プロゲーマーとeSports playerは違う。

車の運転を職業にしている人は大勢いる。
けれども、真剣勝負をしているのはごく一部のドライバーだけだ。







ビデオゲームにも同じことが言える。

動画配信という広告媒体の隆盛により、ゲームで収入を得られる環境が整った。WoW、diablo3、LoL、dota2といった配信に適したオンラインゲームとその配信者の登場は、ゲーム配信を視聴する人々の裾野を少しずつ拡大させ続けてきた。未だに視聴者一万人といった小さな規模ではあるものの、生活していくに足りうるだけの収入を得られるようになった。

既に、一部の有名配信者はビデオゲームをプレイする事だけで生活している。たとえば、krippという動画配信者がプレイしているゲームは、patch of exileというディアブロ2クローンゲームと、Hearthstoneというカードゲームであり、どちらもEスポーツとしてプレイしているのではない。ただゲームを遊ぶ、楽しむ、配信する、それだけで稼いでいる。

それを見る人が大勢居るというだけで収入を得る事が出来る。youtubeにアップロードした動画が1000再生で1ドルになるのと同じように、有名な動画配信者になって十分なアクセスを稼げれば、ゲームを遊んでいるだけで金儲けが出来る。プロのゲーマーとして、ゲームをプレイするだけで暮らしていける。ゲームセンターCXの有野係長みたいなものである。








では、有名なゲーム動画配信者になるにはどうすればいいか。

お笑い芸人として無人島生活で名を上げるというのは、いささか難易度が高い。最も簡単で、最も手っ取り早いのは、Eスポーツで活躍することだ。LoLやdota2で世界最強のプレイヤーになれば、それだけで一万人の視聴者が保障される。賞金のかかった真剣勝負の場で勝利を収めることは、もっとも困難でありながら、最も簡単な、手っ取り早い売名手段なのだ。

dota2最大の配信者であるdendiは、マイクオフで動画を垂れ流すだけで1万人、喋れば2万人、大会前は10万人という化け物配信者だが、dendiがそこまでの動画配信者になったのは、dota2最強のプレイヤーという看板を3年もの間、常に掲げ続けてきたからだ。

前述のkrippにしても、視聴者を増やしたのはdiablo3 ハードコアモードの早解きがきっかけであり、当時は開発がクリアに賞金をかけていた事もあって、Eスポーツ的な傾向を持つプレイヤーだった。ゲーム配信で成り上がる為には、強さこそが最大の武器である。




けれども、強さだけが有名配信者になる唯一の道ではない。

十分なトークスキルがあったり、他の売名手段を所持しているならば、それを武器にして有名配信者になることが出来る。ゲームをプレイするだけで生活する、広義のプロゲーマーになる事が出来る。ゲーム配信者として生計を立てることが出来る。そして、動画配信はおいしい。ゲーム配信者の方が、Eスポーツプレイヤーよりも稼げる。




なぜならば、Eスポーツというのはチームスポーツだからだ。

Eスポーツプレイヤーが所属するチームは、チームとしてスポンサーを得る。チームとして広告収入を得る。チームとして得た広告収入は、チームに所属するプレイヤーとスタッフに対して、給料として分配される。人件費だけではなく、トレーニングキャンプを行う費用や、練習拠点を運営する為の費用も必要になる。一部の歴史あるボトムアップ型の特殊な大会は、宿泊費や移動費も出ない。それどころか参加登録費まで要る。Eスポーツチームを運営するという業務により、パイは目減りし、さらに切り分けられ、一人頭の取り分は小さくなる。




一方の動画配信者は個人事業主である。

ゲーム配信者が得た広告収入は、全てが自らの取り分になる。チームという組織に中抜きされることなく、全てが収入になる。チームとしての共同練習を行う為の拠点を借りる必要もなければ、トレーニングキャンプや移動費も不要だ。金を稼ぐという視点から見れば、競技者になるよりも、タレントになる方がおいしい。有名人になる方がおいしいのだ。




動画配信者とEスポーツプレイヤーは違うジャンルである。

両者ともにゲームをプレイして稼いでいるという点では同じである。けれどもゲーム配信者とは有名人であり、タレントであり、芸人であり、役者であり、ラジオパーソナリティである。


Eスポーツプレイヤーと動画配信者は多くの例で重複している。兼業である。前述のとおり、ゲーム配信というジャンルでは強さとはイコール知名度であり、勝利こそが最大の自己アピール。そしてタイトルを得ることこそが最も簡単な売名手段なのだ。Eスポーツプレイヤーとして戦い続けながら、動画配信者としても大成功を収めたdendiのようなプレイヤーが居る一方で、動画配信に現を抜かして凋落したChuaNのようなプレイヤーも居る。







Alexei Berezinというロシア人プレイヤーは、そんな時代の仇花だ。

"Solo"というハンドルネームで知られた彼はかつて、一流のEスポーツプレイヤーであり、マイナーな動画配信者だった。そんな彼が一躍有名となる事件を起こす。Soloはオンラインギャンブルサイトで自らの所属するチームの敗北に現金を賭け、チームを意図的に敗北に導き、それによって322ドルの収入を得る。しかし、それが世間に露呈してしまう。




Soloは悪い意味で時の人となった。

一介のマイナーなEスポーツプレイヤーでしかなかった彼は、一夜にしてロシア人としては最も有名なdota2プレイヤーになってしまった。彼の起こした事件は「Eスポーツ」という怪しげな舞台で繰り広げられた醜悪なスキャンダルとしてセンセーショナルに報道され、一般のニュースサイトでも記事になった。所属していたチームからは契約違反を理由に解雇され、事件を起こした大会からは永久の出場停止処分を受けた。失意のsoloは、「ゲームだけが人生じゃない。」「Eスポーツに未練はない。」と悲しげな捨て台詞を残し、dota2シーンを後にした。






ところが、話はこれで終わらない。

自らの敗北に現金を賭け、わざと試合に負ける事で一夜にして322ドルを不正に稼いだSoloは、その事件によってEスポーツプイレヤーとしての契約を失い、ゲームをプレイするという収入手段を失った。しかし、事件によって様々なウェブサイトからインタビューを受け、センチメンタルで悲しげな、人間性あふれる彼の発言が長々と取り上げられ、「322」という言葉が所属チームを敗北に導くプレイに対するネットミームとして流行した事などにより、Soloの動画配信の視聴者は桁が一つ、いやそれ以上に増加した。

もはや競技者ではなくなったSoloは、様々な流行りのゲームに手を出して動画配信を行うようになった。彼は、あるゲームでは一向に上達しないおもしろ初心者であり、またあるゲームではみるみる内に上達する高いプレイスキルを持った新規プレイヤーであり、そしてまたあるゲームでは、並大抵のEスポーツプレイヤーでは太刀打ちできないプロ顔負けのアマチュアであった。

これまでは競技者としてのトレーニングに費やしていた向上心を動画配信に注ぎ込み、喋りながら真面目に様々なゲームの配信を行い続けた結果、多種多様なゲームのファンを取り込んで、彼の動画配信は雪だるま式に巨大になった。

「かつてはロシアを代表するプロ選手であり、前衛プレイヤーとして鳴らしたSoloが、後衛として、今日dota2をインストールしたばかりのあなたをサポートします!」といった企画配信や、「3秒のラグもなんのその、北米サーバーに殴り込み!(当然ボコられる)」といったネタ企画を矢継ぎ早に繰り出した結果、dota2を知らない視聴者や、英語圏の視聴者までをも惹きつけて、視聴者数は遂に一万人を突破し、ロシア最大のゲーム配信者の一人にまでなった。

Soloは職を失う八百長賭博事件によって所属チームを解雇され、dota2シーンからは追放され、失意のどん底に沈んだが、その僅か三ヶ月後には、Eスポーツプレイヤーであった頃よりも多い収入を得る、有名動画配信者に変貌していた。






ロシア最大のdota2配信者になったSoloは、さらなるサクセスを手に入れる。

Soloが連日連夜の動画配信で得た知名度と視聴者数に目を付けたVPというEスポーツチームが、Soloをチームに加えたのである。VPは、VPドリームチームと言われるほどの補強に成功し、日の出の勢いでロシア最強のチームへと伸し上がる最中であった。Soloはかつて解雇されたチームよりも、はるかに強く、はるかに可能性のあるチームに加入してしまったのだ。

Eスポーツチームは強いプレイヤーを所属させたい。けれどもEスポーツチームは、スポンサー収入で運営されている。チームが大会で優勝しても、その賞金はチームにではなく、プレイヤーに入る。強いプイレヤーを所属させたいのは当然ながら、有名なプイレイヤー、世界中の注目を得られるようなプレイヤーを獲得したいのだ。スポンサーに対して、膨大なページビューや多くのメディア露出をアピール出来る選手を獲得したいのである。そして、八百長賭博事件を経て世界有数の動画配信者になり、魔が差して全てを失った男が改心をして再起を図るというストーリーをも手に入れたSoloは、強さと知名度を兼ね備えた特別な人物だった。


Soloは八百長賭博事件の舞台になったStarLadderという大会からは永久追放されたものの、その他の大会からは追放されていない。さらに、StarLadderの追放処分も一年間の限定追放に減刑されるなど、シーンを揺るがす八百長賭博事件の結末は、Soloの大勝利という意外な結果に終わってしまったのである。