2007年10月4日木曜日



ぴっぴりり。外壁を突き破って、聞き慣れない歌が聞こえてきて、僕は心を奪われた。しーんと、清んでいる。もう、そんな時期なのかと気がついてしまうと、とたんに肌寒くなり、虫の音で満ちてくる。きっと名月なのだろうと、身勝手に思う。月は何時だって、ちっとも変わりやしないのに。そんなものなのだ。気分一つで。ぴっぴりり、ぴっぴりり。ぴっぴりり、ぴっぴりり。そんな風に鳴く虫は、初めての事だったので、今年の秋は特別なのだろうと、少し心が躍ったけれど、次の夜には跡形もなく消えていた。全神経を研ぎ澄ましても、雑虫騒ぐ雑音ばかり。きっと、彼は、昨日特別にセックスがしたかっただけなのだ。だからあんな風に甘く鳴いていたのだ。この僕とはなんら関わりのないところで。さしたる意味など何もなく。もしもそうでないとしたら、あの歌は、一体何だったのだろう。虫は鳴いても撃たれまい。呆然として秋。今年も夏を見過ごした。