2005年4月21日木曜日

トリプルチーム(5)



何もかもが狂っていた。
2月の14日にはメールが3通届き、1枚はケーキ、1枚はチョコレート、1枚は半裸だった。写真、写真、写真、メール、メール、メッセ、メッセ、声、声、声。

「声を聞かせて!マイクくらいあるでしょう!」
あるわけ無いだろ。
真性引き篭もりだぞ。

「なら買ってあげる!」
STFU。





何故真性引き篭もりなのだ。理解が出来ない。それだけの職、それだけの学歴、それだけの世界、それだけの責務、それだけの容姿というものを手に入れる所まで努力しておきながら、どうしてそこで真性引き篭もりを狙うんだよ。志が低すぎるだろ。
真面目に生きろよ。一度きりの人生だろ。
自分自身の努力に報いる相手というものを探せよ。


何故真性引き篭もりなのだ。理解が出来ない。よろしくやりたいなら、mixiだとかアバターだとかリネージュだとかFFXだとかそういうところへ駆け込めよ。対話機能搭載の穴付きおっぱいとしか見ていないようなのが大勢いるから。
山のようにいるから。
うようよいるから。
対話機能搭載の穴付きおっぱいキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!ってこれでもかってくらいに寄ってくるから。やりたい放題ちやほやされるから。


何故真性引き篭もりなのだ。理解が出来ない。
まったくもって理解が出来ない。
狂ってる。
馬鹿だ。
誠実さの欠如だ。
人生の浪費だ。
腹立たしい。
真面目に生きろよ。
ふざけるな。
幸せにしてあげるって僕はあれか、フェレットか。それともハムスターか。たまごっちか。ピカチューか。ポケットモンスターか。いろんな意味でポケットモンスターか。
お前らはお前らで勝手に幸せになれよ。
他人を巻き込むなよ、他人を。
なんで立派な大人が揃いも揃って中卒無職の真性引き篭もりを必死で口説いてんだよ。頭おかしいだろ。もっとまともなのいくらでも釣れるだろ。行くとこ行けよ。ちゃんとしろよ。幸せは掴み取るもんだろ。いや、掴み取ろうとしているのかもしれないがそれ方法論として間違ってるだろ。もっとちゃんとしろよ。











私の事どう思ってる?
「うざい!」
うざい?
うざいんだ(笑)


「失せろ!」
やだ!
「失せろ!」
やだ!
「消え失せろ!」
やだやだやだやだやだ!!

なんだこれ、一体。
まったくもって、馬鹿げていた。



ねえ!
「?」
なんでもない。

馬鹿げていた。
人にShift+/を押させるだけの労力を要求しておきながら、一体全体何様だ。



一人は4月に来いと言い、一人は5月に、一人は8月に会おうと言った。
それが無理なら12月に、ってどれだけロングスパンなんだ。
「怖がらなくていいから」怖かった。途方もなく怖かった。
それ自体ではなく、その想いが怖かった。








疲れた。
何かに疲れた。
そりゃあ、まあ、疲れるか。
壁紙にして毎日読んでメッセに追われて声聞いて動画見て擦り切れた。





嫌われようと努力してもまったく嫌われないというのは、
好かれようと努力してもまったく好かれなかったこれまでよりも辛かった。


そもそも、本当に嫌われたいのかどうかも疑わしくなっていた。
よろしくやりたいリストのブログは消し飛んで、表彰台には彼らがいた。気がついたら、一番馬鹿で一番愚かで一番強欲な一番平気で嘘をつく女に惹かれていた。何故ならば、僕自身が馬鹿で愚かで強欲で、平気で嘘をつく人間だからである。

僕と彼女に1つの差異があるとすれば、彼女は自分自身の欲望に忠実であったのに対し、僕は正しさに忠実であった。そう、僕を救ってくれるのは正しさのみだ。


世界は格子に仕切られている。
その秩序こそが正しさだ。
人はそれ相応の人生を送るべきである。
まともな大人の社会の人が、真性引き篭もりと夜な夜な話し込むなどは、言語道断馬鹿げてる。








全部やめにしようと思った。
どうすれば終わるのかを考えた。
名案が浮かんで、その通りにした。






「もし連絡してきたら真性引き篭もりを即閉鎖する」
と真性引き篭もりhankakueisuuを人質に取って断絶を告げた。

それだけじゃあ、あまりにも酷いかなと思ったので、1人には頭痛の種類を適当に、彼女が心配しなくて済むようにと実情よりはかなり軽くして書き記した。
1人には好きな本を10冊、検索エンジンでロシア+文豪で検索して出た結果をそのままコピーして、それじゃああまりにも悪いかと最後に1冊英語の絵本を入れて告げた。
1人には好きな食べ物を適当にでっちあげ、きびだんご、胡麻豆腐、刺身こんにゃく、酢昆布、といった絶対に調理不可能なラインナップのあとに、彼女が話の中で今日作って物凄くおいしかったと言った料理を入れて告げた。



「真性引き篭もりを即閉鎖する。」
その効果は絶大だった。
ものの見事に3人皆して足並みそろえて連絡が途絶えた。
綺麗さっぱりと途絶えた。
清々しい気持ちに包まれ、霧散しそうになった。


彼女らが求めていたのは真性引き篭もりというブログでありhankakueisuuというブロガーの独占的所有権なのだ。最初から解っていた事なのだけれど。
もっとはやくに気がつくべきだったのだ。いや、気がついていたのだけれど。




画像を全部削除し、メッセのログを削除し、メールを削除し、綺麗さっぱり身軽になった。受け入れがたい現実だけが残った。


「真性引き篭もりなんか閉鎖してもいいからよろしくやりましょう!」
みたいな展開があるものだと期待し、それに縋っていた僕自身の愚かさと馬鹿さとまぬけさと、唯一たった一つといってもよい弱さというものが憎かった。

3人来たら誰を選べばいいんだろう、といったエロゲーのファーストプレイにおける迷いのような展開は無かった。
荒唐無稽な話の末の、エンディングだけは等身大だった。



馬鹿げたメールで幕を開けた馬鹿げた騒動は、至極真っ当な結末へと辿り着いた。
何も無くしていないのに、喪失感だけが残った。
望んでいた平穏を得たのに、安らぎを手に入れたのに。




一体、なんだったのだろう。
10万アクセスしているサイトを見ると「1人」。
20万アクセスしているサイトを見ると「2人」。
100万アクセスシテイルサイトを見ると「10人」。
そういう偏見の眼差しだけが身についた。



他に得たものは何も無かった。
ゴミ箱復元ツールをダウンロードしてきて、画像や音声ログを蘇らせられないだろうかと色々触ってみたのだけれど、0byteのファイルしか出てこなかった。
デスクトップ画像は元のDOTA allsatarsの読み込み画面に戻った。
DOTA allsatarsのロード画面なんて、もう一生見ないだろうに。





もしも僕がこれまでの人生において一秒たりとも努力を怠らずに生きてきていたならば、真性引き篭もりhankakueisuuなどというブロガーが生まれる事などなく、それ即ちブリリアントな階層の行き送れた人間に付きまとわれる事もなかったという事なのだろう。

もしも弛まぬ気力の果てに、人並みの人生というものを手に入れていたならば、偏差値47の地方の寂れた小さな大学でかすみちゃんブルーに並ぶような青春で、今頃アフィりながらパチスロ攻略サイトを漁っていたのだろう。
寂しさをゲームで紛らわし、よろしくやりたいと思うだけの日々が待っていたのだろう。
彼女らとの接点など無いままに。



それと比べれば、この現実は遥かに幸せだ。
真性引き篭もりなどではないまともな人間とよろしくやっている3人の未来の姿を想像する事が許された今日というものは。幸せだ。間違いなく幸せだ。





いつだってこうだ。
常に僕を突き動かし、摩耗の末に疲弊させ、傷つけ追い立てたのは無償の愛だ。
いや、そうではなくて、無償の愛に見せかけた対価の要求だ。




寂しくなってtfsrcをタイピングして時間を埋めようとしたけれど、それすら2分と手につかず、ブログも書けずに時間が過ぎた。適当なゲームをやっている事にして、数日分の投稿を埋めた。元通りにならねば、元通りにならねばとそれだけを考え、ぐら乳頭と三浦あいかと松山まみを探し出し、なんとかしようとしたけれど微動だにしなかった。なにか大切な物を落としてしまったかのような錯覚を受けた。大丈夫、これは罠だ。巧妙に仕組まれた罠だ。


僕は今して尚、騙されて続けているのだ。
冷静に分析算段し、出た答えは巧妙に仕組まれた罠にハマった一人の馬鹿だ。
常識的に考えればそうだ。とってつけたようなヘルメットを被り大成功の看板を持った3流タレントが満面の笑みで現れる頃合だ。そういう時間だ。
もう、なにがなんだかわからないけれど、どうでもいいや。
陰謀論に時間を貸す奴は馬鹿だ。







少なくとも、僕は間違いなく正しかった。
優先されるべきは正しさなのだ。私利私欲は下の下だ。

もし3人でなくて、1人だったら、とか、もし東京アメリカ東京でなくて、もっと近くだったら、とかそういう問題ではない。僕の正しさが、正しかったという事だけが正しいのだ。

真性引き篭もりhankakueisuuの正しさと、真性引き篭もりhankakueisuuの誤りと、真性引き篭もりhankakueisuuの愚かさだけが僕を癒し、救ってくれるのだ。





ブログを始めてすぐに訪れた冬をまんま覆った三叉の横恋慕は終わりを告げ、賑やかな荒らぶる春が来た。DOTA allsatarsも、他の何もかも、今はもう無い。

残ったのはブログだけ。
だから僕は真性引き篭もりhankakueisuuを続ける。
書ける限りにブログを書き続ける。
それが好いて信じた人を人質に取るという卑劣なやり方で断絶を告げられた彼女らに対して僕が出来る、たった一つの償いでもあるからだ。

残ったものは、真性引き篭もりhankakueisuu一人。