2007年11月18日日曜日

ゴリラに勝てないウルトラマン



金で解決できるとは限らないが、金がないと解決出来ない問題というのは世の中にたくさんある。

たとえば、フットボールクラブなどは典型的なそれである。金がないと有望な選手を確保できない。カンテラで育てた若手はトップチームで活躍しだしたら即強奪。さらに有望な選手の場合はトップチームに上げる前に強奪。無い金の範囲でチームが結果を出しはじめれば、今度は監督が強奪。シーズン中にファンデラモスやクーマンを失ってはフットボールも糞も無い。選手が取れない。育てた選手を維持できない。結果が出れば監督が流出。お金がないとはじまらない。もちろん、言うまでもなくお金があっても駄目な物は駄目。ベルディとかインターミラノとか。

他では、アニメーションのクオリティなどもその1つだろう。アニメーションは動くのが基本であるはずなのに、日本のアニメは動かないのが基本である。ちょっとかくかく動いただけでやれぬるぬるだ、やれ神作画だと騒がれる。もちろん、全てがそうなわけではない。ジプリアニメはよく動く。そしてよく稼ぐ。

ところが、日本の動かぬアニメが世界で人気だと言う。聖闘士星矢、ドラゴンボール、セーラームーン、くれしん、ポケモン、犬夜叉、NARUTOと、いろんな国で稼いでいるようだ。オープニングとエンディング、一話3分しか動かないウルトラマン状態の日の丸紙芝居になぜそのような人気が集まるのか。

それは、単純な話で、人気があるのはアニメではない。原作である。原作に人気があるだけなのである。我が国では原作漫画はジャンクフードより安い価格で手に入る。しかし海外においてはそうではない。既にアニメ化された回の単行本がやっとこさ翻訳されたと思ったら、我が国の3倍、あるいは4倍の値段で売られる。

同じ物がアニメであれば無料である。テレビをつければやってくる。あるいは、ファンサブの名の元で"読める"。その利便性、即ち本来値札がついて売られているだけのクオリティを持つ原作が無料で手軽に手に入るが故に、日の丸アニメは海外でも快進撃を続けているのである。

それ、即ち漫画作品のアニメ化は、漫画家にとっても利益をもたらす。故に、それら「原作漫画のウルトラマンアニメ化」は、有る意味では正当化する事が出来る。しかし、である。それこそが問題である。

それら原作漫画をテレビジョンに起こしただけの紙芝居、所謂ウルトラマンアニメは、貧困層あるいはワーキングプアと呼ばれるような過酷な労働を強いられているアニメを職業とする下層民によって支えられている。将来に対する夢も希望も持てない人達の生活を踏みにじりながら作られている。

そんな産業に、未来などあるはずがない。彼らは「原作アニメをテレビジョンにする」という単純労働者であり、文化産業従事者でもなければ、芸術産業従事者でもない。それらの作業を行っているのは原作の漫画家である。現在の貧相な資金力で行われているアニメ化は、原作をテレビジョンに落とし込むだけの単純労働である。

一方の米国は「原作」というものをどのように処理しているのか。それは、ハリウッドを見ればわかる。スパイダーマン、エックスマン、トゥームレイダー、ハリーポッター。我が国であれば「アニメ化」されるであろうものが、片っ端から「映画化」され、アジア、中東、中南米、世界中の市場へと当たり前のように飛んで行き、イランのような「悪の枢軸」にまで浸透する。それだけではない。トランスフォーマー、バイオハザード、ドラゴンボール。

もちろん、一概にどちらが優れている、と言うことは難しい。30分12話のアニメ化と、2時間1本の映画化の、どちがより原作の蹂躙であるか、というのもまた、難しい問題である。ただ、1つだけ言えるのは、我が国の「原作動画化産業」は米国の「原作動画化産業」に比べて、はるかに小さな規模であり、また産業としての健全性も無いという事である。

スピルバーグがジュラシックパークで小説をコンピューターグラフィックにした時、「実写では不可能なこと」が映画の制約となっていた時代の終わりが始まり、今や完全に終わってしまった。(ジュラシックパークは"ウルトラマンアニメ"だったが、今やその制約は失われ、CGが3分で引っ込むことは無くなった。)

2007年において、小説やコミックの映画化を妨げているものは、「映像に対するイマジネーション」という、監督や技術スタッフの才能だけである。即ち、「紙芝居ではないアニメ化」も、「(模型劇ではない)映画化」も、同じ土俵に立っているのである。

言うまでもなく、そのステージにおいて肝心なものはボスの才能と資金力である。スピルバーグは低予算で映画を作り上げる監督として有名であるが、僅か2時間の映画一本に投じる費用は、我が国の原作動画化産業が30分12本に投じる費用よりも遙かに高い。労働者の給与水準も天と地の差がある。無論のこと、収益にはそれ以上の差がある。原作人気に頼るばかりの日の丸アニメの未来は暗い。