2018年6月25日月曜日

シムシティに必要だったイノベーション。

あの日、僕等を熱狂と混乱の渦に巻き込んだ、シムシティ4の発売から幾年月。気がつけばシムシティが滅んでいた。シムシティは過ぎ去ってしまった過去のビデオゲームであり、もう二度と僕達ビデオゲーマーの心をときめかせることはない。あの日は遠く、過ぎ去ったのだ。









シムシティが大きな失敗と共に炎上して崩れ落ち、その悲しい結末として開発のMaxisが解散してしまったころ、僕等の前に新しいシムシティが姿を現した。シムシティのクローンゲーム、cities skylinesだ。cities skylinesは、Cities XLが埋められなかったシムシティの幻想で満たされたシムシティの跡地を綺麗に埋めた。それは決して巨大なビデオゲームではなかったものの、人々に愛されるには十分な、シムシティを内包していた。



人々は、Maxisの息の根を止めたシムシティ(2013)と、 cities skylines の両者を見比べてから、一つため息をついて呟いた。「これが僕等が本当に遊びたかったシムシティだ」と。それはもちろん、cities skylinesに向けて発せられた賛辞だった。



顧客が本当に必要だったシムシティ。

いつしかcities skylinesはそんな風に呼ばれていた。





そんなcities skylinesだったが、僕にとっては、からっきしダメだめだった。cities skylinesはシムシティの悪いところを継承してしまっていた。シムシティが30年かけても改善出来なかった致命的な欠点が、そのまま継承されていた。まるで進歩のないビデオゲームだった。



シムシティの最大の欠点。

それは、四角形である。



シムシティでは、全ての土地が四角形のマス目によって構成されていた。その現実離れした四角形の土地という致命的な非現実性を伴う欠点は、終ぞ改善されることなく、シムシティは終焉を迎えた。cities skylinesは、その四角形を継承していた。









cities skylinesでは、曲線の道路を作ることが出来る。けれども、その道路に付随する建物を建設する空間はご覧の有様。全て、四角形である。こんな馬鹿げた話は他にない。現実世界の土地は四角形ではない。鋭角な三角形だったり、不思議な多角形だったり、半円形だったり、複雑な曲線に包まれていたり。

だからこそ、僕等は30年もの間シムシティをプレイし続けながら、四角形ではない土地を待ち続けた。四角形ではないシムシティを待ちわび続けた。現実世界と同じように、どんな形状の土地にも、その形状に応じた建物が建つシムシティを、待ち続けた。けれども、その夢は叶わなかった。少なくとも、2018年の段階では、あのcities skylinesをもってしても、シムシティはマス目に支配された、四角形の、現実離れした非現実的な、子供だましのビデオゲームだった。

だから僕等は、cities skylinesで曲線の道路が敷けるようになったって、札幌や京都みたいに退屈な、碁盤状の都市を造ってしまう。本当は曲線に彩られた小粋な郊外や、海岸線の曲線を綺麗に取り入れた美しい町並みを作りたいのに、なんの面白みもなく、非現実的な、マス目に支配された都市を造ってしまう。ゲームの仕様に誘導された、特定の長さの長方形で、マップの端から端までを埋め尽くしてしまう。

曲線の川や、複雑に入り組んだ海岸線は、都市建設の障壁でしかない。マップの全てをゲーム仕様の長方形で埋め尽くし、杓子定規に完全に計画された碁盤都市をつくりたいのに、地形はただそれを妨げる。本当ならば僕等の想像力を駆り立てるはずの美しく曲がる河川や入り組んだ海岸線、あるいは隆起した丘や山は、ストレスの原因にしかならない。テラフォーミングして、全てを平面にしてしまいたい。そして碁盤都市を建設したい。僕等はずっと、ずっと、そう思い続けながら、シムシティをプレイしていた。SFC版のシムシティの時点でもう既に、海は都市建設の弊害でしかなく、海の少ないマップIDが雑誌や項略本で共有されていたし、あまつさえ、都市が拡大したボーナスで海面を埋め立てる事の出来る埋め立て地までもがアンロックされた。30年も、30年もの間、シムシティはずっとそういうゲームだった。









「そんな風になったって、直線の道路の方が土地効率が良い」



みたいな反論はあるだろう。

確かに、道路を少なくして建物が建つ空間を増やす為には、ゲームの仕様に先導された長方形で埋め尽くされた碁盤都市が一番効率がよい。道路の面積を可能な限り減らせる、これまでのような碁盤都市が最適解である。けれども、違うのである。

僕等は、道路の少ない都市を造りたいのではない。無駄な土地が存在しない都市を造りたいだけなのだ。せっかく存在する土地なんだから、全てを有効活用したいのだ。そして、道路というのは、無駄な土地ではない。僕等は、道路を造りたいのだ。橋を造りたいのだ。だからこそシムシティをやるのである。そんなに道路いらないよって言われても、小洒落た円形の道路を造りたいのだ。パリみたいな道路、教育用玩具みたいな三角形や四角形、円形が不思議な間隔で並んだ道路、あるいはナスカの地上絵みたいな道路。素敵な道路を造りたいのだ。無駄な道路を造りたいのだ。何故ならば、道路は無駄ではないからである。道路とは、道路を造りたいプレイヤーによって、望まれて造られるものなのである。
四角形で埋め尽くすことの出来ない隙間に、建物が建ってくれるだけで、その夢が叶うのである。どんな形状の空きスペースにも、その面積に応じた建物が建ってくれるだけで、僕等は自由にシムシティ出来るのだ。海岸線を目にしても、隆起した山を目にしても、これまでのように憎しみをもってではなく、愛をもって、自らの都市を見つめられるのである。