dota2のFlying Courierは何故アイテムを落とさないのか。

zsmjルール
    - zsmjに殴られると死ぬ





dota2のルールの中で、理解しがたく奇妙なものを2つ挙げるとすれば、テレポートスクロールの詠唱時間と、殺してもアイテムを落とさないペットだと僕は思う。

dota2のテレポートスクロールの詠唱時間は、「不定」だ。3秒でテレポート出来る事もあれば、5秒かかる事もある。直感的に何秒必要かはわからない奇妙なルールである。さらに、荷駄隊という存在のペットを殺しても、アイテムを落とさない(それどころか、金も得られない)。時間経過後、アイテムを持ったままで自陣に復活する。

以前のdota allsttrsでは、テレポートの詠唱時間は一定だった。ペットを殺せば、ペットが所持していたアイテムはその場に落ちた。理解しやすいシンプルなルールである。ところが、いつからか、奇妙なルールに変更されてしまった。そこには、zsmjというプレイヤーが居た。





zsmjがdota allstaresシーンの頂点に立ったのは、2009年のsmmにまで遡る。DreamHackが欧州最大の祭典(スカンジナヴィア周辺地域の祭典)なのに対して、smmはアジア最大の祭典であり、最大の大会であった。ここで、zsmjが所属するLGDというチームは、完全優勝よりもさらに困難な完全優勝を成し遂げる。

LGDはこの大会において、Goblin Techiesをpickして「どげんもならん」というレベルの目も当てられないpick負けをして、ルーザーズブラケットに回ってしまう。しかし、LGDが負けたのはこの1戦だけであり、残りの全ての試合で恐ろしいまでの強さを見せ、優勝してしまった。今や伝説となった「3 carry」という戦略による、完全優勝よりも困難な完全優勝である。

2009
kingJ
sharingan
zsmj
GX

当時のLGDは、EHome黄金時代を築いた2009という万能キャプテン型プレイヤーのチームであり、後に他のチームでもタイトルを獲りまくるkingJや、sharinganという実績のある歴戦のプレイヤーが居た事もあって、この大会において、zsmjはほとんど注目されなかった。LGDのその他大勢、あるいは精々LGDの3番手以降、四番手という位置づけだった。

smmで人々の関心を引いたのは、LGDが完成させていた戦略だった。

彼らは、「3 carry」と称されるシステムを、完全に完成させていた。それぞれのレーンに1人ずつcarryを配置し、3人が15分間farmし、20分前後で塔を割りまくり、25分にはアンタッチャブルな太ったcarryが3人出来上がってしまう、というの恐ろしい戦略である。その完成度たるや、異常とも言って良いレベルで、smmからしばらく彼らは鬼のような強さでシーンそのものをrapeしまくって行く。

3carryは、それまでのトップシーンの流れから逆行した、極めて保守的、守備的、消極的な戦略だった。20分前後まで、スコアは極限まで動かさないという理念こそが、3carryの核だった。もしもfarmが完成する20分までにゲームが動いてしまうと、carry3人という重いラインナップを選択したLGDの不利は明かである。その為に、残り2人の後衛はgangして相手を殺しに行くのではなく、mapを面として相手にプレッシャーをかけて、相手に仕掛けさせない、仕掛ける隙を与えない、というのがLGDの手法だった。相手が無理をしてまで仕掛けてくれば、下がって時間を稼ぐ間にTPで殺到して数的有利を作る、数的有利を作る事が困難ならば第1塔を放棄して戦わない、というのが3carryだった。

当時のLGDの伝説的な勝利の1つに、グランドファイナルの最終戦でスタンがtideのultだけという滅茶苦茶なpickがある。彼らは、dota allstarsはスタンゲー、というシーンの文脈を完全に無視した上で、見事にスコアを固定し、そして圧勝してしまった。




そんなこんなで、3carryにより、名実共にdota allstarsシーンを完全に制圧し、dota allstarsの象徴的存在となった彼らに待っていたものは、壮絶なバッシングだった。物を見れば不平不満を口にして叩く事しか知らない、ネチズンどもによってLGDはdota allstarsの仮想敵へと祭り上げられた。

LGDが完成させた3 carryは「中国はつまらん」という意味不明な論拠により叩かれ、LGDというチームは「中国はつまらん」という意味不明な論拠により叩かれた。2009というプレイヤーは2008年にEHome無敵時代を築いたアンストッパブルな中国屈指の万能型キャプテンであり、残る4名も特筆に値するタレントだった。そして、彼らが行う3carryの完成度も、他のチームが模倣した3carryもどきとは、レベルの違う完成度を誇っていた。にも拘わらず、糞くだらないネチズンどもによって、彼らは「ゲームバランスの穴をついて勝利している」という事にされてしまった。その「穴」として槍玉に挙がったのが、テレポートスクロールである。

LGDの3 carryは、テレポートスクロールとオブザーバーワードを最も有効に使った戦略だった。ワードで相手の動きを監視し、テレポートで瞬間的に数的優位を作り上げる。それを行う事が出来る、という事を相手に知らしめる事で、相手の挙動自体をメタの部分で抑圧してゆく。

まず最初に、"LGDのつまらんfarm"をシーンから排除する為に、テレポートスクロールの詠唱時間に変化が加わった。3秒だった詠唱時間が、先人が居れば詠唱時間が長くなるというペナルティが加わった。後に、スモークが導入され、テレポートスクロールとオブザーバーワードというLGDの両翼は、共にシステム面でもがれる事になる。書いてるだけで気分が悪くなるような改悪である。




即ち、である。LGDの最初の黄金時代を終わらせるべくして導入されたテレポートスクロールの弱体化以前に、LGDの最初の黄金時代は終焉を迎えていた。結論から言えば、そんな改悪は無くとも、LGDの黄金時代は終焉を迎えていたのだ。もしもテレポートスクロールに問題があったのならば、叩かれるべきなのはテレポートスクロールであり、LGDではなかった。LGDが勝っていたのは、テレポートスクロールというゲームの穴(彼らが言うには)によるものではなく、LGD自身の強さによるものだったのだ。当時のLGDほど過小評価されたチームは他に無いと思う。




とにかく、である。永遠に続くかと思われた、異常な完成度を誇る3 carryを止めた男。それが、kingJであり、820だった。LGDの二番手プレイヤーだったkingJは、LGDを脱退して、EHomeに加入した。

kingJの脱退後にLGDに加わったのは、yyfという無名のプレイヤーだった。無名、と言っても皆様ご存じの通り、後に東のLoda、西のzsmj、北のAZEN、と並び称される事になるmorp使いであり、また、2011年にはただ1人の力でBHをtoppick/topbanにまで押し上げるというシーンに大きな痕跡を残した、超一流のプレイヤーである。とは言え、当時のyyfは3carryの練度の面でkingJに大きく劣り、kingJに比べて得意キャラが狭かった事もあり、一時的にLGDは少し弱くなってしまう。

そんな主要メンバーの移籍後も、LGDは自らが完成させた3 carryを実直に続けた。そして、1つの例外を除いて勝ち続けた。そのただ一つの例外こそが、kingJの移籍先であるEHomeである。そして、EHomeは、明かな強度を持ってLGDの3 carryを鴨にした。その鍵は、後衛力にあった。

EHomeの後衛には、820というプレイヤーが居た。元々は総合型のチームリーダーだったが、carryや前衛でプレイして、黄金時代のLGDに負け続けていた。かつて2009を擁したEHomeは無敵時代とでも言うべき、黄金時代中の黄金時代を築いた。その2009流出後に中心プレイヤーとなった820は、2009に遠く及ばないプレイヤーという評価だった。LGDとの勝負では序盤から精一杯頑張るものの、結局は3carryの重い一撃により壊滅して負ける、という負けパターンを繰り返していた。

その820が後衛に下がり、状況は一変した。完全なる後衛プレイヤーに転身した820の後衛力は前人未踏の凄まじい力を持つに至った。LGDの3carryを支える後衛は、820に遠く及ばない力しか持たなかった。820の後衛力によって紙一重の所で僅かな差が付き、LGDの後衛は3 carryを支えきれずに敗走し、堀を埋められたLGDの3carryは崩壊した。

他のチームの後衛がLGDを止められなかったので、メタ勝ちとまで書いてしまうと語弊があるけれど、「820クラスの後衛が居る世界的な強豪」を相手にすると、3carryの「15分間ファームします。20分から動きます」という遅さは致命的なものだった。820の後衛転向と、kingJという3carryを知り尽くしたプレイヤーの移籍によって、「LGDの3 carry」という時代は完全に終わってしまった。

当時の820が流行らせたヒーローに、lionとvsが有る。820は必ずと言って良い程lionやvsをpickし、そして勝った。結果的にアジアではlionとvsが日常的にbanされる程に流行りまくった。余談ではあるが、その当時ヨーロッパでただ1人だけ820のスタイル(中国のスタイル)を真似し、相手からlionをBANされるまでの仕事をしていたのがmiGGelである。この時期を境に僕の認識は「AngeLの友人、AngeLのチームメイト」から「ミゲルアンゲル」へと変化する。

kingJという3carryを知り尽くした最強の前衛を手に入れた820は、LGDを圧倒した。そして、LGDは「EHomeに勝てない」という、あまりにも些細で、あまりにも致命的な低迷期を迎えてしまう。さらに、テレポートスクロールの弱体化調整が入り、相手が820であろうとなかろうと、3carryというスタイル自体が極めて不可能に近い状況に陥ってしまった。その上に、EHome無敵時代を築き、LGD最初の黄金時代における最大の立役者であった最強プレイヤーでありチームリーダーであった2009が引退してしまう。LGDはメタ的な面でも、人的な面でも、環境的な面でも、明らかに弱体化してしまった。そんなLGDが、突然浮上する。その鍵となったのが、zsmjルール、というが、「zsmjルール」というLGDの新戦略である。




3carry時代のzsmjは、混戦時のミクロに長けたプレイヤーだった。チームにおける大切な役割を任せるに値するプレイヤーだった。けれども、zsmjに匹敵する「混戦時の卓越したミクロ」を有するプレイヤーは他にも存在した。中国4強は、それぞれのチームが同じレベルのプレイヤーを2~3人抱えていた。LGDだって、2009、kingJ、sharingan、zsmjと、zsmjクラスの正確さを持つプレイヤーは4人も居た。混戦時のミクロという点だけを見れば、zsmjよりも優れたプレイヤーは居るだろう。

けれども、zsmjには他の追随を許さない、スペシャルな才能があった。それが、ラストヒットである。zsmjは、相手の超一流プレイヤーと相対しながらラストヒットを取る能力が、異常に高かった。序盤の1対1レーンにおいて、それは決定的とも言える能力だった。そしてdota allstarsはご存じの通り、ラストヒットゲームである。かくして、LGDはzsmjのラストヒット能力を最大限に活かす戦略へと辿り着いた。

シーン最高のラストヒット能力で序盤から稼ぎまくり、さらにまとまったクリープを全てzsmjに食べさせる事により、25分で15000~20000gold分の装備を調え、zsmjで相手を殴って全部殺す。それがLGDの新戦略だった。2009とkingJという超一線級プレイヤーの相次ぐ離脱が、その戦略の中心に居たzsmjというプレイヤーの異常さを、さらに引き立てた。

極端な例になると、30分過ぎにアイテムを6枠埋めて靴を売ってDivine Rapierを買って攻めるとか、Divine Rapierを2本作って落として負けるとか、Divine Rapierを作ったものの奪われたのでDivine Rapierを作って取り返して勝つとか、日常的にBKBを売ってBKBを買うとか、そういう事を日常的に繰り返し、LGDはzsmjの名の下に820を乗り越えて、再び黄金時代へと突入した。




そんなzsmjルールのLGDを止めたチームが欧州にあった。

puppy
kuroky
AZEN
パジャキャット
ミラクル

で、ある。dota allstarsシーンをご存じない方にも、約2名を除き、見慣れた名前が並んでいると思う。もしもあなたがこの広い、広い広い、インターネットのどこかの片隅で、うわごとのように「kuroky、kuroky、AZEN、kuroky、AZEN、kuroky、kuroky、kky、k神、kgod、kuroky、kuroky」と廃人のように繰り返している人を見かけたら、その根拠はこの辺にあると思っていただきたい。近寄らず、触らず、そっとしといてあげて欲しい。ppyにしても、pudge、sf、invokerといった一部のヒーローではdendiの後塵を拝するだろうけれど、それ以外の総合力ではdendiを遙かに上回るソビエト屈指のプレイヤーであり、そういうプレイヤーが後衛をやってるからNaViは強い。Lodaパジャミラクルが前衛のチームの後衛にLodaが居たり、ミゲルAngeLリンクの後衛にLodaが居ればそりゃあ強いよ、あなた。





話をLGDに戻す。zsmjルールという、頭おかしいレベルの衝撃は、次第にその勢いを弱めていく。他のチームが離合集散を繰り返して強力になり続ける中で、LGDのロースターは相対的に弱体化し続けた。また、「zsmjはアイテムを6つしか持てない」というzsmjルールの致命的な欠点は如何ともしがたく、泥仕合に持ち込まれると脆かった。いくらzsmjと言えども無理があった。kingJ後に加入したyyfも世界的な名声を得て栄転して行き、LGDはzsmjルールを棄てて尚、zsmjという伝説的プレイヤーへの依存度を高めてしまい、どうしようもない程に勝てなくなった。中国4強からの転落が現実のものと成りつつあった。そんな中、遂にzsmjはモチベを失い引退し、LGDは最後の世界的名手までをも失ってしまう。

zsmjの離脱により、中国四強落ちは確実かと思われたLGDはその後、何度目かの黄金時代へ突入しDKやiGを向こうに回してタイトルを獲りまくる事となる。チームが弱体化して強くなる不思議なゲームがdota allstarsなのである。






書き逃してしまったので、ここで。
zsmj最後の時代に、それは起こった。

zsmjがradを作る為に10分過ぎにレリックを買う。そこに相手が殺到し、ペットは殺され、レリックを落とし、破壊されてしまう。相手はzsmjが10分前後にレリックを確実に買ってくると分かっていたので、シークレットショップにbeamのグレーターホークを張り付け、レリックを買った瞬間にそれを殺してしまったのである。この出来事により、dota allstarsに1つのfixが入る。ペットを殺すとチーム全員にボーナスゴールドが入るのと引き替えに、ペットはアイテムを落とさなくなった。そして、アイテムを所持したままで、一定時間後に自陣に再び蘇るようになった。それと同時に、ペットの無敵化も消えた。

zsmjルール - ペットを殺してもアイテムを落とさない。で、ある。

この変更により、臍を曲げたマナーのマの字も無いプレイヤーが、ペットを買いまくって相手に向かって投げまくる(相手はチームボーナスゴールドを得まくる)、という糞ゲーに出くわした方も多いだろう。pudge(dota player)がストリーム放送中に味方と仲間割れしてペットを投げまくられながら罵られ続けて負けた挙げ句、次の試合でペットを投げまくったプレイヤーが敵側としてマッチングされ、そのペットを投げまくったプレイヤーに無双されて負けて必死で「みんな、レポートしてくれ」とか言いまくりながら不貞寝落ちして行くのを見た時は、抱腹絶倒せつなさに包まれた。おかげで、ペット回りはさらに改悪が入る事になるのだが……。





結局の所、無敵化が無くなったせいでペットを殺されてしまったり、TPの詠唱時間を読み違えてTP発動前にキャンセルしてしまったりした際には、LGDやzsmjのことを思い出して「fuckこれは俺のせいじゃねえ、悪いのは俺じゃねえ中国人めが」と小さく呟くのが、dota allstarsの正しいたしなみかたなのである。記憶を頼りに書いたので色々と自信が無いけれど。

vs_pre820_af820
システム面にルールを2つ(厳密に言えば1つ)残したzsmjに対して、zsmjに勝るとも劣らない820という人は何か残さなかったのかというと、そうでもなくて、vsのヒーローネームが820になったりしたり。