2004年12月8日水曜日

ししゃも



そんなもの捨てちまいなよ、と誰かが言う。
そんなもの捨てちまいなよと言う誰かに、そんなもの捨てちまいなよと言うとどう答えるのだろうか。とんでもない、これを捨てるなんて。

物の重さは計り手によって変わる。
たとえそれが愚かさの果て、馬鹿には見えぬ衣服であったとしても、重いと思えば重いのであるし、王様にとってはそれを捨てるなどという選択肢はありえない。

当人にとってはかけがえのないものであっても、誰かから見ればガラクタ。万人にとってかけがえのないものなど存在しない。
愛?金?若さ?強さ?時間?思い出?ご冗談を。


では、何?
ガラクタ。
疲れ果てて眠れず、疲れ果てて起きれず。
起きては疲労し、寝てはやつれる。
こめかみとこめかみが万華鏡のようにイガイガを反射させ続ける。
目を閉じてめまい。疲労困憊。
そんなもの捨てちまいなよ。
とんでもない。


強さが欲しい。
宇宙を掌で押しつぶして板金に変え、叩き直して金ぴかの鎧兜をこしらえられるくらいの強さが。そのくらいの強さに金ピカの鎧があれば、能美平野くらいは平定出来るだろう。きっと。

捨てるべきではないと思ったものは何一つ捨てずに来た。
また、捨てるべきものをきちんと捨ててきたつもりである。
ディアブロ2とか、時のオカリナだとか、トラキア776だとか、幻の大地だとか、ぬいぐるみとか卒業文集とか一枚の葉書とか、手紙とか。
僕はそれらを捨てるべきであると思い、強くなるには捨てねばならぬと思い、捨てれば強くなれるのではないかという幻想に縋って捨ててきたわけである。

捨てるべきだと判断したものを捨てると同時に、捨ててはならぬと思うものは一つとして置き去りにせずにきちんと持って歩いてきた。
僕は今も、それらを捨てるべきではないと思う。

捨てる事が捨てぬ事。
捨てぬ事が捨てる事。
そんなもの捨てちまいなよ。
とんでもない。


捨てては成らぬもの、捨てたくないもの、持って行かざるを得ぬもの、持ち歩くべきもの、たくさん、たくさん。
今の僕はあまりにも非力で、僕自身を抱えて駆けるにはだいぶ足りない。
強くならねばならぬ。
とてつもなく強く、強く。
見るもの全てを石か板金に変えてしまえるくらいに。
端から端まで走れるくらいに。