2005年8月11日木曜日
ドダエフ
ドダエフに夢中だった。
いや、ドダエフそのものだった。
娯楽というものがまるで無く、人生というものに一切の楽しみを見出せていなかった頃、地べたに新聞を広げて読むことだけが唯一許された人間としての時間であった。
そして僕はドダエフをヒーローに選んだ。
なぜドダエフか、というとそれはもう間違いなく、戦争をしていたからだろう。戦争とは何であるかだとか、ドダエフは一体何と戦っているのかなどといった事はまったく解っておらず、ただ戦っているという事だけが重要だった。ドダエフとは単純にウルトラマンであり、ドダエフとは単純に仮面ライダーであった。今風に言うならドダエフとはプリキュアの黒い方だ。
新聞の国際面においてドダエフはかなりのレアキャラクターであり、めったと紙面には登場しない男であった。僕はまず最初にドダエフを探し、ドダエフが存在しない事に落胆してから新聞を読み始めた。その分、ドダエフを見つけた時の嬉しさというのは相当なものであった。
僕がドダエフに託していた思いとは、「日本まで攻め入ってこい」というものだ。全てを破壊してくれるものを求め、その願望を託すに最も最適なリアリティのあるヒーローこそが戦争をしているドダエフだった。
あまり記憶には無いのだけれど、他に戦争をしていた人は大勢いたと思う。
その中でなぜドダエフだったのか、となるとそれはかなりの謎なのだけれどおそらくは、「名前のかっこよさ」というものに惹かれたのだろうと思う。ドダエフ、ドダエフ。
結局、ドダエフは来なかった。
知らない国のドダエフは、知らない国でそのまま死んだ。
新聞には「死亡か」などと4行足らずの記事が2度3度出て、それっきりだった。
僕はドダエフを忘れてドラクエを尊び、保険としてドスタムを選んだ。
思えば僕は「ドで始まる言葉」に弱かっただけの事なのだろう。
ドダエフが死に、ドラクエが死んだ。
ドスタムだけが生き残った。
嫌な世の中だ。