2008年7月1日火曜日

明るい未来が思い浮かばない。



もしも僕が16個の1トン爆弾を小脇に抱えて、高度一万二千メートルをマッハ08で飛べたなら、合衆国大統領は僕を必要としてくれるだろうか。もしも僕が、37キロの彼方から、2トンのバンカーバスターを目標目掛けて正確に投げ落とす事が出来たなら、統合参謀本部は僕を必要としてくれるだろうか。もしも僕が6000キロの彼方まで、飛行機雲も描かずに、誰にも知られること無しに、無補給で往復できたなら、世界平和は僕を必要としてくれるだろうか。








「君では駄目だ。」
「君では駄目なんだよ。」
「君だってわかっているだろう。」
「再考の余地は無い。君じゃあ、駄目だ。」





まず第一に、と彼は言う。

君には信用がない。おまえみたいなのに爆弾を持たせる者はいないよ。そんな男はどこにもいないんだ。俺が知る限り、君ほど信用ならない人間は、世界中の何処にもいない。そんな人間に精密誘導爆弾を手渡して、いってらっしゃいと手を振る人間が何処にいる。おまえは、自分が、マッハ0.8で高度1万2000メートルを飛べるからといい気になっているようだが、世の中はそんなに甘くない。世界というものは、信用で回って居るんだ。「俺にはその能力がある?」バカ言うんじゃねえよ。この世界で一番重要な能力は、信用なんだよ。おまえさんは"不的確"って事さ。それとも、なにかい。あんたは、自分が誰かから信用されるとでも思っているのか?託されるに値するとでも思っているのか。だとすれば、尚更だな。

第二に、君は頭が悪く、心が無い。理解力が無く、飲み込みが悪く、問題を解決出来ない。言い訳ばかりして、肝心な事は何一つ言わない。くだらない事ばかり考えて、しょうもない事ばかりやっている。人の心を踏みにじって、へらへらと、ちょうどそんな風に笑ってばかりだ。確かに、世界は、馬鹿を必要としている。確かに、世界は、心の無い人間を必要としている。君だって、行く所に行けば、welcomeで迎えられるだろう。けれども、だ。俺たちは、心の無い人間を必要としていない。次に、頭の悪い人間はいらない。つまり、俺達は君を必要としていない。お門違いだよ。おまけに、君は、ただ馬鹿なだけではない。ただ心がないだけではない。愚かで、気分屋で、意地っ張りで、軟弱な馬鹿だ。泣いたって変わらない。ここには不要だよ。ここだけじゃない。君みたいなのは、どこへ行ったって同じ事だ。

第三に、君は一人だ。第5世代の爆撃機が一機新造されれば、大勢の人間が幸せになる。みんなが、喜ぶんだ。けれども、あんたじゃあ、そうはいかない。もしも、仮に、君が、32発の一トン爆弾を小脇に抱えてマッハ1.5で空を飛べたとしても、くれてやる金は1円も無い。誰も君みたいな人間を使おうだなんて思わない。いいか。人というのは、他の誰かを喜ばせる為に生きているんだ。まあ、みんながみんなそうじゃあないかもしれないけれど、少なくとも俺はそうだ。そして俺はこう思う。君にその価値はない。君を喜ばせたいとは思わないし、君を幸せにしたいとは思わない。あんたは俺が知る限り最低最悪の人間で、おまえが喜べば喜ぶほど、おまえが幸せになればなるほど、俺は気分が悪くなる。俺は何一つ嬉しくない。俺だけじゃない。誰一人、君の未来なんて祈っていない。

第四に、君は今から死ぬ。君みたいなのが生きていては、迷惑だ。考えてもみなよ。この世界には、16発の2000lb爆弾を小脇に抱えて高度12000メートルをマッハ0.8で飛べる人間なんてものは、必要ないんだ。君みたいなのは、要らないんだ。役に立つとか、役に立たないとか、あるいは安いとか、高いとか、そういう問題じゃない。いやいや、だから、雇うとか雇わないとかそういう次元の話じゃないんだ。おまえの場合は、存在自体が不要なんだ。存在自体が不要なんだよ。生きててもらっては困るんだ。だから君は今から死ぬんだ。




そういうと彼はP239を取り出してこちらに向けたので、僕は慌ててマッハ0.8で高度一万二千メートルを飛んで逃げた。僕は必要とされていない。そればかりか、世界は僕を殺そうとしている。地球上、どこへ逃げたって、宇宙の果てまで追ってくるだろう。僕は、このまま、寂しいままで、見知らぬ場所で賤しく野垂れ死ぬんだ。希望ばかり胸に抱いて、くだらないゲームばかりやって、くだらないブログばかり書いて、音速の壁すら越えられないまま、あちらこちらと逃げ回って、一時も気の休まることなく、やがていずれは捕まって、死ぬんだ。野垂れ死ぬんだ。悲しくて泣きそうになったけれど、毎秒300メートルの風圧がそれを差し止めた。みんな死んでしまえと二度呪ったが、何をする気力も起きなかった。真っ暗闇が、はっきりと見えた。