僕は「戻るで文章飛ぶ」と勇敢に戦い、そして勝った。もう飛ばない。



なぜ、戻るで文章が飛んでしまうのか。
その原因である。







戻↑進
←↓→



これである。



僕が使っているキーボードは、カーソルキーの周囲に戻るボタンが配置されているという、鬼のような地雷型キー配置であり、はっきり申し上げて、このキー配置で戻るで文章飛ばぬ方がおかしい。


頭の中で出来上がった文章を、誤字脱字も無く、誤変換も無く、タイピングミスも無く、一気に書ききってしまえるような人間であれば、この程度の地雷原はなんのことなく切り抜けられるのかもしれない。


けれども、僕は、誤字脱字けたたましい事この上なく、極限のまぬけさを誇るMS-IMEは意味不明な誤変換という罠を各地に張り巡らすと来たからには、地雷原に囲まれたカーソルキーを多用せざるを得ず、戻るで文章飛びまくる。


僕の戻るで文章飛ぶの、九割方はこのキーボードの謎めくキー配置の所業であり、まったくもって忌々しいにも程がある。







この、不毛極まる消耗戦に終止符を打つべく、幾つかの対策を講じようと思い立った。立ち上がる事を決めたのだ。屈辱の日々を終わらせる為に。長き服従を打ち破る為に。眠れる死屍が遂に目覚めたのである。まず、丁寧に、作戦を練った。壮大な作戦である。敗北は決して許されない。練りに練った。1つ考え、また1つ考え、そうやって、壮大な作戦の細部に至るまでを練りに練り上げた。1つのミスも無いように、完璧で、壮大で、美しく力強い作戦を、無類の精度で練り上げた。その、作戦の、計画は、こうだ。





  1. クリップボード拡張ソフトを導入する。

  2. クリップボード拡張ソフトの導入により、過去にコピーした文章の履歴が自動的に100単位で保存されるようになる。

  3. 「戻るショートカットキー」の内部動作を調べる。

  4. 「戻るショートカットキー」の内部動作を「Ctrl+A-C-l(全て選択→コピー→選択解除)に置き換える。」

  5. 念のため、FireFoxにフォーカスが存在する際のEscキーに、「Ctrl+A-C-l(全て選択→コピー→選択解除)」を設定する。

  6. 文章入力中にこまめにEscキーを押す癖をつけるようにする。

  7. FireFoxでは、Ctrl+lキーが、URL入力欄へのショートカットとして設定されていた事を思い出す。

  8. 誤算、である。

  9. 悲しい気分になる。

  10. 諦めて、開き直る。

  11. こんな、些細なことでめげてはならぬと強く思う。

  12. そういや、FireFoxでは、Alt+←やAlt+→で、フォームの文章を残したままで復元移動するという機能が存在していると、どこかで聞いた事があるのだけれど、僕の環境では復元されない。どうしてだろう。

  13. 日頃の行いが悪いからだろう。

  14. クロウルばっかりしてたからネクレメス様が怒ったんだ。

  15. 悲しい気分になる。

  16. 秋の夜長に1人は辛い。

  17. 1人でないのはもっと辛い。

  18. やっぱり1人がいいんだと思う。

  19. 辛いながらも1人が一番。

  20. 悲しい気分になる。

  21. 人生が飛ぶ戻るキーが在ったとしても、僕は押さない。

  22. 無論の事、進むキーも押さない。

  23. ショートカットはくそっくらえだ。

  24. 一秒、一秒、生きてやる。

  25. 息絶えるまで、息絶えぬまで。

  26. 戻るで文章飛ぶくらい、別にいいじゃあないかと思えてきた。

  27. 悲しい気分になった。

  28. とても。















即ち。
紆余曲折を経て、作戦を実行に移す時がついに訪れた。
今日である。昼下がりである。吉日である。僕は目覚めた。立ち上がったのだ。


まず、PCの電源を入れ、それら、作戦に必要なツールの設定その類、即ち窓使いの憂鬱だとか、ArtTipsだとか、そういった類の物々全てを準備する前に、ふと思いついて、手元の卓上時計の電池カバーを取り外した。


その、取り外した電池カバーで、カーソルキーの左上に配置された「戻るショートカットキー」と、カーソルキーの右上に配置された「進むショートカットキー」を取り外した。


War is Over。
戦いは終わった。