2004年11月6日土曜日

痩せている理由。



僕の部屋にはずっと白い熊のぬいぐるみがあった。
白いといっても、ねずみ色に手垢で汚れており、耳や首の付け根とかを指で分けて奥を見れば、ああこのぬいぐるみは真っ白であったのだと認識できる程度の薄汚いぬいぐるみである。


話を少し変える。
体重計に乗っていないので、現在の体重はわからない。
計って40kgあったのは数える程しかないので、今も40kg無いだろうと思う。

僕にはゲームをしない弟、というかおそらく軽蔑されているであろう弟がいるのだが、彼は健康そのもので、テニスをやっている。軟式だか硬式だか今はどちらなのかはしらないが、健康そのもので、結構な二枚目である。おそらくモテるのであろう。

では何故僕自身はこのように食が細く、事ある毎に倒れてしまうような体なのかというと、どうやら物心つく前に大病を患ったからであるらしい。はっきりとどのようなものであったかを聞いたことは無いのだけれど、助からない予定だったとか、いないはずだっとかそのような事は匂わされながら伝えられた事はある。また、怒られた時などはいないはずだったのに、などといった怒られ方も度々受けた。


僕自身は、このような体にした母親を物心がついた頃からうらんでいたような気がする。食べて太れないのは母親の手料理がまずいからだと思っていたし、いじめられるのも自分の態度やら努力やらは棚に上げて、健康ではないせいだと常々考えていた。

そのような幼少時代の趣味はというと、手術跡、縫い跡を引っかき、血を出して痛さを感じ取り、膿ませてはその臭いを嗅ぎ、かさぶたが出来ては引っ剥がし、という事を延々繰り返すという、常軌を逸したとも取れるようなものであった。結局この趣味から僕を救い出してくれたのはゲームであり、ドラゴンクエスト5だったのだから、僕はゲームと出会えて幸せだったと思う。


そのように虚弱体質、というか貧相な体にした母親をうらんでいたのであるが、ある時ゲームを買う金を盗もうと母親の部屋に忍び込み、入院手帳のようなものを見つけたのである。

そこには、白い熊のぬいぐるみを抱いた気持ち悪い生き物が写っている写真などがあり、なにやら手記というか日記のようなものがあった。その日記のようなものを少し盗み読んだのであるが、何やら愛というかそのような類のもので体重やら病状やら、何があった、誰が来た、どの先生がどうこう言った、何をどれだけ投薬した、というような事が書き連ねられており、正視することが出来ず、盗る物も盗らずに尻尾を巻いて逃げ出し、ドラゴンクエスト5をプレイした。

結局、ずっとドラゴンクエスト5であり、それからは恨みのようなものは消えて、自画自賛するのは恥ずかしいのであるが、素直でよく勉強のする、ゲーム中毒な子供といった所になったと僕自身では思っている。

そんな母も今はもういない。
白い熊の人形はアドバンスト大戦略2001と一緒に海に投げ捨てた。