プロゲームの曲がり角



ワールドカップはつまらなかった。


世が世なら一行で終わってしまうことなのだけれど、世が世で無いのでそうはいかない。何かを「つまらない」と書き下す時は、では何が面白かったのかを書く必要があるのである。何が面白かったかなんて、少なくとも、僕らはみんな、知っているのに。









ワールドカップはつまらなかった。
退屈で、冗長で、失望だけが残った。
それは、全て予想通りの出来事だった。

では、何が面白かったのか。
それは、ワールドカップ開催前の半年間のWC3プロゲームシーンである。この半年間のWC3プロゲームシーンは、羽化したと書いてもよいくらいに、劇的なものであった。その、シーンの中心を成していたのが、これから触れる3つの大会である。












「stars war 3」

世界中のプレイヤーを集めて、誰が一番強いのかを決めるEスポーツの祭典。
それが、ワールドカップのコンセプトである。
非常に、シンプルでわかりやすいものだ。

一方、「stars war 3」のコンセプトも、非常にシンプルである。
中国、韓国、欧州、それぞれの地域から5名の代表選手を選び、オフラインで戦わせる、地域別対抗戦である。




この2つの大会は、対照的と言っていいほどに違うものである。
まず違うのが、参加選手の人数である。

ワールドカップは、53もの国と地域で予選を行った。それらの代表選手選考予選はほとんどの国で、オンラインでの予備予選を経た後でオフラインで行われており、膨大な人数のプレイヤーが参加し、会場を借りて、スポンサーをつけて、「世界最高の大会の予選」であると宣伝を行い客を入れ、大々的に行われたのである。

そして、53名の選手がフランスで行われた本選に呼び寄せられた。




一方でのstars warはというと、予選は全てオンラインで行われ、その規模も極めて小さかった。欧州予選はstars warの運営が選んだ20名、たったの20名で行われた。しかも、その欧州予選で選ばれるのは、5枠ではなく3枠。

残りの2枠は招待であり、その2枠は、WarCraft3プロゲームシーンそのものと言っても過言ではない4K.Grubbyと、そのGrubbyを直前に行われた大会の決勝戦で打ち破り、2006年度の賞金ランキング一位に君臨する2vs2でのGrubbyの現在のパートナー、4K.ToDに与えられた。

それはシードなどではなく、万が一にも彼らシーンを象徴する世界的名手が予選で消えてしまうことのないようにと、大会運営者が万事に万事を尽くしたものであり、同様の「世界的名手を2枠保護して招待する」という行為は、中国予選でも行われた。(韓国予選でも行われたものと思われるが、確かではない。)

そして、それぞれの地域から文字通り最高のメンバーが選ばれ、合計15名の選手が開催国である中国に呼び寄せられた




世界を代表する15名と地域を代表する53名。
この差は、歴然としたものだった。

ワールドカップの運営は、世界的名手をベスト8に残す為に、1次リーグ、2次リーグと、2つものリーグ戦を用意した。それは、かつて行われた同様の世界規模の大会において、抽選による組み合わせによる純粋なノックアウト方式のトーナメントを採用したが為に、優勝候補の一角と目された韓国人選手が一回戦で韓国人に負けて姿を消してしまったり、優勝候補筆頭と目された選手が早々に消えたり、といった大会を盛り下げる事態が繰り返された事に対する運営側の手の込んだ作戦だったのだろう。結果的に世界的名手をベスト8に残す、という大会運営の目論見はある程度は成功した。

しかし、2段階のリーグ戦を導入した事により、試合数は鼠算式に増え、そこでは、天と地ほどの実力差を持つプレイヤー同士の凡カード、凡試合が延々と繰り返され、リーグ敗退を決まった選手同士の消化試合や、突破が決まっている選手同士の消化試合があちこちで生じ、何の面白みも無いカードがオフラインの巨大な会場で延々続けられるという、惨状が繰り広げられた。




一方のstars warは違った。

出場選手の皆全員が世界的名手のプロゲーマー。凡カードなど、1つも無かった。なによりも大きいのは、ワールドカップのような世界規模の大会では、厚すぎる選手層と相性のせいで、世界的名手が国内予選で消えてしまう事の多い韓国に、5枠が与えられていることである。

この5枠により、stars warは世界の関心を集める事に成功した、と言っても過言ではない。まだ欧州と韓国のプロゲームシーンがそれぞれに距離が在った時代にstars warの第一回大会は開催され、韓国チームは圧倒的な力を世界に見せつけた。その第一回のコリアインパクトにより、stars warは、極めて小規模な大会ながらも、シーンを代表する重要な大会として認識されるようになったのである。

韓国に5枠を与える、という名勝負を生むための単純な解法は、「世界で一番強いのは誰か?」というコンセプトを取るワールドカップには決して取れないものである。stars warは、その小ささにより、それを成し遂げたのである。




ワールドカップは、なぜ巨大化してしまったのか。
ワールドカップは、なぜ巨大化しなければならなかったのか。

stars warは、なぜ小さいままでいられたのか。
stars warは、なぜ小さくなければいけなかったのか。

stars warの話を終わらせる前に僕が書いておきたいのは、そこである。




その違いが端的に現れているのは、双方のスポンサーである。

ワールドカップは、ワールドワイドパートナーであるアメリカのグラフィックスチップメーカー「NVIDIA」を筆頭に、INTEL、SONY PLAYSTATION、マウスで有名なLOGITECH、フランスの楽天あるいはamazonであるFNAC、イギリスのモバイルメーカーORANGE、開催地域であるILE DE FRANCEといった、面々を軸に据え、さらにはMTV、KONAMI、ASUS、LG、NOKIA、NADEO、SEGAまでをもスポンサーとしている。

対するstars warは、台湾のパソコンメーカーGIGABYTEたったの1社である。




スポンサーを集め、大会規模を大きくし、「NIDIA vs ATI」「INTEL vs AMD」「Xbox vs sony」という3つの対立軸を利用してスポンサーから資金を集め、さらに大会規模を大きくしてスポンサーを増やす、という、五輪/WCモデルを取ると決めたワールドカップは必然的に巨大化せざるを得ず、競技種目を増やし、選手数を増やし、参加国を増やし、出来るだけ多くの人の目に触れさせる為に、それらによって生じる弊害の全てを抱え込むことを選択した。

対して、運営母体が中国のウォークラフト3のweb siteである「stars war 3」は、巨大化する必要などはまったく無く、「GIGABYTE stars wawr」と、大会名にスポンサー名を入れ、一社独占とすることでスポンサー獲得と更新に生じる諸費用を抑え、純粋に「盛り上がるイベントを作るにはどうすればいいか」の一点を追求することが出来たのである。




1位 中国 1勝1敗 (11勝10敗)
2位 欧州 1勝1敗 (10勝10敗)
3位 韓国 1勝1敗 (10勝11敗)

中国 vs 欧州(6-4)
韓国 vs 中国(6-5)
欧州 vs 韓国(6-4)

参考までに、Stars War 3の最終結果である。
数字だけでも、素晴らしい大会だったという事がご理解頂けるかもしれない。
(5vs5なのに勝者が6勝しているのは、全員が敗北したチームはファン投票で1人が復活して最後の一人として戦う、という特殊な試合方式を採用している為。)











「Race War」

2つめ。
それが、この、Race Warである。

WarCraft3に存在する4つの種族を代表する3名のプロゲーマーがチームを組んで戦う種族vs種族の大会である。




出場選手は、予選などは無く、全てが招待。
それはベストと言って過言ではない完璧な面子だった。



オーク。

歩く4K.Grubby、4K.Grubby。
Grubby2.0改めGrubby1/10、SK.Zacard。
韓国最後の大物、Lof.Lyn。



ヒューマン。

始皇帝、WE.IGE.Sky。
世界で二番目に有名なブルガリア人、SK.Insomnia。
不可能を可能にする男、4K^ToD。



アンデット。

名勝負製造機、4K^FoV。
蘇った不敗神話、WE.IGE.Sweet。
人類最強のネット弁慶、MYM]Lucifer。



ナイトエルフ。

WarCraft3第五の種族を操る男、Sprit_Moon。
WarCraft3の達人、WE.IGE.ReMinD。
中国最強ブロガー、WE.IGE.suhO。




それは、ワールドカップのベスト16を凌駕する、錚々たる顔ぶれであった。
しかし、この大会は、異色であった。

何が異色であったか。
それは、賞金額である。


ワールドカップは、賞金総額4万ドル。ワールドカップと同じコンセプトを掲げるWCG(2002年にhalenがaoc部門で優勝した大会)に至っては、賞金総額300万ドルである。

(ワールドカップがWCGに比べて小さいのは、ワールドカップ自体がWCGのモデルを模倣したもので、WCGのスポンサーになれなかったライバル企業から金をスポンサーの中核として沿える事で成長してきたからである。優勝賞金はほぼ同じで、1万~2万ドル。)




一方、Race Warの賞金総額は「1000ドル」である。
冗談ではない。たったの、1000ドルである。

賞金総額1000ドルという、すずめの涙のような賞金額の大会が、これだけの錚々たるプロゲーマーを集める事が出来たのか。その鍵は、Race Warの運営方式と、運営母体にある。




Race Warを主催したのは「GG Client」という、p2pツールの配布元である。
このツールは導入することにより、ネットゲームにおけるラグを大幅に軽減するという画期的なp2pツールで、今では、世界中のネットゲーマーから非常に強い支持を受けている。

GG Clientは、韓国vs欧州といった対戦カードにおいて、タイムラグに左右されて思い通りのプレイが出来ずに泣いていた、WarCraft3のプロゲーマーにとっては救世主のようなものだった。けれども、GG Clientは対戦する両者がインストールしている必要があった為に、普及期には対戦相手のプロゲーマーに対して「次の対戦までにGG Clientをインストールしといてくれ」という懇願が方々で見られた。

そんな、夢のp2pツールGG Clientの普及期の最中に行われたのが、GG Race Warという大会である。「GG Client普及の為なら」と12名のトッププロが、一人も辞退する事なく、一同に会したのである。

一同に会した、と言っても、どこかに集まって会場を借りて、客を入れて戦ったわけではない。そう、この大会は、GG Clientを利用して、オンラインで行われたのである。




結果、種族最強プレイヤーと種族最強プレイヤーが、世界中の同じ種族を扱うプレイヤー達の声援を受け、誇りを背負い、戦った。一戦一戦に世界がどよめき、異常なまでの興味をひきつけ、世界中はRace Warの話題で満たされた。一色に染められたと言っても過言ではない。そして、GG Clientは一夜にして、世界中に知れ渡った。文字通り、この大会は大成功に終わった。

この大会に関しては結果は書かない。
all gamers より、それを伝える一文を引用して終わりにする。




>Grubbyは8勝0敗(100%)でした。











「WC3L シーズン9」

最後の1つ。
それは、皆様お馴染み、ウォークラフト3リーグのシーズン9である。

WC3Lは何故、WarCraft3プロゲームシーンで最も重大な大会なのか。それは、WC3Lは長い歴史の中で、少しずつルールを変え、その形を変化させながら、進化し続けてきたからである。

WC3Lはシーズンが終わる度に入れ替え戦を行い、世界中のチームに門戸を開いた。シーズンで下位に沈んだチームは再び予選からの参加を余儀なくされたし、中位のチームは予選を勝ちあがってきたチームとの入れ替え戦に挑まされた。幾多のチームが時勢のあるスポンサーの豊富な資金力を背景に世界中から選手を集めてWC3L予選を突破しシーズンに挑み、その多くは壁に跳ね返されて下位に沈み、勢いを失い、やがては消えて行った。そうして、本当に実力の高いチームだけが、底力のあるチームだけがリーグに残り、文字通りの世界最高峰のリーグが形成された。

繰り返された名勝負は歴史と化してファンの脳内とリプレイサイトに蓄積され、SK gaming vs 4Kings.intelに代表される歴史ある黄金カードが幾つも生まれた。シーズン中はリーグ戦が毎晩行われ、「毎日更新する」というウェブサイトが読者を繋ぎ止める為の第一条件を満たした。シーズンとシーズンの間には、招待選手同士による夢のカードや、オフラインで行われる決勝大会に向けた記事などで、訪問者を繋ぎ止めつづけた。

そしてそのような地道な努力を続ける中で訪れた、韓国オールスターとも言うべきMYMの輝かしき登場と躍進、アジア最強という明確なテーゼを掲げたWE.igeの参戦、GG Clientの普及という3つの出来事が世界の距離を一気に縮め、「欧州リーグ」を目指したドイツのちょっとしたイベントは、主催者の目標をも飛び越えて、誰もが認める世界リーグへと進化したのである。









これら、「面白かった」3つの大会に共通するのは、全てが「純粋なウォークラフト3プレイヤー」のみを顧客として想定しているという点にある。

対して、これまで何度も行われ、その度に「つまらなかった」と書かざるを得ないような失望を受けたイベントは全て、五輪/WC型のモデルであり、いくつもの種目のゲーム大会を一気に開催する事で、スケールメリットを出す、というタイプのものだった。

この二極化は、曲がり角なんだと僕は感じた。
プロゲームは、曲がり角、あるいは折り返し地点を過ぎたように思える。




前者と後者はそれぞれ独立して存在しているのではなく、前者の地に足をつけた運営がファンを増やし、興味を引き、コミニティを固め、それぞれのゲームの面白さを浸透させ、後者はそれらの蓄積を「世界」という名目において一気に刈り取り富を得て、さらに規模を拡大させる。

その拡大した規模のタイトルを取った人間が再び前者の大会へと戻り、日々の勝負を繰り広げ、蓄積されたタイトルホルダー達の名声が、前者のような小規模な大会に人々の注目を引き付け、活性化させ、運営が安定する。

増えつづける後者の賞金額がプレイヤーを引き付け、前者のような小規模な大会には、将来の世界を目指す新たなプレイヤーが流入する。

「おもしろい大会」と「つまらない大会」の両者は、プロゲームの両翼である。












この、韓国SCモデルのような、小さな範囲のゲーマー(韓国で言えば、韓国語の理解出来るスタークラフトプレイヤー)を満足させるという形の大会と、規模を拡大し、世界的イベントとしてスポンサーを獲得できるという形の五輪/WCモデルという、二極化した両者がプロゲームの翼となって、例えウォークラフトとカウンターストライクが完全に忘れ去られる時が来たとしても、プロゲームは僕が昔想像していたよりも遥かに大きな一定規模で栄え続けるのだろう。そのように、思った。
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