成長するということ。



セールス目標二千万本。米国最強のキラータイトルと化したGrand Theft Autoシリーズ最新作『GTA4』のプレイ動画が配信されていると聞いて、興味本位で覗いてみた。おりしも、ドンパチやっている。マフィア対マフィアの大抗争のようだ。貯水槽の下に隠してあった狙撃銃を手に取り、ビルの屋上から狙撃し始める主人公。








しかし、配信しているプレイヤーは凄まじいまでの下手くそだ。撃てども撃てども当たらない。やっと当たったかと思えば、命中したのは頭ではなく、胸でもなく、向こう脛だった。足を撃たれた敵のマフィアは、「うがー」とみっともない悲鳴を上げながら、足を引き摺り物陰へと逃げて行く。

それを目掛けて浴びせられる精度の低すぎる狙撃。狙撃。狙撃。下手だ。下手糞。下手すぎる。やっとのことで命中させるも、マフィアの手下はまだ死なない。「ぅぉえああぁぁ」と、死ぬに死ねない苦しい叫びを響かせながら、地面を這って逃げて行く。可哀想なマフィア。

BANG!BANG!BANG!ガチャリ。バイオハザードのゾンビのように右手を頼りに這って行く。そこへ浴びせられる銃弾の雨。BANG!BANG!BANG!ガチャリ。BANG!BANG!BANG!ガチャリ。BANG。遂に沈黙するマフィアの手下。しかし、敵はまだ大勢。なんたって、マフィア対マフィアの大抗争。一人殺したくらいでは終わらない。と、ここでTEL。




「もしもし。」

   「おい、ニコか。」


「はい、なんっすか?」

   「よく聞け。ボスが殺られちまった!fuckin!!」


「ええ、マジで?」

   「おしめえだ。ボスが殺られちまったんだよfucking!!」


「そんなぁ。俺いっぱい撃って頑張ったのに・・・。」

   「俺たちはもうおしめえなんだよFUCKING!!」




哀れ、ゲームオーバーである。

速攻コンテニュー。セーブポイントからリスタート。てくてく歩いている。どうやら、ドンパチ会場を目指しているようだ。セーブポイントからドンパチ会場までは、徒歩5分。かなりの距離だ。

そして再び始まるマフィア対マフィアの大抗争。BANG!BANG!BANG!さっきよりは少しマシである。小さな的に命中させる自信が無いのか、腹ばかり狙って撃っている。腹を打たれたマフィアの手先は「うぅぁぁぁ」とか呻きながら蹲り、その場から動かなくなる。これ幸いと撃ちまくるプレイヤー。BANG!BANG!BANG!がちゃり。一人、二人。同じ手法で三人、四人。やるじゃないか。どうやら要領を得たらしい。人間やれば出来るもんだ。

次の標的は、物陰から腕だけ出してマシンガンでめくら撃ちしてくる敵マフィア。的は僅かに出された腕だけ。バン!バン!バン!当たらない。当然ながら当たらない。当たる気配すらない。巻き上がる土煙。消えて行く弾倉。BANG!BANG!BANG!ガチャリ。BANG!BANG!BANG!ガチャリ。当たらない。BANG!と、ここでTEL。




「もしもし。」

   「おい、ニコか。」


「あ、はい。自分です。」

   「よく聞け。ボスが殺られちまった!fuckin!!」


「嘘やん。ええええーーー、なんでまた。」

   「おしめえだ。ボスが殺られちまったんだよfucking!!」


「そんんな、俺超頑張ったのに。それ無いで、正味。」

   「俺たちはもうおしめえなんだよFUCKING!!」





哀れ、ゲームオーバーである。

速攻コンテニュー。セーブポイントからリスタート。ドンパチ会場目指して一直線。懲りない奴だ。徒歩5分を走破して再び狙撃ポジションへ。そして始まる大抗争。BANG!BANG!BANG!一人。BANG!二人。BANG!三人。明らかに上達している。物陰に隠れたマフィアをBANG!これで四人。BANG!さらにもう一人。スナイパー無双状態だ。次々に崩れ落ちる敵のマフィアの手下達。BANG!BANG!BANG!腕を吹き飛ばされて転がり出てくるマシンガン男。BANG!六人。凄い。見違えるようだ。と、ここでTEL。




「はい、もしもし。」

   「おい、ニコか。」


「あ、いつもお世話になってます。ニコです。」

   「よく聞け。ボスが殺られちまった!fuckin!!」


「なんで?まだあれやで。ちょっとしか経ってないで?」

   「おしめえだ。ボスが殺られちまったんだよfucking!!」


「ボス、あれん。防弾チョッキとか無いんか?なあ。なぁ。」

   「俺たちはもうおしめえなんだよFUCKING!!」




哀れ、ゲームオーバーである。

速攻コンテニュー。セーブポイントからリスタート。道を行く老婆を突き飛ばすニコ。何か気に入らない事でもあったのだろうか。虫の居所が悪いみたいだ。そして始まる大抗争。BANG!頭を吹き飛ばされて崩れ落ちる黒人の青年。BANG!きりもみしながらスローモーションのように倒れて行くヒスパニック。BANG!這い蹲って逃げながら動かなくなるカラード。流れる涙。飛び散る血。青春だ。BANG、BANG、アメリカンドリーム。と、ここでTEL。





「はい、もしもし。」

   「おい、ニコか。」


「あ、今日はちょっと二次面あるんで、融通が利かない感じなんですけれど……」

   「よく聞け。ボスが殺られちまった!fuckin!!」


「ありえん。」

   「おしめえだ。ボスが殺られちまったんだよfucking!!」


「ありえんって。」

   「俺たちはもうおしめえなんだよFUCKING!!」
 



速攻コンテニュー。セーブポイントからリスタート。路駐の車の窓ガラスを叩き割るニコ。人様の車に乗り込むニコ。人様の車をhackするニコ。盗んだ車で走り出すニコ。徒歩なら5分の道のりも、文明の利器ならあっという間だ。そして始まる大抗争。銃弾、血、銃弾、血、銃弾、血、そして鳴り響く着信音。




「FUCK!」

   「おい、ニコか。」


「FUCK YOU!」

   「よく聞け。ボスが殺られちまった!fuckin!!」


「SHAT THE FUCK UP!!!!」

   「おしめえだ。ボスが殺られちまったんだよfucking!!」


「STFU!黙れ糞野郎!」

   「俺たちはもうおしめえなんだよFUCKING!!」




セーブポイントからリスタート。叩き割られる窓ガラス。そして走り出す人様の車。所作に一切の無駄がない。流れるような動き。美しい。レディオから流れるラップミュージック。無視される赤信号。そして辿り着く見慣れた場所。貯水槽の下の隙間。屋上角の狙撃ポイント。構える。ズームアップ。狙う。BANG!上手い。一時間前とは比べものにならない精度。BANG!一時間前とは比べものにならない速度。BANG!見事なヘッドショット。BANG!頭を吹き飛ばされて物陰から飛び出るように崩れ落ちるマフィア。BANG!釣り上げられた深海魚のよう。BANG!血飛沫。BANG!血飛沫。凄い。人間、やれば出来るもんだ。BANG!死体。BANG!血飛沫。BANG!血飛沫。BANG!BANG!と、ここでTEL。歩き出すニコ。




「ケータイ。」「ケータイ鳴ってますよ。」「あの、、、、ケータイ。鳴ってますよ?」扉に向かって歩くニコ。階段を駆け下りるニコ。螺旋階段に響き渡る携帯電話の呼び出し音。階段を踏み外して次世代的なモーションでリアルに転げ落ちるニコ。古びたビルディングの玄関のドアが蹴破られた。道、空、車。叩き割られる窓ガラス。hack&run。唸りを上げるエンジン。レディオからは4ビート。そして携帯の呼び出し音。

どこへ行くつもりなのか、アクセルを噴かし猛スピード。全速力で交差点に進入し、トラックと衝突。車から放り出される。立ち上がるニコ。鳴りやまない携帯電話。どちらもタフだ。

ニコが向かったのはハンバーガーショップだった。どうやら腹ごしらえをするつもりらしい。狙撃銃を抱えたままでハンバーガーショップに乗り込む。一直線にカウンターへ。金を払い、ハンバーガーを受け取り、一口で丸呑みにする。体力バーがブルーに変わる。「ファッキン」と叫んで店のドアを蹴る。NYの曇り空の下へ。狂っている。澱んでいる。鳴っている。

目の前の交差点で、カップルを満載した2人乗りのオープンカーが青信号を待っている。金髪。巨乳。上物だ。BANG!血飛沫。悲鳴を上げて逃げ出す運転席の男。そこは俺の席だとばかりに乗り込むニコ。アメリカンなオープンカー。カラーはスカイブルー。幸せそうなニコ。助手席には死体。鳴り続ける携帯電話。フルスロットル。全速前進。ここは自由の国アメリカ。自由の街ニューヨーク。50メートル走ったところで対向車と正面衝突。無惨にも吹っ飛ばされて路上に放り出されるニコ。

そこへ響き渡るサイレンの音。さっきの運転手が通報しやがったらしい。そして鳴り続ける携帯電話。見ている。警官がこちらを見ている。銃を手にパトカーから出てくる。そこを狙撃銃でBANG!物理エンジンに従って、滑稽な挙動で吹っ飛ぶ下っ端の警察官。見事な腕前だ。マフィア同士の抗争で鍛えたスナイプ技術は伊達じゃない。残る一人のポリスメンとスタンディングで撃ち合いながら、一直線にパトカーへ歩く。この男、怖い者知らずだ。豪傑である。まるで呂布。

パトカーは至上の車だ。かっこよくて、屋根がある。対向車と正面衝突しても、路上に放り出されたりはしない。蒼く輝く『NYPD』の四文字。もう何人もニコの行く手を阻む事は出来ない。対向車と正面衝突。ナイフで刺された黒髭のように対向車のドアから放り出された運転手が路線バスに轢かれて血だるまになるのが見える。さすがは警察車両。強い。そしてかっこいい。N、Y、P、D、ニューヨーク市警。

警察無線では訛りのある中年の男が早口で何かを喋り続けている。携帯電話は鳴り続けている。アクセルは踏まれ続けている。バックミラーにはパトカー。サイドミラーにパトカー。右手にもパトカー。左手にも、ミニマップにも。パトカー、パトカー、警察車両。街を埋め尽くす四文字の群れ。

次から次へと体当たりを仕掛けてくるパトカー。またパトカー。アクセルを噴かし寸での所で回避すると、働けなくなった働く車が将棋崩しの山のようにうずたかく積み上がる。5台、いや6台か。山の中腹から、血だるまになった警察官が這い出てくるのが見えた。携帯電話の呼び出し音が鳴っているのが聞こえる。大音量の警察無線がそれをかき消す。

アクセル、アクセル、アクセル。全速力。まるで何かに追われているように走り続けるニコ。愚かにも体当たりを仕掛けては失敗し続ける警察車両。街は1ドットの差異も無いペイントと、同ポリゴンのデコレーションを施された車で埋め尽くされた。そして一台、一台と壁にぶつかり停止して行く。アクセル、アクセル、全速力。まるで何かを追うように。

しかし、遂に一台のパトカーがニコの行く手を阻んだ。そこへ2台目が横っ腹へと突き刺さる。その衝撃で歩道へ乗り上げるニコの愛車。醜く歪む青と白のボディ。もう二度と走ることは出来ないだろう。狙撃銃を手に取り、右を向き、引き金を引く。BANG、窓一面に飛び散る血飛沫。敵は取った。BANG!もう一発。扉を開けて走り出す。BANG、BANG、BANG!血飛沫。革命後の銅像のように取り除かれて行く警官達。BANG、BANG、死んで行く。市警のヘリが、頭上で唸る。BANG!悲鳴。BANG!怒号。BANG!死体。

BANG!血飛沫。ガチャリ!ガチャリ。弾切れのようだ。携帯電話が鳴る。ガチャリ。弾切れである。ガチャリ。狙撃銃を抱えて走るニコ。ガチャリ。頭を抱えて逃げ惑う群衆。警官、パトカー、ヘリコプター。携帯電話が鳴る。ニコは走る。「ケータイ。」「ケータイ鳴ってますよ。」「あの、ケータイ鳴ってますよ?」携帯が鳴る。ニコは行く。