真性引き篭もり : 今日も南極は平和です。

「南極の生き物たち」という檻に入れられて展示されることになった。「ああ、夢か」とすぐに気がついたけれど、こんな機会は滅多とないので、よく見ておこうと思った。今にして思えば、ペンギンやアシカが海面を、真鴨のように泳いでいたのは、僕の想像力の貧相さを如実に表しているわけだけれど、それを見てワクワクした。wikipediaで、南極で遭難して半年後だかに生還したイギリス隊の記事をしばらく前に読んだからに違いないと考えた。それはおそらく当たっているだろうけれど、こんなにも平和でのほほんとする夢を見る事が出来たのは、しばらく続いた酷い頭痛の影響なのだろう。首から上が果てしなく痛いというのは、よく考えれば恐ろしい。けれどもそんな小さな恐怖は、南極の平和の前で小さな物事にすぎなかった。遠くでは大鷲が水面へと突っ込み、魚を抱えて舞い上がるのが見えた。魚はピラニアのように見えたので、おそらくはヒラマサか何かであろう。少なくとも、アジ科である事は間違い無いと思った。誰に話しかけるでもなく、「アジだね。アジだ。」と横に向かって言った気がする。そこにはアシカが居て、アシカは大鷲を見ていた。その大鷲の勇壮な、魚を掴む上空目掛けて、潜水艦から垂直に成層圏目掛け発射される核弾頭のように、ヒョウアザラシが真っ直ぐ上へともの凄い速度で飛んでゆき、大鷲と魚を一口で食べた。鷲の羽毛だけが宙に浮き、体長6メートルはあろうかというヒョウアザラシは、真っ逆さまに落ちてゆき、クレーターのような水しぶきが上がった。やっかいなことになった。恐ろしい気分になった。悪い予感はあたるもので、ヒョウアザラシはこちらへ目掛けてやってきた。「南極の生き物たち」という檻のケージをその指で握りしめ少しずつ、必死に上へと登っていったアシカは、トカゲのように俊敏に垂直をものともせずに駆け上がるヒョウアザラシによって、血と肉とに分けられ落ちてきた。あたりは死とパニックとで満たされた。鉄の臭いで赤く染まった海辺を走って必死に逃げた。「ヒョウアザラシ・・・!」と僕は思った。目が覚めると、南極なんてどこにもなかった。ここには平和があるだけだった。