ■    ■               ■■

が来るしで、全然楽しくない。
しかもこのフリーのヘボリスというテトリスは、Lvが上がると0.1秒くらいで上から下まで落ちてくるのでゆっくり考えている暇が無く、まるでぷよぷよをプレイしている小学生のように、とにかく右へ、右へと積み、右がてっぺんまで埋まってしまったら今度は左へ、左へ、と積んで延命し、やがては中央も埋まってしまってゲームオーバー。

今度こそ!と思ってやっても、落下速度が速すぎて「あそこに入れよう!」と思ったときには既にそのブロックは穴ぼこに埋まってしまっていて左右に動かす事は出来ず、そのまま一気にゲームオーバーだとか、あそこにテトリス棒を入れてやる!と思っても、そのテトリス棒が穴へと向かう途中に

 □ 
 □
 □  
■□■ このように落とし穴にハマってしまい、動かせない。
■■■ 物凄いストレスが溜まる。

うわー、となりながらもなんとなく段々判ってきた頃に、少し眠たくなって、「今なら寝られる!」と手洗いへ立とうとしたら、弟が帰宅した。

真夜中に弟のテニスラケットを勝手に持ち出してシュティフィグラフになっている所を見つかってからというもの、弟とはあまりよろしく行っていないので、弟が帰宅したという事は手洗いに行けなくなった事を意味し、それ即ち眠れないという事になる。

実を言うとテニスラケット以前からいい塩梅ではなく、先に風呂に入っては怒られ、「ユンケル飲んだ?」と問い詰めては逆切れされ、視界に入っては視界に入るなと言われたりと、散々であるのだけれど、問題の根本はこちら側にあり、彼自体は結構いい奴だしいい男なのである。人には相性というものがあり、あわぬものはあわぬし成らぬものは成らぬのだ。それが彼の身に降りかかった不運というやつなのだ。
昔は実況パワフルプロ野球などで勝負をしたりしていたのだけれど、僕の繰り出す投手陣は弟の阪神とか日ハムとか、そういう変なチームの変な控え選手ばかり集めてわざと変な打順に並べ替えた変な打線に流し打ちの連打を浴びて、2回の表を終えて8-0などという滅茶苦茶なスコアとなっては仕切りなおすを繰り返したり、格闘ゲームで待ちガイルのような事を延々やっても負け越すを繰り返したりをしていると、「つまらんから」などと言って弟はいつからかゲームをまったくやらなくなった。

あれはどうすればよかったのだろう。もっと練習して対等に戦える程に強くなればよかったのだろうか。いや、それは違うか。そういう問題では無い。とにかく、僕はずっとゲームをやり続け、弟はゲームをまったくやらなくなった。

そしてその僕はある日を境にDOTA allstarsからきっぱりと足を洗い、ゲーム中毒者であったという事実を過去のものとするべくブログを書いていたのだ。



が、気がついたら18時間ゲームをしていた。

OH MY GOD HOLY SHITだ。
一応、DOTA allstarsというゲームを知らない方の為に上のフレーズがなんたるかを説明しておくと、DOTA allstarsにおける最も象徴的な失態時に流れる音声が、「HOLY SHIT」であり、OH MY GODはなんとなく付け足しただけだ。



実のところ、薄々は感じていた。
こうなる事を予感していた。

心がふわふわと朝から晩まで浮いていて、本体はDOTA allstarsと共に海底深く眠っているような感覚が常にあった。色々と、僕はこれを、僕はこれの、僕はこれが、というものを無理やりに探して海底から肉体を、僕自身を引き上げようとキャプスタンをぐるぐるしていたのであるけれど、結局は船ごと海に飲まれてしまった。

一応、もう、テトリスは海に沈めた。
しかしながら、海へと投げ込まれて黙って沈む者などいない。
なんとかして空気を吸おうともがき、なんとかして浮かび上がろうともがく。それが人間というものであり、生きるという事なのだから。


しかしながら、これはそれらとは違う。
腐っている。
腐りきっている。
せめて、もがけ。