2008年10月6日月曜日
思い出したくないことばかり。
昔、懐中電灯を持って、ナナフシがたくさん居る山に、自転車でカブトムシを捕りに行った事があった。スズメバチと黒い蝶が樹木にいたのを覚えている。何度か行ったことのある場所だったけれど、懐中電灯の照らす光が暗闇に浮かぶ様は、全然違って見えた。
カップ焼きそばの空箱を2つくっつけたような、円盤形の虫かごを持っていた。全面がプラスチックの格子で出来ていて、引き戸が1つと、肩紐が付いていた。それを、肩から掛けていた。カブトムシは捕れなかったけれど、コクワガタが1匹とれた。オスだった。
帰ろうと、下の方まで降りてきた時、どうしてかは知らないけれど、僕は突然そのコクワガタを逃がしてやらなければいけないという気持ちになり、虫かごから取り出そうとした。けれども、これが出てこなかった。引き戸は小さくて拳がうまく入らず、コクワガタはコクワガタで、引き戸から遠く離れた場所に懸命にしがみついていた。あの虫かごを設計した奴は、酷い人間だと思う。今でも懲らしめてやりたい。
案の定僕は泣き出した。我が事ながら、よく泣く子供だった。少し泣いていると、気分が高まって、取り憑かれたように泣く子供だった。親には、ヒステリーだと言われた。また始まったと、よく笑われた。ヒステリーの意味も当時は、そして今でもよくは理解出来ないけれど、まあ、そんな所だったのだろう。泣いたところで何も解決しなかった。
親兄弟が自転車に乗っても、まだ泣いていた。足を一本ずつプラスチックの格子から引きはがしてみても、すぐにまた、しがみついてしまった。その調子でぐずっていると、帰ってしまった。そうするとすぐに僕は泣くのを止めた。その山は昔にお城があった山で、当時の僕には色々と恐ろしかった。それから何年か経って流れ星を見に一人で登った時は、そうでもなかった。目を悪くしていたので少ししか見えなかったけれど、流れ星を見て同世代の事などを考えて泣いた。一人でめそめそと泣く男に、ろくなのはいない。
いじり回してぼろぼろになったコクワガタをかごから取り出して、言い訳程度に山を少しだけ登って無理矢理立木に貼り付けて、逃げるようにして一人帰った。その日の夕飯がカマスだった事だけを覚えている。今の僕にはクワガタのために涙を流す権利すらない。ではあの頃ならあったのかと問われると、それはそれで窮してしまう。