「プログラムがしたくて大学中退した少年、数百億円稼ぐプログラマーに」という表題で、堀江貴文についての記事が書かれていたとすれば、それに違和感を覚える人は少なくないはずです。何故ならば、それらの資産は、プログラムによって築かれたものではなく、起業家としての活動によって築かれた資産であったからです。
その一方で、「TVゲームがしたくて高校中退した少年、数千万円稼ぐゲーマーに=米フロリダ州」という記事が、我が国ではすんなりと受け入れられてしまっています。
まったくもって、忌まわしいことです。
トム・テイラー、メジャーリーグゲーミング、といったプロゲームシーンの熱狂的なファンであるブロガーからすれば垂涎のキーワードを羅列しておきながら、それらがこのような、要点から外れに外れた間違った形で消費されてしまっているのを目にすると、尋常ならざる無念さを感じずにはいられません。何が無念であるかというと、別にプロゲームの事なんて全然書きたくないのにこんな受動的な形でまたしても、プロゲームのエントリーを書くよモードが発動して止める手立てがなくなってしまった事が無念です。僕にとってプロゲームのエントリーというのはボール一杯の生クリームとか、丼一杯の生レバーのようなもので、一度書くとしばらくは欲求が完全に消えてしまうので、こういう完全な受動から書くよモードが発動してしまうと、もっと他の書くよ優先度が高かったプロゲームの話がこの先しばらく書くよモードにならなくなってしまうだろうという無念さです。
まったくもって、忌まわしいことです。
「TVゲームがしたくて高校中退した少年、数千万円稼ぐゲーマーに=米フロリダ州」
という記事は、でたらめです。
まったくもって、でたらめです。
かなりの無理をして、柔らかく言うと誤訳を伴うでたらめです。
どのみち、でたらめです。
Dropout Makes Big Bucks Playing Games
TVゲームがしたくて高校中退した少年、数千万円稼ぐゲーマーに=米フロリダ州
まずは、表題からです。
「TVゲームがしたくて」は、一体、どこから来たのでしょうか?
「数千万円稼ぐ」は、一体、どこから来たのでしょうか?
「少年」は、一体、どこから来たのでしょうか?
これら、原文の表題には存在していなかったキーワードは、翻訳の賜物なのでしょうか?訳者による、妙訳の類なのでしょうか?
いいえ違います。
結論から言います。
全て、でたらめです。
荒唐無稽な作り話です。
まず、仔細からです。
「six figures(6ケタの数字=数十万ドル)」
six figuresが、6桁の数字、という所までは正解です。正確な訳です。
しかし、次が問題です。それは、誰の目にも明らかです。
ライブドアニュースの岩城伸也というこの記者は、six figuresを、"=数十万ドル"としています。まったくもって、誤りです。six figuresは、10万ドル以上を指す単語であり、"=数十万ドル"ではありません。
「TVゲームがしたくて高校中退した少年、"数千万円稼ぐ"ゲーマーに=米フロリダ州」
ご覧のように、岩城伸也は、この単純な誤りを、そのまま表題に持ち込んでいます。
では、トム・テイラーは一体、いくら稼いだのでしょうか。
そして、この、数千万円という誤りは、どこから来たのでしょうか。
Six months after he started gaming full time, he signed his $250,000 contract.
フルタイムでテレビゲームを始めたその6カ月後には、ゲーム関連で総額25万ドル(約3000万円)の契約にサインした。
それは、ここから来たものです。「=数十万ドル」と「数千万円稼ぐ」という2つの誤った文章は、上記の一文から来たものなのです。この訳者は、プロゲームに纏わる今現在の数字(金額)というものを、まったくもって知らないようです。それだけではなく、少し調べれば解るようなことなのに、それを調べる事すらしなかったようです。
トム・テイラーはメジャーリーグゲーミングと25万ドルの契約を行いました。けれども、それは、3年契約です。3年で25万ドルです。
つまり、年額にすると8万3000ドル。
six figuresには足りません。
金額を書いて「稼いだ」と書かれていた場合、"何年で"という但し書きが無い限り、それは年収を意味するのです。もしも、「3年契約でも25万ドルなんだから、数千万円稼いだのは誤訳でもなんでもなく、事実だろ」という言い訳が通るのならば、「TVゲームがしたくて高校中退した少年、数千万円稼ぐフリーターに」というのも通る事になってしまいます。
8万3000ドルと、six figures(10万ドル)の間に横たわる壁。
トム・テイラーはその壁を、どのようにして突破したのか。
次は、それです。
He's earning six figures and has product endorsements and a video game tutoring business.
念のために書いておきます。僕はネットゲームをしている際にチームメイトからnot everといわれて、パニックに陥り、Alt+Tabでウインドウズを切り替えてexcite翻訳とかgoogleとかを駆け巡った挙句PCをフリーズさせるくらいの英語力しかありません。一言で言うならば、英語が全く出来ません。TOTECで言えば670点くらいです。では何故、このようなエントリーを書くに至ってしまったかと言うと、それはメジャーリーグゲーミングを含むエントリーを書くつもりでそれについて調べていたし、トム・テイラーのインタューを機械翻訳を通して読んだ事があったからであり、記事の内容に猛烈な違和感を超えた違和感を覚えたからです。つまり、僕の「誤訳だ」という指摘については、僕の側が間違っている、という可能性もあるという事です。
話を元に戻します。
He's earning six figures and has product endorsements and a video game tutoring business.
テイラー君はほかにも、テレビゲーム商品の推奨やテレビゲームの個人指導などでお金を稼いでいるといい、稼ぎは、「six figures(6ケタの数字=数十万ドル)」規模になるという。
six figuresについては、前述の通りです。
問題は「has product endorsements and a video game tutoring business」です。
「has」をgoo辞書を引くと、「haveの三人称・単数・直説法現在」とあります。初めて知りました。かなりのサプライズです。hasとhaveはだいたい同じらしいです。
いやあ、このブログは実に勉強になりますね。
皆様も、さぞかし、びっくりなされた事でしょう。
つまり「business」という単語が、「それによって収入を得ている」という感じの単語なのか、goo辞書にあるように、「企業/会社」という感じの単語なのかについては自信が無いのですが、原文を見る限り、「彼は、個人指導企業を持っている。」と書かれているように読めます。
「テイラー君はほかにも、テレビゲーム商品の推奨やテレビゲームの個人指導などでお金を稼いでいるといい」という訳文は、まったくもってでたらめ誤訳の類に見えます。
そうです。
そうですも何も無いです。
トム・テイラーは起業家です。
自分の会社を持っており、CEOを務めています。
はてなで言えば、近藤淳也+伊藤直也ーれいこんです。
はてなで言う必要性が全く感じられません。完全無欠の駄文です。
トム・テイラーは名うてのプロゲーマーです。
凡庸なプロゲーマーではありません。
非凡であり、相当な名手です。
そうでなければ8万ドルは稼げません。
けれども「six figures」という条件を加えれば、トム・テイラーをプロゲーマーと言い切ってしまうことには、少しの抵抗を覚えます。そこには、彼が実業家として得た収入が幾らかの割合で含まれているからです。単純にプロゲーマーとして10万ドルを手にしたのではないからです。
トム・テイラーと同時に、同額の3年25万ドルの契約を結んだプロゲーマーが1人いるのですが、AP通信が取り上げたのはトム・テイラーでした。トム・テイラーがウォールストリートジャーナルに特集されるくらいに有名でニュースバリューのあるプロゲーマー兼起業家だったのに対して、一方の彼はただのプロゲーマーであり、自分の会社を持っていなかったからです。
笠原健治や近藤淳也よりもプログラミングの才能に長けた人間は大勢います。けれども、笠原健治や近藤淳也は彼らよりも多くを稼いでいます。トム・テイラーも、それと同じ事をやったが故に、six figuresの仲間入りを果たしたのです。
トム・テイラーがCEOを務めるGaming Lessonsのスポンサーは、高価格帯ヘッドセットで有名なPlantronicsとレンタルウェブスペースの2039 Internetwork。彼は、これらのスポンサーを起業によって得ました。
ゲームのレッスンをネットを介して行い収入を得るというモデル自体は既に存在していたものであり、それほど目新しいものではありません。ただ、家庭用ゲーム機を使用しているという点には、幾分かの新しさを感じます。X-box liveという高品質なネットワーク機能を備えたX-box360、簡単に現金の受け渡しが行えるpaypal、スポンサーを露出する事が出来るWWWという3つの基盤があったからこそ成り立つビジネスであり、随分な所まで来ているのだな、という感想を持ちます。
最後に、もっとも重要であると思う所を書こうと思います。
TVゲームがしたくて高校中退した少年、数千万円稼ぐゲーマーに=米フロリダ州
重ねて言います。
これは、でたらめです。
AP通信によると、テレビゲームをする時間がもっとほしいと言い出して高校を中退した少年が、ゲームの道を極め、すぐにお金持ちになった、と米フロリダ州で話題になっている。
何度でも言います。
まったくもって、酷いものです。
ライブドアでまともなのはPJだけです。
トム・テイラーは、高校を中退した時もう既に、少年ではありませんでした。
では、トム・テイラーは何であったか?
答えは単純にして完結。
プロゲーマーです。
高校を中退したのは少年ではなく、プロゲーマーだったのです。
そうです。トム・テイラーはプロゲーマーでした。
元々、プロゲーマーだったのです。
Event | 4v4 | FFA | Teammates |
MLG Dallas | 3rd (3v3) | -- | Gintron, Killer |
MLG Chicago | 4th | 5th | Legend, McGavin, Mighty |
MLG Atlanta | 4th | -- | Alex, Csquared, Scythe |
San Francisco | 1st | 3rd | Scythe, Slim, Zyos |
MLG Boston | 4th | 1st | Hugo, McGavin, Slim |
2004年度のトム・テイラーの戦跡(Halo)です。
FFAというのは、 free for allの略で、チーム無しの殺し合いです。それで1st、即ち優勝しているのですから、2004年の時点で既に、トム・テイラーは最強の一角と書いてしまっても構わないくらいの非常に強いプロゲーマーであった事がわかります。
Event | Championship 4v4 | Championship FFA | Teammates |
MLG Washington D.C. | 2nd | 9th-16th | Sergio, Tupac, Zyos |
MLG Houston | 4th | 2nd | Defy, Gandhi, Vash |
MLG Orlando | 3rd | 2nd | Fonzi, Foulacy, Karma |
MLG St. Louis | 4th | -- | KillerN, Tupac, Vash |
MLG Philadelphia | 1st | -- | Fonzi, Foulacy, Zyos |
MLG Las Vegas | 1st | 5th | Fonzi, Foulacy, Zyos |
MLG Seattle | 3rd | -- | Detach, Foulacy, Mack |
MLG LA Western CC | 2nd | -- | Cpt Anarchy, Fonzi, Foulacy |
MLG Atlanta Eastern CC | 2nd | -- | Fonzi, Foulacy, Zyos |
MLG Chicago Central CC | 3rd | -- | Fonzi, Foulacy, Tupac |
MLG NY National Championships | 5th | -- | Defy, Toxin, Vash |
2005年度のトム・テイラーの戦跡(Halo 2)です。
ワシントン、ヒューストン、オーランド、セントルイス、フィラデルフィア、ラスベガス、シアトル、ロサンゼルス、アトランタ、シカゴ、そしてニューヨーク。ご覧のように、全米中を転戦して回り、堂々の成績を収めています。もちろん、これらは全て高校に籍を置きながらの活動です。
2002年に始まったメジャーリーグゲーミングは、手にした収入の多くを賞金として放出する事により、ゲーマーと、ゲームファンの関心を集め、巨大なイベントへと進化し続けてきました。その額は創設4年目を迎えた2005年度には、25万ドルでした。そして、時は流れ、2006年度の賞金総額がアナウンスされました。
その額は80万ドル。
前年の3倍以上の金額でした。
そして、トム・テイラーは高校を中退しました。
Event | 4v4 | Teammates |
MLG New York | 2nd | Defy, Fonzi, Foulacy |
MLG Dallas | 2nd | Defy, Fonzi, Foulacy |
MLG Anaheim | 3rd | Defy, Fonzi, Foulacy |
MLG Chicago | 7th | Defy, Fonzi, Foulacy |
MLG Orlando | 3rd | Cpt Anarchy, Fonzi, Foulacy |
2006年度のトム・テイラーの戦跡(Halo 2)です。
ご覧のように、2004~2005年度の戦跡と比較して、飛びぬけて良いわけではありません。
それどころか、ほとんど同じです。
ところが、この記事ではトム・テイラーが高校を中退して時間が出来たが為に25万ドルの契約を結べたような書かれ方、訳さ方をしていますし、この記事を読んだ人達の受け止め方も、全てそういうものでした。(まあ、この点は原文の方にも問題があるのですが、AP通信という通信社は、こういう文章を出してくる所なのでしょう。)
事実は、違うのです。
トム・テイラーが高校を中退したのは、2006年の賞金総額が前年の25万ドルから80万ドルに跳ね上がるという発表の後であり、現在アメリカで生じている全米の若者文化を代表するTV局であるMTVの強力な後押しを受けたプロゲームの発展、そしてケーブルTV局との交渉が最終段階にあるとの報道から、数年前からメジャーリーグゲーミングの看板選手の1人であり、同世代の若者の収入と比べれば遥かに巨大な金額の賞金を獲得し続けていたトム・テイラーは、高校を中退する事にしたのです。
トム・テイラーが3年25万ドルの契約を結んだのは、数年来に渡り交渉を続けていたケーブルTV局との契約が遂に纏まり、レギュラー枠での放映が決定した後の事です。彼が10万ドルの収入を手に出来たのは、メジャーリーグゲーミングのメジャー化、巨大化の賜物です。もしもメジャーリーグゲーミングと北米プロゲームシーンが2005年度以前の規模であったならば、トム・テイラーがどれだけ強かったとしても、それを成し遂げることは出来なかったでしょう。
メジャーリーグゲーミングは、人気・実力・容姿・話題性の全てを兼ね備え、2005年度の時点で既にMTVでの露出があったトム・テイラーにアイコンとしての活躍(Jリーグで言うところのカズのような効果)を期待し、それが3年25万ドルという、前年まででは考えられなかった金額の契約に結びついたのです。
彼が凄いか凄くないかというと、プロゲーマーとしては確かに凄いです。しかし、その凄さはメジャーリーグゲーミング(米国内でのプロゲームの隆盛)に大きく依存したものであるという事を、理解しておく必要があります。
トム・テイラーは作り出された人造スターです。
スーパースターfatal1tyの二匹目のどじょうを狙って。
I think I took the biggest risk I could take,
ぼくは、限度以上の大きなリスクを負って、
「限度以上の大きなリスク」というのは明らかな誤訳でしょう。
「限度以上の大きなリスク」ではなく、「とりうる最大のリスク」ではないでしょうか。
excite翻訳でも「私は、私が取ることができた中で最も大きい危険を冒したと思います。」と出ます。まあ、あまり自信は無いのですが。
I think I took the biggest risk I could take, dropping out of school to play video games, and it paid off.
「ぼくは、限度以上の大きなリスクを負って、テレビゲームをするために学校を中退し、そして報われたのさ」と人生の大決断を振り返った。
この「人生の大決断」も明らかなでたらめです。これはもはや翻訳でも、ニュースでもありません。岩城伸也の極めて低品質な作文です。
AP通信によると、テレビゲームをする時間がもっとほしいと言い出して高校を中退した少年が、ゲームの道を極め、すぐにお金持ちになった、と米フロリダ州で話題になっている。
でたらめです。
岩城伸也です。
作文です。
「ゲームの道を極め、すぐにお金持ちになった」
などと、原文にはどこにもありません。
岩城伸也の妄想であり、作文であり、でたらめです。
上で書いたように、トム・テイラーは既にゲームを極めていました。
この中で何が一番酷いかというと「米フロリダ州で話題になっている。」の一文です。トム・テイラーは確かにフロリダ出身ですが、現在はNY在住であり、尚且つメジャーリーグゲーミングとフロリダは別段の結びつきも無く、フロリダで話題になっている、というのはでたらめ誤訳も過ぎた彼方です。
とどのつまり、この、ニュースでも翻訳でもなんでもないライブドアニュースのでたらめな誤訳は、間違った受け止められ方をしており、それがどうにも我慢がならないのです。
現在、プロゲーマーのほとんどは練習時間を作る事の出来るだけの余裕を持った学生と、学業をドロップアウトした人、学生から変移した専業者で占められており、トム・テイラーのケースは珍しくもなんでもないものです。それはMTVのプッシュに起因する米国内でのプロゲームの隆盛という文脈で読むべきニュースなのです。
また、たとえば、この話を「アメリカンドリームだ」などとやんややんや言っているインターネッターが大勢いるわけですが、これが、韓国人だったらどうだったでしょうか。というか、これまで、散々に、韓国のプロゲーマーの日本語記事がニュースサイトに流れる度に、それらは散々に馬鹿にされ、こけにされ、嘲笑され続けてきたものでした。
ところが、その舞台がアメリカとなっただけで、このように、570度違った受け止められ方をしているのを見るのは、どうにもなんか腑に落ちず、気色の悪さを感じずにはいられません。
結局の所、Eスポーツ関連ニュースサイトを名乗っておきながらこのようなでたらめ記事をなんの注書きも入れずに右から左へ拡散させるに助力した広告とペンギンしかコンテンツの無いようなEスポーツサイトと、多重債務を抱えてマウスを買う金にも困窮した管理人が現実逃避の為に更新し続けているEスポーツサイトは万死に値するのである。だいたいからして、金額見りゃあなんとなく注釈くらいは入れようって気分になるだろう、みたいな感じもするんだけど何故に垂れ流すか。特にペンギンとことかはFPSは畑違いとはいえ守備範囲だろうに、なにやってんだか。
原文(Dropout Makes Big Bucks Playing Games)
トム・テイラーのmyspace.com(注:BGMが流れます。)
about gaming-lessons CEO/Founder of Gaming-Lessons