2012年2月29日水曜日

Eスポーツと4つの視点。

Eスポーツには4つの見方がある。


・動画中継
以前から存在してこそいたものの、StarCraft2あたりで一気に大衆化した動画ストリームによる中継。ストリームによる中継は、かつては画質の面で大きく劣り、「経験者ならば何を起きているかはわかるけれど、細かい数字などは見えない」というものだった。けれどもそれも今は昔。ドッグイヤーの進歩により、「自分のパソコンでプレイするよりも動画中継の方が高画質」という時代が訪れてしまい、ストリーム中継サイトの隆盛と共に一気にメジャーに躍り出た。



・ゲーム内中継
ゲームクライアントを使って見る、リアルタイム観戦。
最大のメリットは、各視聴者が好きな時に好きな場面を見られるという点。


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たとえば、対戦格闘ゲームだと上のような感じで、誰が見ても同じ画面なので、ゲーム内中継は、「実況解説付きの動画中継に劣る」という事になってしまう。(あの実況者嫌い!大嫌い!とかを抜きにすれば。)



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けれども、他のジャンル(FPSやRTS)では「誰が見ても同じ」ではない。たとえばdota allstarsだと、画面に映しだされるのは白い枠で囲まれた画面。それ以外の広大な部分は、画面に映らない。その為に、動画中継では動画配信者が見ていない部分は決して見る事が出来ない。ゲーム内中継では、そのデメリットは完全に消える。好きな時に好きな場所を見る事が出来るってわけ。また、配信者のトラブルや私用で見られなくなる、という事も無い。



・リプレイ
リプレイファイルをダウンロードして、ゲームクライアントで見る方法。リプレイサイトというものがあって、リプレイファイル毎にレーティング機能やコメント欄が有り、人気の試合や評判の試合が一発で分かる。おまけに、クライアントの側で再生速度を自由に変えられる。WarCraft3だと1/2倍速から8倍速まで。どうでも良い場面は8倍で見て、盛り上がってきたら2倍、決戦は等速、正念場は1/2倍速など、視聴者の側で自由に再生速度を変更出来る。



・ハイライト動画。
たとえばイングランドのサッカーなんかだと、実際の試合よりもハイライト番組の方が視聴者数が多い。日本のスポーツでもそれは同じ。ニュースのスポーツコーナーは今も存在しているけれど、野球中継やサッカー中継はテレビから消えて久しい。長くて大量に存在するものを、1人1人の視聴者が自分の力で見る、というのはとても大変で、決して普遍的な娯楽ではない。それはEスポーツでも同じこと。そこで誰かがハイライト動画を作って、それをアップロードする。youtubeならば広告で稼げるので、インセンティブは働いているので結構作られる。



たとえばこれは、iG 対 LGDのFerrari430ハイライト。動画中継で見れば30分以上かかるものが、これだと5分50秒。しかもハイライト動画は人気のリプレイしか作られないので外れがない。普及するのは当然の成り行き。



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こんな感じ。

で、どの視聴環境が一番素晴らしいのか、という事。それはもう、リプレイに決まってる。リプレイ以外にあり得ない。たとえば、先日のcol対Lodaの2本先取。開始予定時間から終了までに4時間。冗談抜きで4時間。ありえないでしょう。たかが3ゲームを見る為に4時間。とてもじゃないけど見られません。

しかも、ビデオゲームシーンというものは、5~10チーム程度の試合を全て、網羅的に見ていないと何が起こってるのかわからないものなのです。「誰かが凄い戦法で圧勝した」「それを阻止する為に特別な戦法を編み出された」「その戦法は秘する為にグランドファイナルまで温存された」「特別な戦法は特異すぎてど壺に嵌り、自滅する形で負けた」という展開があったとします。このような展開を知らずに1試合だけを見たら、「グランドファイナルの大事な舞台で意味不明な事をやって自滅した」という事しか見えてこないわけです。「意味不明な事をやって負けたつまらない試合」にしか見えないのです。メタや流行、流れなどがあって、始めてシーンとして意味があるのです。サッカーなどでは数年スパンで起こるメタ変りや戦術の変異が、ビデオゲームでは数日スパンで起こる。それ故に網羅的に見ていないと何が起こってるのかわからない。



よって、「ビデオゲームシーンを見る」方法はただ1つ。
上位20人の対戦を全て見る。それ以外に方法は存在しない。



今のDOTA2シーンならば、上位5チーム程度の対戦を全て見る、という事になると思う。NaVi、Loda、ミゲルアンゲル、EGくらいまで。col、aL、mouz、moscow5、mTw、next.kzなどは対戦相手として登場するのでそこまでは追わなくても大丈夫。たとえばprodota.ruで先週のdota2シーンを遡って見ると、4チームの試合は14カード32試合。つまり、今現在のdota2の場合は週に35試合も見れば「dota2シーンを見ている」という状況に辿り着けるわけです。

これ、即ち「dota2シーンを見る」という行為を動画中継やゲーム内中継で実現しようとすると、単純に計算すると35時間ほどモニタの前に居なければなりません。Eスポーツの対戦開始時刻は当てにならないものなので、週に50時間ほどモニタの前に張り付いていないといけません。しかも、シーンの中心線は大西洋にあるので日本時間なら真夜中です。動画を録画で見るならば、真夜中でなくても構わないのですが週に50時間というのはやってられません。その上に、「動画中継が存在しない試合」という要素も加わるので、「事実上不可能」な上に、純粋に「不可能」でもあるのです。




これがリプレイ観戦だとどうなるか。
リプレイならば1試合見るのに10分程度。
週に35試合見ようと思えば、週に7時間ほど。自分の好きな時間帯に、1日1時間。これなら誰でも見られます。特異な行為ではなく、普通の娯楽として「シーンを見る」という遊びが可能になるのです。



「Eスポーツシーンを見る」
という行為は、リプレイ再生によってのみ可能になる類の娯楽であって、それ以外の方法では物理的に不可能なものなんです。「Eスポーツを見る」ならば動画中継でも可能。「試合を見た」ならばゲーム内中継でも可能。けれども、「シーンを見よう」とするならば、取り得る手段はリプレイしか無いのです。ようするに、現在のDOTA2シーンというものは、「シーンを見る」という行為が不可能な環境なのです。

そういう糞環境がdota allstarsのプロを根こそぎ掻っ攫ってしまったのだから、かつてdota allstarsシーンを見ていた人達の中に、dota2アレルギーのようなものが存在するのは当然の事なのです。なぜ(dota2動画配信者である)オビワンが叩かれているのか、かつてdota allstarsを配信していた頃には全然叩かれていなかったのに、dota2ではアンチが生まれているのか、という事の奥底には、「dota2にはリプレイ視聴環境が無い」という致命的な欠点が存在しているのです。

そしてその「シーンを見る事が不可能」という致命的な欠点は、リプレイ再生用のクライアントが各個に行き渡り、リプレイサイトがきちんと機能するようになるまでは、決して解決しない問題なのです。なお、現時点でdota2のリプレイサイトは全て一切、機能していません。よって、dota2のベータクライアントを所持している人間にとっても、所持していない人間にとっても、dota2シーンを見るという行為は等しく実現不可能な夢物語なのです。







ならばdota allstarsシーン(即ち中国)は良いのかというと、こちらはこちらで大会主催者による囲い込みのせいでリプレイファイルがネット上にupされず、手に入るのは野試合のリプレイのみという散々な事態に陥りつつあり……。(WarCraft3シーンでも同じような囲い込みによるリプレイファイルの遮断はたまにあった)。