2005年9月19日月曜日

真っ直ぐなボール(10)



台風が来た。
嫌な予感がした。














自分に何が起こったのか知りたいと願った。


彼女の書いた8カ所全てのログを読み続けた。
膨大な量だった。読んでも読んでも減らなかった。減らなかったので繰り返し読んだ。繰り返し読んでも減らなかった。一度発作的にログの一部を削除してしまったのだけれど、すぐにCD-Rから蘇らせた。ちっとも減らなかった。


彼女とのログを読み続けた。
膨大な量だった。彼女だけではいけないと思い、ブログを書き始めてからこれまでの全てのメールログ、メッセログを読み続けた。頭がおかしくなりそうだった。けれども知りたかった。自分に何が起こり、自分は何をして、どうしてこんな事になってしまったのか知りたかった。




けれどもわからなかった。
何一つ理解できなかった。
僕はブログを書き続けた。
WarCraft3を買い続けた。







そうしている間も、新しい文章が方々で次から次へとUPされていった。僕はそれを這いずり回って全て保存し、一つ一つ読み解いていった。彼女は真性引き篭もりhankakueisuuを破壊しようとしていたが、真性引き篭もりhankakueisuuはそんな事では壊れなかった。彼女はコメント欄に現れて真性引き篭もりhankakueisuuを破壊しようとした。もちろん真性引き篭もりhankakueisuuはそんな事では壊れなかった。けれども不幸なことに、僕は真性引き篭もりhankakueisuuだった。







彼女がブックマークするURLを読み続けた。拷問であった。
何が書かれているのかすらわからなかった。体中が腫れ上がった。


彼女が各地に書き残すコメントを読み続けた。許しを請うた。
何をやっているのかすらわからなかった。こめかみから苗が生えてきた。







読み続けた。消えていった。
際限なく、終わりなく、ゴールなんてどこにもなかった。
目標はなく、成果もなく、ログの量だけが増えてった。




これは、どうなったら勝ちなのかと僕は問うた。
問うてはみたものの、答える気力は残ってなかった。
起きて、読んで、起きて、読んで、起きて、起きて、起きて、読んだ。脳が捻れた。










そうしていると台風が来た。
名をカトリーナと言った。
酷い災害だった。
嫌な予感がした。





はてなが義援金の受付を開始した。
僕は目をかっぴらいて硬直した。
叫んだ畜生。FUCK畜生。







カトリーナは全てを奪っていった。
彼女から全てを奪っていった。




カトリーナはまず最初に彼女のドレスを奪っていった。
それだけではない。彼女の耳飾りを、彼女の電車を、彼女の温泉を、彼女の映画を、彼女の音楽を、彼女の任天堂DSを、彼女のドラクエ8を、彼女のWarCraft3を、彼女の全てをカトリーナは奪い去った。


彼女の香水を、彼女のテーブルを、彼女の海を、彼女の山を、彼女の自転車を、彼女の靴を、彼女のSMACを、彼女のDiablo2を、彼女のWarCraft3を、彼女の全てをカトリーナは持ち去った。


彼女のカーテンを、彼女のテーブルクロスを、彼女のグラスを、彼女の時計を、彼女のカメラを、彼女の写真たてを、彼女の幸せの全てをカトリーナが消し去った。





全てカトリーナの仕業だった。
憎い。憎んだ。カトリーナが憎い。カトリーナを憎んだ。きっと目の前にカトリーナがおればまず最初に人差し指で目玉を刳り抜くだろう。そして絶対に殺しはせずに永遠に痛めつけてやる。骨を一本ずつ折ってゆき、治るのを待ってまた折ってやる。まち針を眼球に突き刺して、眼球に突き刺してやる。爪を一枚一枚剥がしてやる。毛を一本一本抜いてやる。指を一本一本折って、歯を一本一本万力でむしり取ってやる。カトリーナさえなければ僕は彼女を幸せに出来たのだ。なのにカトリーナが全てを持ち去ったのだ。カトリーナが憎い。


アメリカ人がどうなろうと知ったことじゃない。
そんな事どうでもいい。ただ僕は彼女が幸せであればそれでいいのだ。
なのにカトリーナはそれを全て消し去ったのだ。僕の耳飾りを、僕の電車を、僕の温泉を、僕の映画を、僕の音楽を、僕の香水を、僕のテーブルを、僕の海を、僕の山を、僕の自転車を、僕の靴を、僕のカーテンを、僕のテーブルクロスを、僕のグラスを、僕の時計を、僕のカメラを、僕の写真たてを、僕の任天堂DSを、僕のドラクエ8を、僕のSMACを、僕のDiablo2を、僕のWarCraft3を、僕の彼女をカトリーナが奪っていったのだ。


僕が彼女にあげたもの全てをカトリーナが持ち去ったのだ。
僕が彼女にプレゼントしたもの全てをはてな義援金が持ち去ったのだ。
悔しい。悔しい。悔しい。憎い。憎い。カトリーナが憎い。カトリーナさえいなければ僕は彼女を幸せに出来たのに。はてな義援金さえなければ僕は彼女を幸せに出来たのに。なんだってこうだ、いつだってこうだ。全部悪い方に行くように出来ている。どうしてなんだ。なぜなんだ。





僕は何の為に生まれてきたのだ。
もうそれを考える事すら出来ない。
なんだってんだ、一体なんだってんだ。
もう駄目だ。こんなもの嫌だもう嫌だ。


彼女がブログを書いて、僕はそれを読んで、彼女がコメントを書いて、僕はそれを走り回って掻き集めて、名前をつけて保存して、読んで、読んで、読んで、読んで、彼女が何かを書いて、僕はそれを読んで、彼女がブックマークをして、僕はそれを読んで、一体これは何なんだ、もうやめてくれ、一秒も耐えられない、なんでこんな事をしなければいけないんだ。どうすればこれをやめられるんだ。何もかもがうまくいかない。なんでなんだ。







僕は彼女を笑わせたくて、彼女の笑顔がただ見たくて、彼女に笑ってもいたくて、くだらないエントリーが好きな彼女に向けてもしも戦国時代にmixiがあったらを書いたらいきなりブロックブログが落ちるんだ。どうしてだ。


はてなブックマークのトップページに表示されればきっと彼女の目にもとまるだろうと思って今か今かと思いつつF5キーを連打してたら、11番目まで上がったところでブロックブログが落ちたのだ。なんでなんだ。なんで全てがうまくいかないんだ。僕はただ彼女に笑ってもらいたかっただけなのに。どうしてそれすら許されないのだ。


46ブックマークも行ったのに一度もトップページに乗らないなんてあんまりじゃないか。トップページに乗れば彼女にだってブックマークしてもらえたかもしれないのに。なんでブロックブログは落ちるんだ。理不尽だ。笑ったのはどこの誰とも解らぬようなインターネッターばかりじゃないか。そんな奴らの為に書いたんじゃないのに。どうしてこんなことになってしまうのだ。僕はただ彼女に笑ってもらいたかっただけなのに。僕はただ彼女を幸せにしたいだけなのに。あまりにも理不尽だ。







もうここはいやだ。
こんなものもう今すぐにでも投げ出したいんだ。
なのにどうしてブログなどというものを書き続けねばならぬのだ。
もう理由なんて忘れてしまった。全部忘れた、思い出したくもない。




ただ寂しいだけなんだ。
ペリカンでもゾウムシでもつつじでもモップでも、もうなんでもいい。下唇を吸わせてくれ。アナコンダでもクズでもハリガネムシでも脚立でも、もうなんでもいい。抱きしめさせてくれ。もうなんでもいいんだ。もうどうでもいいんだ。寂しいんだ。辛いんだ。嫌なのだ。こんなもの嫌なのだ。耐えられぬのだ。ゲームがしたいだけなのに、DOTA allsatarsがやりたいのに。なのにインターネットがあるせいで彼女から送られてくる新たなログを全部保存して全部読み続けなければならないのだ。読まずにはいられないのだ。いつの間にかログインパスワードが彼女の名前になってしまっているんだ。なんでなんだ。もう無理だ。僕にはどうすることもできない。頭蓋が爆発しそうだ。どうこう出来る事態ではない。手に負える範囲を越えている。無理だ、無理だ、もう無理だ。インターネットを止めてくれ。










誰か止めてくれ。
今すぐ止めてくれ。
インターネットを止めてくれ。




お礼ならなんだってする。
真性引き篭もりの異名を譲ってもいい。
だから止めてくれ。誰か止めてくれ。インターネットを止めてくれ。












いつからかはわからないけれど、化け物がいたんだ。
僕が気がつくずっと前から、化け物がいたのだと思う。














その11
全て