憎しみが消えて、悲しみが消えて、苦しみが消えて、僕は綺麗になったから、ただ誰か、汚い誰かを全部殺してやりたい気持ちだけがしゃがれた声で膨らんで包丁を手に街に出て、「悪い子はいねえか」「悪い子はいねえか」と練り歩いてみたものの、みんな足先急ぐ大人ばかり。ならばとばかりに「悪い大人はいねえか」と呼びかけて右手をピンと伸ばして「ハイ」と名乗り出たその悪い大人を刺して殺してやろうと「悪い、」まで喉絞ってみても、その先を言う勇気が僕には無い。僕が殺せるのは童までだ。
認めない、認めたくないそんなもの、とまるで人の心の動きのように悔しさ少し。「悪い大人なんていない」というきれい事で僕はまた「悪い子はいねえか」と呟く。
けれども互いにもたれあう年端もいかぬ子の高い声を耳にして「ああ僕には人を刺す勇気など無い」と己の弱さをそこに見いだし怒り昂ぶり玉葱を買い細かく刻んで少し泣いた。