2005年10月24日月曜日

「こんなはずじゃあなかった」



こんなはずじゃあなかった。
じゃあ、どんなはずだったんだろう。




かつて僕の両眼は凛々と照っており、全ての景色を見渡せた。

空には太陽があり、海には船が浮かんでいた。
川は薄汚れており、地には砂埃が舞っていた。

もちろんその景色は随分と醜く歪んだもので、季節も風情も無かったけれど、それでもくたびれたスケッチブックを取り出してはくだらない、空も海も大地も無いような絵を描こうと思うくらいの魅力はあった。




けれども今じゃ、何も見えない真っ暗闇の真っ直中。
どちらが上で、どちらが下なのかすらわからぬのだ。

初めてRPGをプレイした幼稚園児が「東にダンジョンがあるよ」と町の人に告げられては海沿い山沿い駆け巡り、大きく一周するのと同じように、やたらめったら駆け巡れば、見えてくるものもあろうかとも考える。

けれども、大地の在処がわからぬからして、歩む事すら出来やしない。
それどころか、落ちることすら許されない。

こんなはずじゃなかった。
どっちが上で、どっちが下なんだ。




自分の人生とは長い石段を上から先に叩き付けられながら落ち続けるようなものであると考えていた。考えていたし、事実これまではそうだった。より悪い方に、より下へ。より速く、より痛く。それこそが僕の手にしていた、正しく真っ当な現実だったのだ。けれども、今では転がり落ちたいと願っても、転がり落ちる事すら出来ない。




絡みついた見えない糸で中空に縛り付けられているのか、あるいは遂に落ち行き辿り着いた純然たる重力の中心に浮き浮かされているのか、それとも。




転がる事など夢のまた夢、落ちることすら夢の夢。