2005年6月18日土曜日
アイアンマイク
体中の水分が干上がり流れ、大掛かりに寝入られず、強く頭を掻いていると頭皮がこそげ落ち腹が痒い。股が痒い。蒸し暑い。
不潔がむれている。
湿度は途方もなく高いのに、それを体に取り込んで、潤い癒す事など出来ない。
日は高く、重心は低い。志はアンフィールド。血も涙もないビロードの滑らかなゴール。
笑えばいい。
強く笑えばいい。
強い。
今が最も強い。
強い雨と、強い日差し。
そして、男にとっては最も強い曜日。
それは強さではない。
それは、弱さだ。
あまりにも。
けれども強い。
梅雨は強さの頂点だ。
強さとは何か。
それは、苦痛だ。
苦痛に耐える根性でも、苦痛を与える言葉でもなく、苦痛そのものだ。
それが強さだ。
強い雨と、強い日差し。
強さと強さが衝突をする。
戦い。鮮血。ゴムの靴。
水色の血溜まり。
随分長くアスファルト。
もう面影は何もない。
蒸し暑い朝と夜とを間違えて、雀が叫ぶ不愉快さ。
苦痛。落ちろ。
鈍感になった。
感じられない。
瞼が灼ける。
寝足りない。
苦痛を感じる心の粒が、生まれてこの方すり減って、今では立派に空元気。
僕は強いのか。
それとも、弱いのだろうか。
また雀が鳴く不愉快。
苦痛。落ちろ。
駄目なら、眠れ。
少し休んで。ゆっくりと。
すぐに始まる。
眠るなら、今だ。
雀は山にはいない。
里にいる。
どうしてだろう。
おそらくは、逃避だ。
雀は山が耐えられぬのだ。
その苦痛を越せぬのだ。
だから雀は里へ逃げ込む。
人前に出てヒバリを真似る。
野に狐などおらぬのに。
巣も卵も子もおらぬのに。
雀は弱い。
逃げている。
山の孤独に怖じ気付く。
あれでは駄目だ。先はない。
100まで踊るが精々だ。
対して僕は人である。
断じて雀などではない。
怖じ気付かぬし、叫かない。
山も小部屋も平気である。
無論苦痛も感じない。
人里離れて、人果てて。
果たして僕は雀より、幾らかくらいは強いのだろうか。
苦痛。それは強さ。
雀には苦痛が無い。
「同じく!」
と胸を張るべきか、それとも。
それとも、戦うべきか。
戦う。
ならば苦痛。
少なくとも、雀よりは強い。
太って落ちろ、かすみ網。
血が流れる。
流血の惨事。
左心房が血まみれだ。
青水色の砂時計のように、ざらざら緩慢に落ちてゆく。
水分が足りない。たまねぎが足りない。FF3かテンテンか。
どろどろの血。汚い血。
汚れてしまった岩清水。
汚さは敗北である。
敗北は苦痛である。
指先にまで達した体の、受け入れ難い苦痛である。
残念なことに。
残念なことに指先は汚れている。
ほこりまだらのキーボードと同じくらいに。
今は信じたい。
心臓から流れ出る血だけはまだ、汚れておらぬと信じたい。
確かめる術はない。
信じるしかない。
信じるは弱さだ。
弱さは苦痛だ。
とすれば、どちらだ。
一体、どっちだ。
昔よく、ノートのページを細くちぎって紙縒りにし、先を曲げて耳垢を掻いた。耳掻きをシェアするという不潔さにも、耳垢蔓延る不潔さにも、同じくらいに耐えられなかったからである。上手に耳垢をもぎ取れず、中耳に敗れしおれた巻紙の槍を見る度に、
「汚いものと綺麗なものに分けスキャンするマシーンがあればよいのに」
と、妄想したものである。丁度、空港の金属探知機のゲートのような。
けれども、果たしてどうであろうか。
もしも今すぐ、それを通れば、どのくらいの自分自身が残るのだろうか。
指先まで絡みつく、青く浮き上がった血筋。
睡眠不足のせいであると自己弁護をしたところで、
機械は機械であるからして、聞き入れてくれぬのだろう。
ならば、何も残らぬのか。
まったく、梅雨のせいだ。
いや、耳垢くらいは残るやもしれぬ。
耳垢!
耳垢!
秘書!宗男!
耳垢!
耳垢、秘書、宗男・・・。
おそらく、このフレーズは強い。
書き込み全てを飛ばしてしまうくらいに。
読んだ人の頭の中には、このフレーズしか残らぬだろう。
まあ、それでいいではないか。誰1人として読まぬとしても。いいんだ。
耳垢!
耳垢!
秘書!宗男!
耳垢!
耳垢、秘書、宗男・・・。
弱く笑って、強く罵る。
もうすぐ全部干上がって、暑さ居座る日本の夏。
体中に浮き出る青筋。
内股に、足の甲に、掻きむし爛れた脛の表に。
両の股間から臍に向かって、脇の下から太く、強く。
こめかみから眉頭へ。
こめかみからつむじへ。
こめかみから痩けた顎へ。
こめかみから、白眼へ。
青い紋様、顔中に。
まるで、マイクタイソンの入れ墨。
アイアンマイク、ストロング。
タイソンの血はアイアンの血。
1人で壁を崩壊させる。
熱を持たない冷たい強さ。もう、打てない。
それは苦痛。
戦う苦痛。
戦わぬ苦痛。
積み上げたものを異国に捨てる。
全て失う見るも苦痛。
愚かな言葉を聞かぬも苦痛。
全てが辛い。
今にして思えば、戦わせておくべきだったのかもしれない。
けれども逃げた。勝つなと言ったし、戦うなと言ったから。
だから指図の通りに逃げた。それはダマトがドンキングだ。
聞く耳持たぬは、まことに苦痛。
耳の聞こえぬ眼は苦痛。
空の氷河に消えた声。
アイアン・マイク。
戦いたいなら日本に来い。
逃げられないし、眠れない。
終わりにすべきと思うのだけれど。
80'sは遠い昔に逃げ去った。
もうあの頃は戻らない。
太平洋の向こうの先で、雀百まで水枯れ踊る。
眠らない鉄、眠れぬマイク。
アイアンマイクに瓜一つ。