2005年8月25日木曜日

台風が来ない。



クリームが食べたい。
すり鉢に流し込んだ2パック分の生クリームをけたたましい音をかき立てる電動式の泡立て器で固く、固く、メロンパンの表面のようになるくらいまで固く泡立てて、泡立て器にこびりついたクリームを指で刮げ落として食べたい。胃がこむら返りを起こすくらいまで食べ続けたい。生クリームが食べたい。台風が来ない。

雨が好きだった。雨は素晴らしい。激しい雨は、より素晴らしい。雨は顔を隠してくれるし、人の目を遮ってくれる。傘だって深くさし放題だ。それに、弾け消し飛ぶ雨音は、笑い声をもかき消してくれる。即ち雨は人の姿を覆い隠してくれる。けれどもインターネットは途切れない。

台風が来ない。台風が悲しい。雨音が聞こえない。雨が悲しい。もう何も感じない。来ぬ台風が悲しいのではなくて、来ぬ事にも、あるいはたとえ来ても、何も感じないであろう干上がった己の心が悲しい。

昔であれば嬉しかった事や悲しかった事の全てが失われたように思える。「失われた」と書けないのは、そんなもの最初から無かったような気がしているからだ。暑い、水、水、水。

ブオオン、ブオオンと大きな音で回るファンが部屋中に埃がかった熱気を充満させている。吐息と吐息の充満する場所で繰り広げられるどちらが先に壊れるかのチキンレース。毛根から流れ出た脳が毛髪に絡まって頬と肩口をべた付かせる。雨音が聞こえない。台風が来ない。クリームが食べたい。水はもういい。クリームが食べたい。