感謝をすると気持ちいい。
人は、感謝をすると気持ちよくなる生き物である。
もちろん、感謝をされた際に気持ちよくなる事もある。けれども、感謝された際の快感は、必然ではない。本来ならば費用が発生して然るべきサービスを提供した際に「ありがとう、本当に助かったよ」などと言われたところで、果たして気持ちよくなるだろうか?その感謝が真の感謝であり、心がこもった誠実な感謝であったとしても、感謝される側は、時として、違和感を抱いたり、不愉快になったり、心に傷を受けたりする。感謝という行為には、行為の搾取が伴ってしまうのだ。搾取の対価として支払われる感謝の言葉。感謝をされる側にとっての「ありがとう」とは、何かを搾取された事を証明する、搾取者からの捺印でしかない。
対称的に、感謝をする側は必ず気持ちいい。
「ありがとう」を言うことは、搾取の成功を意味し、「ありがとう」の言葉は勝利を意味する。誰かから、なんらかの行為の搾取を行った上で、その勝利の証拠の記念の首級として、「ありがとう」が発せられる。感謝の言葉を誰かに対して投げる時、必ず何かを手に入れている。重い荷物を持ってもらったり、欲しいものを買ってきてもらったり、何かを貰ったり、相談に乗ってもらったり、そういった行為の対価として支払われるのが、感謝であり、「ありがとう」なのだ。故に、ありがとうとは快楽である。誰かから何かをむしり取り、その対価としてただ頭を下げる、ありがとうと言う、感謝をしている表情を懸命に作る、それで終わりである。何かを手に入れて、対価はただの「ありがとう」である。これに快楽を覚えない人間はいない。
ヒトという、決して強くはない生き物は、その社会性によって現在まで命を繋いできた。長い年月の中で、「適切に他者から何かを奪えない無能者」は、物が尽きて、助けが尽きて、食べ物が尽きて死んでいった。現代にまで生き残ってる私達は、淘汰を生き抜いた優秀なヒトである。他者から何かを奪う能力を持った、優秀な個体である。その能力こそが、他者への感謝なのだ。誰かに感謝をし、何かを搾取する。空腹を満たす食べ物を、無害な飲み物を、安全な住居を、他者を利用して手に入れる。その為の道具こそが、他者への感謝であり、感謝の言葉なのだ。感謝出来ない人間は、食料や住居、あるいは衣服を得られず死んでいった。感謝を表明出来る人間だけが、食料や住居、あるいは衣服を手に入れ生き延びた。他人に感謝をする能力を持たない人間は、長い歴史のどこかで死んで行った。ありがとうを言えない個体は子孫を残せず死んでいった。人類にとっての「感謝の言葉」とは、セックスと同じようなものだ。子孫を残すには必須の行動だった。故に私達には、感謝の言葉がセックスと同じくらい、あるいはそれ以上の快楽として染みついている。感謝をする事は搾取を意味するが故に気持ちよいだけではなく、感謝によって気持ちよくなれる脳を持った人間だけが生き残ったのだ。だから私達はにこやかに笑い、頭を下げて、さも感謝している表情を作って感謝し、ありがとうございましたと平気で言う。その言葉は、搾取を意味する。他者から何かを奪い取り、その対価としてありがとうの札束で頬を張っているだけにすぎない。
感謝とは、搾取を意味する。
他者からの、強奪を意味する。
そして人の欲望には、際限が無い。私達は、常に、誰かから何かを奪い取るチャンスを探している。誰かから何かを搾取出来る好機をうかがっている。それを見つけるや否や、強奪し、搾取し、奪い取り、感謝の言葉を突きつけるのだ。そして、気持ちよくなるのである。何かを手に入れる事は快楽である。即ち、感謝とは人が持つ根源的な快楽なのだ。それ故に私達人類は、自らが気持ちよくなる為に、感謝のチャンスを探し続ける。職場で、家庭で、友達同士で、あるいはインターネットの世界でも、感謝のチャンスを探し続ける。誰もが「ありがとう」を言う機会を求めて彷徨っているのだ。「ありがとう」を言い放つチャンスを虎視眈々と狙い、そのチャンスを見つけるや否や巧妙に感謝の体勢へと持ち込み、感謝感激雨あられ、ありがとうを解き放つ。快楽。セックス。それはまるでインターネットセックス。搾取、強奪、盗難、即ち感謝。人が得られる最大の快楽。
必ず覚えておいて欲しい。
あなたが誰かに「ありがとう」と言うのは、それが搾取強奪を意味する根源的な快楽だからだ。あなたが誰かに感謝されたならば、「ありがとう」と言われたならば、相手に何かを搾取された、強奪された、盗まれたという事を意味する。人は利益を確定させる為に感謝を表明する。気持ちよくなる為だけに他者に感謝をする。見知らぬ誰かを探し出し、何かを奪い、感謝の言葉を投げて快楽を得る。日常の生活の中で、あるいはインターネットの世界で見知らぬ誰かに感謝されたあなたは、誰かの快楽の道具として利用されたのだ。気持ちよくなる為の触媒として、オナニーの道具として利用され、何かを搾取強奪されたのだ。