2005年4月21日木曜日

トリプルチーム(2)



またメールが来ていた。

いかにもありがちな女性の名前、フリーのメールアドレス。
昨日までとは別の人。
世も末だ。


その頃、僕のブログは酷く荒れていた。
解りやすい展開だ。

荒れる、暴れる、女を装いメールを寄越す。
インテリジェンスの欠片も無いワンパターンなやり口。

「半角英数さんの文章はとても素敵です」
ワンパターン。
「名前だけでも教えてくれませんか」
ワンパターン。
「無理しないでください」
ワンパターン。


捻りが足りないね、捻りが。
もっと利口なやり口というものを手取り足取り教えてやろうかと思ってしまうくらいのnoobが2匹。

やるならば、勝てる相手を選ぶべきだ。
確実に勝てる相手を選択し、労力をつぎ込むべきだ。
選んだ相手が悪すぎる。
僕はnoobじゃない。proだ。一発だ。見破った。


何通目かで、彼女は唐突に言った。
「私はアメリカ在住です」
lol
ダウト。
なにそれ。
ありがちなワナ。








しばらくして、またメールが来ていた。

ありふれた名前、プロバイダーのメールアドレス、昨日までとは別の人。

本文は一行。
「よろしくやりましょう!」



新しいパターン、新しいスタイル、新しいやり口。
なかなかに利口だが、リアリティ無さすぎ。
送付された2枚の画像にはずば抜けた美人。
ウェブ上で拾ったものだろう。


手の込んだ事をやるもんだ。
とりあえず画像をMyPictureに証拠資料として保存した上でメールは無視。
そんなワナにはハマらない。
その手には乗らない。
馬鹿は相手にすると付け上がるからな。
無視に限る。









数日後、気がついたら僕は3人の何者かとメールをしていた。
僕をハメようとしている奴は一体何人いるんだ?
1人か?2人か?3人か?
わからなかった。


理解できていたのは、僕には敵が大勢おり、僕を罠にハメて遊ぼうとする暇な奴はインターネット上に大勢いるという事実だけであった。その日も、次の日も、また次の日も僕のブログはいい塩梅に荒れており、その荒れ様だけが僕に正気を保たせていた。


そのコメント欄の荒れ様、嘲笑と罵倒が行きかう様こそが、本来あるべき姿であった。
僕の鞄は不完全なサッカーボールでしかなかったし、半径一メートルに近づいたら負けであり、登校する度に鉛筆で大きくバカと書き直された机が常にあったし、事実馬鹿であった。
それは疑う余地の無い真実であったし、紛う事無きナチュラルボーンであった。


悪夢のように思えるが、それは悪夢などではなく、1つの正しい才能であった。
親しげに呼び寄せる声は下水処理場横の水藻漂うドブ川へとランドセルごと突き落とす為のトラップだ。そうやって僕は賢くなった。誰よりも用心深く、誰よりも執念深く、誰よりも汚く、誰よりも4K.Grubby。

その手には乗らない。
これは、ワナだ。
手の込んだワナだ。






何がいけなかったのかはよくわからない。

DOTA allstarsの無くなった日常というものは余りにも暇でネカマの迷惑メールを相手にするくらいに暇だった。相手は僕を罠にハメようとしている悪意のあるネットオタクだから、何一つ気を使わなくてもいいし、ブログの投稿のように推敲しなくてもいい。好き放題、吐き放題だ。その位に暇だった。

彼らのメールを読んでいると、その暇さが一瞬とはいえ綺麗に消費された。
非生産的で無価値な事だとわかっていたが、DOTA allstarsの空白よりは幾分か精神的に楽だった。
1行だった返信メールがやがて2行になり、3行になり、4行になった。


ある時強烈な自己嫌悪を覚えて全て無視してみたら、三者三様丁寧に謝られた。

「読んでくれるだけでいいので、メールさせてください」
ふざけるな。

「お断りだ!」
と返した。

「そんな事言わないで下さい」
と返ってきた。






もう、滅茶苦茶だった。

ブロガーはモテるというのは有名な事実だ。
とあるブロガーなどはチビデブ不細工の狸ブロガーをのっぽのナイスガイだと風説に流布し、寄ってきた女どもを片っ端からハメ撮っては飲み会と称してハメ撮りビデオの鑑賞会を開いているというのは有名な事実であり、WinMXとかでAブロガーシリーズと称されてバンバン流れまくっている。70番くらいまである。けれども、それは極一部の限られたブロガーのみで僕とは無縁の世界の話だ。

真性引き篭もりだぞ。
真性引き篭もり。

じゃあこれは、一体なんなんだ。
僕のメールボックスを埋める色とりどりのメールの山は……わかった。

ワナだ。
答えは1つ。
執念深いネカマのワナだ。




彼女ら、。彼女らは言った。

「切込隊長さんは好きだけど半角さんはもっと好きなの。」
ちょっと待て、おい。
いくらなんでも落差ありすぎだろう。

第一志望イエール州立大学第二希望大阪モンゴリアン馬術大学校(専門学校相当、学費2年で780万円)みたいな瀑布だ。第一志望が仲間ゆきえで第二志望が細木和子かよ。デビ婦人以下かよ。ありえないだろ。もっと中間のよさげな所を狙い撃てよ。F18ホーネットで屋台の射的のキャラメルの的を狙い打つような真似してんじゃねーよ。ちゃんと戦闘機狙えよ、戦闘機。費用対効果を考えろよ。凄まじいまでのoverkillだろ。スライムにミナディン唱えてどうすんだよ。そんなに力を誇示したいのか。何が狙いだ。何が狙いだ。

ワナ、だ。

まったく、困ったもんだ。DOTA allsatarsの無さに耐えかねてヒトフデをクローンしていた時だってそうだ。あいつの配下の旗本の眼鏡デブが迷惑なメールを寄越して来たのに慌てふためき撤収したのだ。コンクリートの鉄壁があればコンクリートの鉄壁ごしに警察呼べば済むのだろうが、こっちは外堀も内堀も二の丸も本丸も畳に立てた業物刀の一本も無い身分であるからして、白兵戦に持ち込まれマウントとられてボコボコだ。しかも3マウント。ほじくりだされた五臓六腑があちらこちらに散らばってんだ。おまけに、バラモスゾンビや能登七星城までもが緑色に染まってやがる。腐ったインターネットだ。どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。どいつもこいつも。

どう考えても。








僕は彼らの罠に見事に嵌り、心安らぐ平穏な日常生活というものを失っていた。
気がついたら、僕は3人とメッセをしていた。デスクトップ画像は、DOTA allstarsのロード画面からメール送付の画像に差し替えられていた。PCの電源を入れなおす毎に、MSNメッセとYahooメッセとSkypeが立ち上がった。

一人が僕にこう言った。
「わかる?貴方が好きなの。」

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トリプルチーム(3)