2007年5月15日火曜日
今もどこかであなたの何かを、誰かが確かに必要としている。
こんな終わりが訪れるなんて、いったい誰が想像出来ただろうか。あの光り輝く無敵のzacardが、たった1つのトロフィーを手にすることもなく、シーンを後にするだなんて。
いくら言葉を並べたところで、彼の凄さは少しも伝わらないだろう。
けれども何も書かなくとも、全て伝わることだろう。
リアルタイムで見ていた人になら。
伝説の空飛ぶアンデッドmadfrogを引退に追い込んだGrubbyが出口の見えないスランプに陥り、orcという種族の限界説が囁かれ、「Grubby時代の終焉」が実しやかに語られだした頃、彼は世界に現れた。鮮烈だった。
Grubbyと同じ種族を使い、Grubbyよりも鮮やかで、Grubbyよりも強く、Grubbyの2倍の操作量。全く新しい戦略を引っさげてシーンに登場した瞬間から、異常とも言える無敗に等しい勝率を叩き出し、世界の全ては彼のものになった。彼につけられた「Grubby 2.0」という渾名すら、過小評価に聞こえるくらい。
伝説の空飛ぶアンデッドmadfrogがアンデッドを変えたように。
WarCraft3を完成させた男skyがヒューマンを変えたように。
"第五の種族"sprit_moonがナイトエルフを変えたように。
zacardはオークを生まれ変わらせ、完成させた。
紛う事なき稀有なプレイヤーだった。
疑う余地の無い、唯一無比の存在だった。
けれども、今になって思えば、彼の最大の功績は、orcを変えたことではなくて、WC3シーンそのものを変えた事だったのかもしれない。右も左もバカばかりのシーンでは珍しく、zacはたいへんにまともな人で、意思疎通に不便しない程度の英語力とスター性をも持ち合わせていた。そして何よりも強かった。
当然のようにして彼は、欧州の名門clanであるSKに最強の新戦力として入団し、アジアと欧州を繋げた最初の一人となった。世界が1つになった今のシーンからは想像もつかない事だけれど、当時のシーンは欧州と韓国の2つに分かれていた。
zacのSK入団がなければ、StarCraftシーンに完全に負けていた韓国のWC3シーンはもっと下火になっていたかもしれないし、ヨーロッパが韓国人の草刈場、強いて言えば出稼ぎ先と化してしまう事も無かったかもしれない。そしてなにより、欧州最大のリーグ戦であるWC3Lを蹂躙し、我が物顔で闊歩した韓国オールスターをオフラインプレイオフにてたった2人で返り討ちにする4K.Grubbyと4K.ToDというシーン最大のカタルシスの1つも生まれなかっただろう。
あの頃のシーンは反論の余地無く、確かにzacardのものだった。
けれども、zacardの時代は3日と持たずにあっけなく終わった。
アメリカblizのお膝元で行われたBlizzCon 2005。
地獄のような韓国予選を首位通過したzacardは、当然のように決勝に進んだ。
決勝戦の相手は、<本来ならばそこに居るはずの無かった男>だった。
zacardの韓国予選のリプレイの、全てを見尽くしたGrubbyは、zacardの全てをコピーする事で長いスランプを抜け出して、決勝戦まで辿り着く事に成功した。熾烈を極める韓国予選を生き延びたzacardと、ぬるま湯完全無風地帯のオランダから来たGrubby。理不尽な顔合わせ、そして理不尽な結末だった。
何度思い返してみても、あれはzacardが手にするべきタイトルだったし、zacardが手にするべき栄光だった。「なぜGrubbyはzacardに勝てたのか?」という話題が世界中で語られ続けたが、誰もその勝因を見つけ出すことが出来ないほどに、あまりに微妙で原因不明な、そしてなにより理不尽な結末だった。MTVのカメラの前で、彼は全てを煙にまいたまま、zacardがその日まで少しずつ懸命に積み重ね積み上げてきた全てのものを持ち去った。そして幾度目かの、Grubby時代の幕が開け、zacardの光り輝く無敵は終わった。
たった1つの栄光も、手にせぬままで。
zacardが軍へ行った。
貧困層が軍に行くくらいしか道の無い国は確かに悲しいけれども、特権階級以外の全てが軍か牢屋に入らねばならない国はそれ以上に悲しいものだ。今にして思えば、ここ最近のzacardのパフォーマンスの低下はおそらく、モチベーションの低下だったのだろう。軍がzacardを必要としている以上に、僕らはzacardを必要としていたのに。それはもう、切実に。
WCReplays.comのダウンロード数ランキング。
zacardはTOP30に5つのリプレイを送り込んでいる。
これは、Grubbyの23、moonの11、ToDの6に続く数だ。skyの4をも上回る。
2位 SK.Zacard vs SK.Insomnia
7位 SK.Zacard vs 4K.Grubby
10位 SK.Zacard vs [4K]Grubby
14位 SK.Zacard vs 4K^Grubby
20位 SK.Zacard vs 4K^Grubby
けれども、特筆すべきはその数ではない。
その5つのリプレイ全てが、zacardの負けた試合なのだ。
僕が最も印象に残っているzacのリプレイもまた、Zacardの負け試合だ。
彼は負けても決して評価を落とさなかった。それどころか、負けながらも評価を高める事の出来た唯一のプレイヤーだった。なぜそうだったのか、はよくわからない。
ZacardのMAP上を面で制してきっちり受けるというプレイスタイルが、相手の良い所を引き出し、猪突猛進的な側面を持つGrubbyやmoonとは特に噛み合い、負けるときは名勝負、勝つときは相手を完璧に凡殺して圧倒、というパターンが多かった。特に、Grubbyに全てを奪われるまでの一時期は無敗に等しいまでの圧倒的な勝率で、ありとあらゆる相手の良さを完全に殺しきっていたが故に、その衝撃はものすごかった。あのzacardが凡百に落ちぶれ、そしてシーンを去るなんて。
韓国という国が徴兵制を必要としているのかどうかとなると、それはおそらくだけれど、多分本当に必要としているのだろう。それはつまり、韓国の軍隊がzacardを必要としている、という事なのだろうとは、思う。けれども、どこか、納得がいかない。僕ら以外のいったい誰が、zacardを必要としていると言うのだろうか。
そりゃあ、もちろん、僕らだってzacardの全てを必要としているわけではない。僕らが必要としていたのはzacardのほんの一部分、彼が生み出す名勝負のリプレイだけだった。
言うまでもなくzacardは人で、リプレイを作り出す機械なんかじゃない。それは丁度僕がblogのエントリーを書き出す機械でないのと同じように。僕が真性引き篭もりのエントリーを必要としている人がどうでもいい存在である事を知っているのと同じように、zacardもまた僕らがいい加減でどうでもいい存在であるという事を知っていたのかもしれないし、そんな事はなくて後ろ髪を引かれながら軍へ行ったのかもしれない。前者であれば幾らか気分は楽なのだけれど。
戦い続けたzacardのように。勝って称され、負けて称えられたzacardのように。必要としている人たちに連れ去られ、もう二度と戦うことの出来なくなったzacardのように。
僕もしばらくすればすぐ、見知らぬ場所へと連れ去られ、跡形も無く消えるのだろう。くだらない理由で。いらないものを必要とされて。そうなる前に可能な限り、死力を尽くして戦おうと思った。この地球上で唯一僕を必要としている人の為に。僕の全てを必要としている真性引き篭もりhankakueisuuの為に。苦しみの全てを、悲しみの全てを。全てと全て以外の全てのものを捧げて書こう。光り輝く無敵の中へ。cya zac