オタクの名誉を守るため、人を殺すことにしました。

世の中で、何か事件が起こる度に、我が国のマスメディアは、アニメや漫画にその原因を求めます。西で誰かが幼女を誘拐すれば、やれ漫画のせいだ。東で誰かが少女を監禁すれば、やれアニメのせいだ。そんな報道を毎度毎度、我が国のマスコミは繰り返します。おそろしい事件はアニメと漫画の影響を受けたが故に発生したものであり、気持ちのわるい事件の裏側にはアニメが存在していたのだという報道を、毎回懲りずに繰り返します。そんな根も葉もない報道が成される度に、僕は心を痛めてきました。こんな状況を、なんとかしなければいけないと、僕は常々考えていました。そこで、突如として、僕にいいアイデアが浮かびました。僕が人を殺せばいいのです。

僕は生まれてこの方、漫画雑誌も、漫画本も買ったことがありません。もちろん、アニメなんて全く見ません。僕は我が国において、漫画から、そしてアニメから、最も遠い存在なのです。オタクとは真逆の存在なのです。そんな僕が人を殺せば、アニメの潔白が証明されるのです!漫画の潔白が証明されるのです!おりしも我が国はクールジャパンの名の元に、我が国の偉大な文化である漫画やアニメを、世界に向けて発信しようとしています。そんな時に、アニメや漫画の悪いイメージが世間に蔓延したままで、そして蔓延させられたままで、いいわけがありません。

漫画が背負わされた濡れ衣を、アニメに科せられた冤罪を、我が国の輝ける未来の為にも、一刻も早く晴さねばならないのです。その為には、アニメとも、漫画とも無縁の誰かが、立ち上がるしかないのです。我が国の未来のために、誰かがその身を犠牲にして立ち上がらねばならないのです。そして、僕は気がついたのです。他ならぬ僕自身こそが、アニメの名誉を守るための最高の人材であると。漫画の汚名を晴すための、最高の人材であると。根拠のない濡れ衣をマスコミによって着せられ続けるオタクの名誉を晴すために、漫画を買ったことがない、アニメなんて全然見ないという、僕以上に適切な人物は存在しないのです。ですから、人を殺すことにしました。

僕は、オタクとは真逆の人間です。オタク要素を、1ミリたりとも有していない人間です。オタクの友人は一人も居ません。生まれてから今日まで友達と、アニメのはなしをしたことなんてありません。漫画の話題で盛り上がったこともありません。ですから僕は世間では、いわゆるリア充と呼ばれる人種です。そんな僕が人を殺せば、マスコミはどうするでしょうか。彼らは困るでしょう。なにせ、これまで彼らがやってきたように、漫画やアニメと事件を関連づけることは不可能です。今回の事件には漫画の影響がとか、アニメの影響がなどといったような報道は、絶対に不可能です。僕が人を殺すことにより、遂に漫画の汚名は挽回され、僕が我が国のマスメディアに凶悪事件の犯人として晒し上げられることにより、アニメの名誉は回復されるのです。今しかありません。東京五輪はもうすぐそこです。来る世界的大イベントの前に、アニメや漫画のネガティブなイメージを、完全に払拭しなければならないのです。その為には、僕が人を殺す以外に道はないのです。

僕は生まれてから今日まで、誰かの役に立ったことはありませんでした。そんな僕にも、誰かの為に働ける機会が遂に訪れたのです。アニメの名誉は守られ、漫画の汚名は挽回され、オタクの人権は回復するのです。人々は僕に感謝の言葉を述べるでしょう。僕が人を殺せば、我が国に存在している1000万人の漫画オタクやアニメオタクが、口を揃えて僕に感謝の言葉を述べるでしょう。けれども、僕は誰かから感謝されたいわけではありません。ただ、この国の未来の為に、この国の役に立ちたいのです。そして、僕がこの国の為に役に立てる唯一の機会が、今ここにあるのです。僕が人を殺せば、我が国の未来は開けるのです。多くの人々が、苦しみから救われるのです。僕は人を殺すことにしました。斧で人を殴り殺すことにしました。鉈で人を叩き殺すことにしました。包丁で人を刺し殺すことにしました。オタクの名誉を守るために、苦難に陥っている我が国に、希望溢れる明るい未来を取り戻すために、僕は人を殺すことにしました。