2005年4月21日木曜日

トリプルチーム(1)



僕は天才であった。
疑う余地の無い天才であった。
けれどもそれは昔の話で、今では凡人に成り下がった。
















>半角英数さんはとても素敵です。
メールが来ていた。
いやあ、これはezだ。

これは、ワナだ。
ちょうどその頃、僕のブログは荒れに荒れていた。
間違いなく、ワナだ。
僕はそんなものに騙されるようなnoobじゃあない。


いかにもありがちな本名っぽいハンドルネームと、プロバイダーのメールアドレス。
10行と少しの文章に、よろしければと言い訳をして返信を求める締めの一文。

僕は賢明であるからして、その意味を一瞬で悟った。
これは、熱心な海外ボツニュースのファンが僕を陥れる為に差し向けた、少し大掛かりだが陳腐なワナだ。その手には乗らない。暇で執念深い海外ボツニュース信者。全てお見通しだ。


適当なメールを返した。
出来る限り適当なメールを返した。

来たメールを丸々引用した返信メールの一番上に、
「ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
と、あからさまに定形文な1行を付け加え、そのまま返信ボタンを押した。

その間、約20秒。
秒殺。なんて強さだ。




1つ想定外だったのは、それに返事が来た事だろう。
返信を感謝する書き出しと20行足らずの文章に、よろしければと言い訳をして返信を求める締めの一文。ワンパターンだ。執念深い奴。


まあ、こういうのはよくある事なのだろう。
海外ボツニュースのような巨大なウェブサイトには熱烈な信者がいる。
その内の1人の狂信的で暇な奴が僕から何かを引き出して貶めようとしているだけだ。

馬鹿は放置に限ると、僕はそのメールを無視した。
なんとなくゴミ箱に放り込む事はしなかったものの、無かったものとして処理した。
気がかりだったのは、メールアドレスがフリーメールのものではなかった事と、その日本語が完璧であり尚且つ美しかった事。だがこれはワナだ。
大学は出たものの就職し損ねたニートか何かの仕業だろう。






それから1週間ほどして、またメールが来た。
そこには、僕がブログに投稿した文章を褒める言葉と、丁寧な考察が書かれていた。
それは幾らかは当っており、幾らかは外れていた。
まあ、どうでもよかった。
適当におだてて誘き出すという作戦なのだろう。
なかなかに悪知恵がはたらく奴だ、とだけ思った。
けれども褒められた事が嬉しくて、ついつい返信してしまった。

返信ボタンを押して、
「ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
とだけ書いて返信ボタンを即押し。

その間、約15秒。
なんて強さだ。
もはや作業だ。






翌日、またメールが来ていた。
けれども僕はそんなくだらないものを気にする必要は無かった。
これは誰かが仕組んだちょっと手の込んだ大掛かりだけど陳腐なワナで、僕の時間と日常を傷つけるのが目的。あわよくば個人情報でも引き出して晒して笑う魂胆なのだ。

そこには、返信が来ると嬉しいのだといった事がおべんちゃら交じりに整然とした日本語で書かれており、それに続いて自己紹介が書かれていた。
そして奴はついに馬脚を現した。


「簡単なもので構わないので、自己紹介お願いします。」
来た。
ワナだ。
真性引き篭もりという生業、hankakueisuuという無個性な、
「IDは半角英数でお願いします」
というブログ登録時の文章から引っ張り出したハンドルネーム。
それを破壊して個人情報を引き出して笑いものにするつもりなんだ。
僕はproだ。noobじゃない。その手には乗らない。


個人情報を要求する行をコピーして、
「お断りします。」
と7文字。

その間、約20秒。
見事な処理能力。





翌日、またメールが来ていた。
まったく、馬鹿な奴だ。
こちらは全部お見通しなのに。

ネカマだろ、ネカマ。
女を装って近づいて、キモい発言を引き出して笑う。
真性引き篭もり、中卒、ブリザドニスタ。
ハメるにはもってこいのターゲットって事だろ。

しかし、その努力は徒労に終わる。
何故なら僕はそんなものにホイホイと引っかかるような馬鹿ではないからだ。
来るメール来るメール、一瞥しては鼻で笑い、1分足らずで処理をする。
その手には乗らない。

長々とお詫びやらブログとhankakueisuuを褒める文章やらが続いたあとで、
「下の名前だけでも教えていただけませんか?」
lol


その行をそのままコピーして、
「お断りします。」

その間、約20秒。
さすがに疲れてきた。






またメールが来ていた。

気になる点は3つに増えていた。
・プロバイダーのメールアドレスである事、
・日本語がやけに美しい事、
・年齢が僕より2回りも上な事。
解せない。

普通ネカマを装うのなら、15~22くらいだろう。
なんでそんなに上なのだろうと、かなり悩んだ。

けれども、ある事に気がつき僕は笑った。
リサーチ、市場調査、敵情視察。
検索エンジンでララ+フリン+ボイルと打ち込んでEntr。
35歳、なるほどね。そういう事か。


そのメールには個人情報を問うた事への丁寧なお詫びの言葉と、うんざりする程に続くブログの投稿を褒めながら解説する文章が書かれており、「メッセでお話しませんか?」。


その行そのままコピーして、
「お断りします。」

その手には乗らないってば。
メッセのログを晒すんだろ。
僕は馬鹿じゃない。

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トリプルチーム(2)