先日、中国の上海でDOTA2 アジアチャンピオンシップ(DAC 2018)が開催されました。そのDAC2018において、フィリピンに拠点を置くMineskiは、東南アジア勢としては歴史上初となる、メジャートーナメント制覇を成し遂げます。
DAC2018におけるMineskiの栄冠は、どのようにして成し遂げられたのかを紐解くと同時に、後世にこの偉業を少しでも残しておこうというのが、この文章の目的です。
「Mineskiが優勝したのは何故か。」
いきなり本題です。
そしてそれに対する私の回答は明確です。
強い相手と当たらなかったから。
それに尽きます。
現代のdota2シーンにおいて、強い相手とは、世界最強に君臨する2つのチームを指します。1つは、全員が凶器、3 carryを超えた究極のcarry集団、5 carryのソ連に拠点を置くVersus Pro、通称VP。もう一方は、様々なゲームジャンルの全てのプロゲーマーの中で最高の生涯賞金額を誇る、かつては魔王と呼ばれたkurokyが率い、現在dota2の頂点に立つプレイヤー、miracle-を擁するLiquidです。
LiquidとVP。
この両者の強さは圧倒的です。
様々な要因により、他のライバルチームが弱体化してしまったこともあり、VPとLiquidは、他の全てのチーム相手に60%以上の勝率を残せる、凄まじい強さを誇る最強のチームです。両者は天下を二分する形で、現在のdota2シーンに、圧倒的な覇権チームとして君臨しています。
Mineskiは、世界最強チームと当たりませんでした。
DAC2018のトーナメントラウンドにおいてMineskiはLiquidと対戦せず、また、VPとも対戦することなく優勝を果たします。グループステージで行われたVP対MineskiがMineski唯一の世界最強チームとの対戦機会。そこでは、VPがMineskiを文字通り捻りつぶす形で圧勝しています。
しかし、です。
世界最強Liquidと、世界最強VPが、共にグランドファイナルに辿り着けなかったということは、世界最強チームを打ち倒したチームが存在するということです。しかも、そのチームはどちらか一方に勝ったというわけではありません。なんと、現在のdota2シーンを二分しては君臨する、LiquidとVP、両者に勝利したチームが存在するのです。それが、地元中国のLGD。LGDは勝者側決勝で0勝2敗、グランドファイナルでは2勝3敗と、壮絶な7連戦の末に力尽き、Mineskiの戴冠を許してしまいます。
このテキストは、世界最強の両雄を共に打ち破る快挙を成し遂げた地元中国のLGDが、如何にして、Mineskiに敗れ去ったかを書き記すことに、その全てを費やす事になります。
1,大会期間中にpatchが当たった。
ビデオゲームはpatchによってバランスが変わります。dota2もその例に漏れません。そして、こともあろうか、DAC2018の初日が終了した時点で、予告もなく突然patchが当たりました。わたしがもう少しだけの実直さと行儀の悪い文体を共に有していたならば、口汚くvalveを罵るところです。けれども、そうはしません。わたしは分別のある大人です。冷静に行きましょう。
グループステージの初日が終了した後で、dota2を開発するvalveはdota2にpatchを当てました。最大の変更点は、それまで普通のゲームでは使用可能だったものの、eSports大会用のモードでは使用不可能だった、パンゴリラというヒーローが使用可能になった事です。そして、Mineskiにはシンガポールが世界に誇る変態プレイヤー、iceiceiceが居ました。
iceiceiceはdota史上に残るポジション3プレイヤーです。dotaの16年の歴史の中で、無理矢理ランキングを付けるならば、4位か5位くらいでしょう。そして、iceiceiceは変態です。ただのプレイヤーではありません。変態プレイヤーです。
新しいヒーローが実装されたり、大幅にリメイクされると、iceiceiceは必ずpubでそのヒーローを使い続け、ほぼ全てのロールで無理矢理新ヒーローでプレイします。iceiceiceがpubで見せた、carry ogre mageや、side solo troll、nyx carryなどは記憶に新しいところです。世界中のチームのコーチは、新ヒーローが実装されたならば、まずiceiceiceのリプレイをチェックしにいくとまでうたわれた、あの変態iceiceiceです。
そんなiceiceiceにパンゴリラを与えたらどうなるでしょうか?
他のチームが一切の対策をしていない大会期間中のpatchという最悪のタイミングで、トリッキーでテクニカルな変態iceiceiceが使う為にデザインされたような新ヒーローが使用可能になると、いったい何が起こるでしょうか?
DAC2018において、パンゴリラで勝利したポジション3のプレイヤーは世界でただ一人、優勝したMineskiが擁する変態iceiceiceだけでした。iceiceiceはDAC 2018でパンゴリラを3度使います。DAC 2018におけるパンゴリラの戦績は、3勝7敗でした。
Mineski 対 LGDの7連戦において、パンゴリラは2度pickされ、2度BANされました。残る3ゲームのうち2ゲームは、LGDのchaliceというプレイヤーを巡る特殊なpick&ban進行があったので、7連戦においてパンゴリラが無視されたのは1ゲームだけという、惨状。そう、言葉で言い表すならば、それはもはや惨状でした。
DAC2018の期間中、iceiceiceはパンゴリラをx回BANされます。
他のチームのpick&banは、大会期間中、パンゴリラ対策が一切出来ていない状態でのパンゴリラ実装によって、滅茶苦茶になってしまいました。それによって利益を得たのは、変態iceiceiceを擁するMineskiただ1チームだけだったのです。
これが、もう少しまともなタイミングでの実装であれば、「変態iceiceiceというプレイヤーを獲得していたMineskiの勝利」と言うことも出来るのですが、グループステージ初日終了後という、あまりにも酷いタイミングであるが故に、そのようにiceiceiceを称えることも出来ません。ひどいはなしも、あったものです。かなしい話です。
2,LGDは何故負けたのか。
勝因は時として不思議であるが、敗因は常に明確であると、eSportsではないスポーツの有名な監督が、繰り返し口にするのを、いつかどこかで耳にしました。曰く、勝ちに不思議の勝ち有り、負けに不思議の負け無し。ならば、グループステージ初日終了後のpatchによるパンゴリラ実装は、正しく不思議の勝ちに分類されます。そして、LGDには不思議では無い負けが存在しています。明確な敗因があるのです。LGDが負けた理由。LGDの敗因。
それは、マネジメントです。
かつて、中国には「dota10年の歴史の中で最大の才能を持ったプレイヤー」とまで評された人物が居ました。現在LGDのポジション2(mid)を務めている、maybeです。Naviのdendiが築いた永遠に続くかに思われたdendi時代を終わらせるはずだった人物であるmaybe。そんなmaybeを獲得しながら、僅か2ヶ月でkick(解雇)したチームがありました。
DAC2018におけるLGDの快進撃を成し遂げたmaybe。
そのmaybeを僅か2ヶ月でkickしたチーム。
それが、LGDです。
LGDはmaybeを獲得しながら、「maybeはこの2ヶ月の間、一度も優勝出来なかった」というわけのわからない理由でkickしてしまいます。なお、maybeはその2ヶ月間で世界のトップシーンにおける存在感を増し続け、最終的にはメジャートーナメントにおいて、当時の世界最強チーム相手に2勝3敗で準優勝を成し遂げる所まで行きます。LGDはそのmaybeを、「この2ヶ月の間、一度も優勝出来なかった」としてkickした上で、他のチームがmaybeを奪い去れないようにと、急造の2部チームを作成し、maybeを契約で雁字搦めにした上で飼い殺しにする事を選択します。
そのLGDの二軍チームにおいてmaybeは、トッププレイヤーとは言い難い雑にかき集められた二流の集団を率い、何度もLGDを倒したばかりに収まらず、過酷な中国予選を勝ち抜いて世界大会に出場し準優勝するなど、maybeという一人の才能の存在により、LGDの二部チームは後にThe Internationalで準優勝するなどの成績を収めるまでの成功を手にします。
一方その頃LGDは、maybeをkickしたあと、新しくとったプレイヤーを「maybeはこの2ヶ月の間、一度も優勝出来なかった」というのとほとんど同じレベルの理由により、とっかえひっかえ、kickしては新たなプレイヤーを獲り、kickしては新たなプレイヤーを強奪し、ということを際限なく繰り返し続けます。LGDのマネジメントの酷さは枚挙にいとまがないのですが、DAC2018におけるLGDの快進撃を生み出した、他ならぬmaybeを、「この2ヶ月間優勝出来なかった」という理由によりkickしたという過去を述べるだけで、その酷さは十二分に伝わるでしょう。
Mineskiは大会期間中のpatchで勝ち、
LGDはマネジメントで敗れた。
では、具体的にはどのように?
いよいよ、本題であります。
Mineskiが勝利し優勝するよりも前に、
LGDが敗れ去り準優勝に終わるよりも前に、
DAC2018では重大な出来事が発生していました。
それは、LGDの奇跡的な快進撃です。
世界中どのチームを相手にしても、60%以上の勝率を残せる無敵のチームであるVPとLiquid。グループステージにおいて、Mineskiを踏みつぶした世界最強VPと、そのVPにトーナメントラウンドで2勝0敗で勝利した世界最強Liquid。この両者を、LGDは打ち破ったのです。これは、想像を絶する奇跡的な快進撃でした。Mineskiの優勝よりも、LGDの準優勝の方が、私達にとっては、そして現代のdota2シーンにとっては、衝撃的な出来事だったのです。
果たして、LGDは如何にしてLiquidとVPに勝利したか。
答はmaybeの一語で事足ります。
LGDの勝因は、LGDにmaybeという、dota10年の歴史の中で最大の才能が存在していた事です。なお、dotaの歴史は16年です。maybe以後の6年間で、maybeを超える才能が生まれてしまい、LGDにkickされて時間を無駄にしたmaybeは天下を獲り損ねてしまうのですが、それはまた別の話。ここでは、世界最強Liquidには、現在dota2シーンの頂点に君臨するmaybeを超越したプレイヤー「One man dota allstars」こと、miracle-が所属している、という事だけを記して話しを戻します。
昨年、LGDは自分達の二軍チームから、一人のプレイヤーを昇格させます。
そのプレイヤーの名はYao。所謂Yao先生です。
Yao先生は、LGDの黄金時代を築き、「万年二位のLGD」を作り上げた功労者です。iGにチームのプレイヤー4人を引き抜かれ、残された一人のプレイヤーもモチベーションを失う中で、キャプテンxiao8という伝説のpickerに率いられ、世界二位の地位を維持し続けたdota2黎明期のLGDにおける、最強のプレイヤーです。往年のLGDが世界に誇った、当時の世界最強プレイヤーの一人です。
けれども、LGDがyao先生を再獲得した時点におけるYao先生は、往年の輝きは見る影もない、トップシーンにおける断トツのワーストプレイヤーでした。なぜ、そんなプレイヤーをLGDは二軍から一軍に引き上げたのか、それは、義理人情であり、論功行賞です。
あの頃のLGDは、iG、Navi、Alianceといった目の上のたんこぶに邪魔される形で、遂に大きなタイトルを手にすることは出来ませんでした。さらに、Yao先生が世界最強プレイヤーの一人だった時代のdota2シーンは、まだ立ち上がったばかり。賞金も今のようには高くなかったのです。
そんなYao先生に、賞金を稼がせてあげよう、タイトルを獲らせてあげよう。世界中の強豪チームが様々な理由により迷走している今ならば、Yao先生を使ってもタイトルを獲れるチャンスがある。そう考えたLGDは、義理人情により、論功行賞により、Yao先生を一軍に引き上げたのです。もしもYao先生が存在しなければ、LGDはdota2から撤退していたかもしれません。そんなifが簡単に想像出来るくらい、当時のyao先生はLGDにとって特別なプレイヤーだったのです。
キャプテンxiao8の用心棒として、プレイヤーとしては平凡なxiao8が太刀打ち出来ないプレイヤーが相手に来た際には、xiao8とポジションを交換して、xiao8が絶対に勝てないような相手と対峙し、LGDの黄金時代を成し遂げたYao先生に、賞金額がインフレした現代シーンで稼がせてあげたい。そんなLGDの人情人事は、一定の成功を収めました。LGDに再加入する以前からトップシーンにおけるワーストプレイヤーであり、LGD在籍時もトップシーンにおけるワーストプレイヤーであり続けたYao先生を抱えながらも、LGDは昨年のThe International 7で四位という好成績を収め、LGDは巨額の賞金を手にします。Yao先生がLGDにおいて、dota2チームを解散させない為の勝利を積み重ねるという、最も重要な仕事を成し遂げた当時の大会の優勝賞金は、僅か1000ドルやそこら。当時のdota allstarsは、完全に死んだゲームだったのです。Yao先生の全盛期は、dota2がリリースされる以前、あるいはちょうどリリースされた頃まで遡る、むかぁしむかしの話なのです。
yao先生を義理人情で昇格させたLGDはどうなったでしょうか?
まったく勝てませんでした。
あたりまえですね。
LGDはyao先生をkickします。
「どこが義理人情なんでしょうか」
と書いてしまうと、話に支障が出てしまうかもしれません。少なくともYao先生は、当時では考えられなかった額の賞金を稼ぐことに成功したわけですから、LGDの義理人情は確かに義理人情として成立した、という見方も可能です。けれども、殿堂入りして然るべきチームのレジェンドに、LGD最大の功労者に、「yao先生が弱すぎて優勝出来ない」という恥をかかせるのが、人情なんでしょうか?他に道は無かったのでしょうか?Yao先生が弱いが故に勝てなかった他のプレイヤーのキャリアはどなるのでしょうか?マネジメントとは、勝利を追求するものであって、義理人情で行うものではないと私は考えます。そもそも「2ヶ月もの長きにわたり優勝出来なかった」という理不尽な理由でmaybeをkickしたチームがやることでしょうか。LGDのマネジメントは、この10年間ずっと、世界最悪の地位を維持し続けています。彼等は、でたらめにプレイヤーを強奪し続け、でたらめにプレイヤーをkickし続け、中国が誇る才能を使い捨て、消耗させ続けることが、マネジメントだと思っているのです。
そんなわけで、yao先生は「チームのワーストプレイヤーだから」という理由により、LGDを追われます。当たり前ですね。LGDが昇格させた時点で既に、yao先生はチームどころかトップシーンにおけるワーストプレイヤーだったのですから。
LGDがyao先生をkickしたのはこの1月。LGDが現在のメンバー構成になったのは、今年に入ってから、つまりDAC 2018におけるLGDは、急造チームでした。LGDで変更になったプレイヤーはYao先生だけではありません。
ポジション4プレイヤーの方が貴重であるとの理由から、ポジション3で成功を収めていたfyというプレイヤーがポジション3にスライドするなど、ポジション1と2を除く3つのポジションでプレイヤーが変わりました。
同じポジションでプレイし続けていたのは、ポジション1のameと、ポジション2のmaybeの2人だけ。DAC 2018において、グループステージで低調な内容に終始したLGDが、トーナメントラウンドを迎えるにあたり、ameとmaybeの2人と心中するという戦略を選択したのは、当然の帰趨だったのかもしれません。それを生んだのは決断ではなく、その決断に至までの、世界最悪のマネジメントでした。LGDは、世界最悪のマネジメントのつけを、よりによって自国開催のグランドファイナルで支払わされる事になります。
3,LGDの快進撃
LGDの快進撃は、maybeによって生み出されました。
dota10年の歴史の中で最大の才能を持ち、世界で最もレベルが高く、世界で最もプレイヤー人口が多い中国サーバーで、異次元のプレイを見せ続けた最強プレイヤーmaybe。グループステージで煮え切らない戦績と内容を残してしまったLGDは、全てをmaybeに賭けることにします。そして、maybeは賭けるに値するプレイヤーであり、maybeはその期待に完璧に応えます。
maybeは、"One man dota allstars" miracle-を擁するLiquidを、10キル0デスの完璧なスコアで無慈悲に叩きのめし、"捕食者Ramzes666"を擁する全てを粉砕する5carryのVPを、累計33キルという圧倒的な破壊力で逆に粉砕して見せます。
トーナメントラウンドにおける、世界最強の両者を相手にしたmaybeの戦績は、57キル、23デス、64アシストで4勝2敗。maybeの万能性を調整役として用いようとして失敗に終わったグループステージの結果を見て、maybeをチーム唯一の最強の主砲として用いるという戦略転換を行ったLGDの判断の正しさと、それに応えたmaybeの勝利でした。
ところがです、このLGDの快進撃の裏で、犠牲になったプレイヤーが存在しました。それが、ポジション3のchaliceです。現代のdota2では、ポジション3プレイヤーの地位は相対的に低下しています。なぜならば、現在のdota2は、所謂tankが有利な環境だからです。
tankという概念は、テンセントのLeague of Legendsというゲームが作ったものです。League of Legendsは元々はdotaを作っていた人がdotaを離脱して作ったゲームなのですが、「初心者にわかりやすいゲームを作る」という事を公言し、様々な初心者が"わからん殺し"される要素を弱体化した一方で、初心者にとって遊びやすい要素を数多く導入します。その一つが、"tank"でした。
dotaには存在しなかった、魔法耐性を上げるアイテムを導入し、耐久力が上がるアイテムに様々な特殊効果を付け加え、「どうぞ、耐久力をあげてください!それは、LoLにおいて、強い選択肢です!」という態度を明確にしめしました。
「相手が現れた瞬間に自分は死んでいる」
という初心者が最もゲームを投げ出したくなる理不尽な状況を、ゲームから削除するように努めたのです。tankは、League of Legdensが初心者にプレイを継続させ、世界的に大きな躍進を遂げた、最大の要因の一つです。tankとは、素晴らしい要素です。それが故に、dotaはプレイヤー人口の減少期を迎えるにあたり、あわてて、「私達も初心者優遇します」とばかりにLoLのアイテムを、そっくりそのまま露骨にコピーするという下劣な策を用いて、tankが有利な環境を作り出しました。
そんなtankにも弊害があります。
死ななくなる事です。
死ななくなるとどうなるでしょうか?
tankは、延々と死のリスクを局限まで低下させた状態で、のんびりレベリングを続けます。5分、10分、15分。dotaは長いゲームです。時として20分、25分……。人数をかけて相手にしたら、人数をかけた分だけ損をするので、無視するしかありません。tankは放置されます。ずーっと、レベリングしてるだけです。ずっと、farmをしているだけです。けれども対面に誰もいないとまずいので、誰かを配置する必要があります。誰を配置するでしょうか?それは当然、tankです。tankの対面にtankがいて、1vs1の状況下では、2人とも死ぬリスクは0です。tankは硬いです。火力なんてたかがしれています。dotaのtankは、近年になって慌ててLoLから、形だけパクったものですから、LoLのtankよりも遙かに低い火力しか出ません。ダメージスキルを1つしか持たないtankと、ダメージスキルを1つしか持たないtankが、お互いに「1対1では絶対死なないから、別に囲まれて死ぬなら死んだっていいし」という投げやりな態度で、時々己のハンドスキルの高さをアピールする為にお互いの体力を2割3割削るなどして、ずっとfarmしているだけ。そんな事が許されてしまうのが、現在のバージョンのdota2における、ポジション3です。
以前のポジション3は違いました。
ポジション3とは、相手の布陣を乱すために、真っ先に仕掛ける疾風の矛だったのです。現在のポジション3は、死ぬリスクをが0のまま、対面とだらだらいちゃつき続け、チームファイトの為のtankアイテムを買い進めるだけの、退屈なロールなのです。
だからこそ、LGDは考えました。
「現在のdota2における最も退屈なロールならば、今年になってトップシーンに初参戦した、chaliceという経験の浅いプレイヤーでも簡単にこなせるはず!」それは、大正解でした。LGDはトーナメントラウンドにおいてchaliceに対し、dota2における最も退屈なポジションの中でも、最も退屈で負担の少ない、プレッシャーのかからない役割を割り振り続けます。
その一方で、困難な役割を担当する事になったのは、ameとmaybeという、トップシーンにおける、名声も、実績も、経験も、その他全てを兼ね備えた百戦錬磨の強者。中国が誇る最強のプレイヤー2人でした。maybeは彼が特別な存在であった頃の輝きを取り戻すかのように躍動し、現代シーンを象徴するプレイヤーを千切っては投げ、千切っては投げます。ameはグループステージで担当したDPS所謂アタックダメージキャリーではなく、チームの扇の要としての、飛び道具(所謂initiator)や、チームのバランスを取る為のヒーローなど、様々な役割を担当してはその全てを、世界中他の誰一人として真似出来ない完成度で完璧にこなし、中国server最強の猛者としての懐の深さを見せつけます。
一方その頃、難しい役割を完全に免除されたポジション3のchaliceは、mobaにおいて最も気楽で簡単な、死ぬリスクがなく、死んでも別にいいよという、tankという役割を、黙々とこなし続けます。それは、素晴らしいと書くに値する内容でした。tankは簡単な仕事ではありますが、世界最強のチームを向こうにまわし、簡単な事を簡単に行ってみせるのは、実は案外案外難しいものです。それが出来れば、あなたも私もトッププロです。トップシーンにおいては、僅か3ヶ月ほどの経験しか持たないchaliceは、トッププロとしての資質とクオリティを見せ続けたのです。
ところが、LGDの快進撃が止まります。
世界最強Liquidを打ち負かして勝ち上がった勝者側決勝戦において、LGDは、Mineskiに敗れます。敗因はchaliceでした。
4,シンガポールが世界に誇る変態プレイヤーiceiceice。
トップシーンにおいて、ポジション1から5まで、全てのポジションを務めた事があるプレイヤーを、思い浮かべてみて下さい。dotaを長く見て来た人の頭の中には、幾つものIDが浮かんでは消えるでしょう。そう、消えるでしょう。
何故ならば、そんなプレイヤーは存在しないからです。
血で血を洗うeSportsのトップにおいて、5つのポジションを務めるなんてことは、常人には不可能です。全てのポジションで結果を出すとなれば、それはもはや、神でも悪魔でも不可能です。世界を闇で覆い尽くした、あの魔王kurokyにだって、そんなことは出来やしません。ところが、世界に一人だけ、それを成し遂げた男が居ます。変態です。変態iceiceiceです。
勝者側決勝、chaliceの眼前に一人のプレイヤーが立ちます。
dota唯一にして、dota最強の変態プレイヤー、iceiceiceです。
iceiceiceを擁するMineskiは、LGD戦の必勝法を見いだしていました。それは、chaliceをiceiceiceで潰す事です。他に類を見ない魔術的な器用さと多様性を持つ、変態としか形容の出来ない、酸いも甘いもかみ分けた長いキャリアを持つ、百戦錬磨の変態iceiceiceはLGD戦で、chaliceがこれまで務めてきた役割を、そっくりそのまま乗っ取ります。
Mineskiは、iceiceiceiをchaliceとして用いたのです。
Mineskiはiceiceiceから難しい役割を完全に免除しました。dotaにおいて最も気楽で簡単な、どうでもいい役割を割り振ったのです。死ぬリスクがなく、別に死んでもいいから勝手にやっててという役割を、こともあろうか、あの、iceiceiceに割り振ったのです。dotaにおいて、最も退屈な役割を、他ならぬiceiceiceに担当させたのです。dota2史上最強にして唯一の変態プレイヤーiceiceiceを、chaliceとして扱ったのです。
現在のMineskiが抱える、チーム最強の武器であるiceiceiceに、そんな退屈でどうでもよい役割を割り振って、Mineskiが勝てるはずがありません。けれども、です。そうはなりませんでした。
先ほど述べたように、tankにはtankを当てるのが定石です。鉄板の対応です。どうでもいいtankには、どうでもいいtankを当てて、お茶を濁すというのが定石なのです。他の選択を行うと、高い耐久力を背景とした大胆なレベリングと、リスクとしてのデスを考慮しなくていいtank相手にラストヒット戦で負けてしまい、収支で大きく不利になってしまいます。
「iceiceiceをchaliceとして用いる」という、Mineskiのtank戦略に対して、tankを返します。tankを担当するのは当然chaliceです。けれども、最も簡単なtankヒーローは場に存在しません。何故ならば、Mineskiが1st pickで拾ったからです。
どうでもいい、くだらない、退屈な、猫も喰わないようなヒーローを、Mineskiは1st pickで確保していました。これはLGDにとって、想定外の事態でした。
唯一にして無比たる変態、iceiceice。
そんなプレイヤーの為に、どうでもいい、くだらない、退屈で猫も喰わないようなヒーローを、貴重な1st pickを消費してまで確保するなど、下策の下策、愚の骨頂でした。LGDはMineskiの、あまりにも愚かな自殺行為の愚策を完全に無視します。当然です。
Mineskiの「1st pick退屈なtank」を完全にを完全に無視したプレイヤーは、チーム内の重要なプレイヤーから順番にpickしていきます。chaliceはどうでもいいので、最後に残されました。dotaには切り札としてのlast pickも存在するのですが、Mineskiの愚策を確認出来たからには話は別です。Mineskiの弱すぎる1st pickに対して、強いプレイヤーの強いヒーローを、相手にBANされてしまうよりも前に確保する事がLGDの急務でした。
Mineski対LGDの勝者側決勝。
第一ゲーム、第二ゲームとも、
全く同じpick&ban進行です。
・1st pick退屈なtankをiceiceice。
・それを見たLGDは強ヒーローの確保を急ぐ。
・chaliceはどうでもいいので後回しのlast pick。
そして、第三ゲームが行われる事は終ぞありませんでした。
LGDは0勝2敗でMineskiに敗れ、ルーザーズに叩き落とされます。
5,iceiceiceの勝因。
話は2年ほど前に遡ります。
当時のdotaには、幻の最強キャラクターが存在しました。
それが、「China pub lycan」です。
ようは、中国のパブにおけるライカンです。
バージョンは、7.00。
>>
弱体化 Agility gain from 1.5 to 1
弱体化 Howl mana cost from 30 to 40
弱体化 Howl cooldown increased from 50/45/40/35 to 55/50/45/40
弱体化 Howl mana cost increased from 15/20/25/30 to 30
弱体化 Lycan Level 10 Talent reduced from +20 Damage to +15 Damage
弱体化 Lycan agility gain reduced from 1.9 to 1.5
弱体化 Reduced All Stats modifier from +4 to +2
弱体化 Recipe cost increased from 725 to 800
弱体化 Helm of the Dominator All Stats from 6 to 4
弱体化 Helm of the Dominator creeps now give a constant 125 gold bounty
<<
どのくらい強かったかは、上記の弱体化を見ればわかります。全て、china pub lycanに絡んだ弱体化です。中国のパブの頂点における勝率は、9割程度。他の地域のサーバーでは、強さが知れ渡る前に弱体化されてしまいました。僅か八日間の、幻の最強キャラクターでした。
どういうヒーローだったかというと、ゲーム開始と同時にタンクアイテムを買ってジャングルクリープを手下として使役し、序盤も序盤の段階で、自分のレーンのタワー2本と、midのタワー1本を割ってしまい、ゲームがゲームとして成立するまえに、消化試合に変えてしまうヒーローです。その、幻のchina pub lycanが、iceiceiceの手によって蘇ります。
1st pickでiceiceiceの為に、レーンをベタ押しする為のtankヒーローをchaliceから強奪していたMineskiは、iceiceiceに「別に死んでもいいからレーンをベタ押ししてください」という、絶望的に退屈な役割を担当させます。そのiceiceiceを向こうに回して、手も足も出なかったプレイヤーがいます。chaliceです。chaliceはiceiceiceに手玉に取られる形で、ゲーム開始と同時に「自分が何をすればチームに貢献出来るのか全くわからない」という状況に陥り、その存在が完全に消えてしまいます。
Mineskiのpick&banを見てLGDが選択したのは、自分達の強いプレイヤーに、強いヒーローを確保することでした。「iceiceiceが猫も跨いで通るレベルの退屈なtankヒーロー、即ち弱いヒーローをを選択したんだから、自分達は強いヒーローを確保しよう」という考えです。それにより、chaliceのpickは後回しにされ、ラストピックで「iceiceiceの選択よりも、さらに退屈でさらに簡単なtank」を割り振られます。iceiceiceのベタ押しを、押し返せるだけのヒーローは既に残っておらず、iceiceiceのでたらめさと精密さをあわせもつ、変態挙動に対応出来るだけのプレイヤーパワーをchaliceは持っていませんでした。
そして何よりもchaliceは、自らの陥っている状況をチームメイトに伝える術がありませんでした。何故ならば、DAC2018において、いや、chaliceがLGDに加入して以降、chaliceは「一生懸命頑張ってくれればいい新人」という扱いを受けてきたからです。
「私はiceiceiceにやられている」
「チームにとって深刻な事態に陥りかけている」
「こうしてくれればiceiceiceに勝てる」
ということを、チームメイトに伝えるだけの発言権を、chaliceは持たなかったのです。それは、chaliceの一挙手一投足から、悲しいまでに伝わってきました。LGDの快進撃を陰で支えてきたchaliceは、目の前に隆起する深刻な事態に対して、「これまで通りプレイしていれば勝てる」と自らに頑なに言い聞かせるように右往左往してはiceiceiceに手玉にとり続けられるだけで、第1ゲームが終わってしまいます。それは、あっという間の出来事でした。
iceiceiceは一度も死なず、LGDが誇る最強のmaybeは2キル2デス2アシスト。LGDは、5人全員が、ゲームをプレイする事なく、席に着いただけで敗北します。
iceiceiceはその為にドミネーターというアイテムを用いました。プレイヤーとしての能力に問題があり、失敗しているプレイヤーが、その失敗を補う為に、自分ではなくチームメイトに活躍を託す為のアイテムである、ドミネーターというベタベタなメタアイテムを利用して、LGDにゲームをさせることなく2キル0デス9アシストの内容で完勝します。
現在のバージョンにおいて、トップシーンにおけるドミネーターは、購入すると勝率が10%下がるアイテムです。世界中のプロチームのほとんどは、チーム内にうまくいっていないプレイヤーを抱えており、そのうまくいっていないプレイヤーが購入するアイテムです。世界最強レベルのプレイヤーを抱えるチームは、ドミネーターを購入しません。
たとえば、Liquidのmind_controlという世界最強のポジション3は、ドミネーターを購入しません。EGのSumaiLという昨年の夏までは世界最強のmid lanerだったポジション3は、ドミネーターを購入しません。5carryで全てを踏みつぶす世界最強VPのポジション3である9pasは、ドミネーターを購入しません。世界最強のポジション3になるはずだったyangという中国で最も刺激的なポジション3はドミネーターを購入しません。世界最強EGを支え続けた現FnaticのUniverseというかつての世界最強ポジション3は、ドミネーターを購入しません。
ところが、世界中の、ほとんどのチームには、最強のポジション3なんて居ません。ドミネーターという、退屈でくだらない、勝率が10%下がるアイテムに頼らなくていいポジション3は、世界中探し回っても、ほとんど存在しないのです。
かつてトップシーンにおける勝率が30%台に落ち込みながらもpickされ続けたundyingやrasta、Jakiroやbatなどと同じように、失敗しているプレイヤーが頼り縋って買うアイテム、それがドミネーターなのです。なお、全てを踏みつぶす5 carryの世界最強VPはドミネーターを誰も買いませんが、同じ世界最強のLiquidはドミネーターを買います。Liquidでドミネーターを買うのは、ポジション1で勝てないから2に行き、2でも勝てないから1&2手兼任となっている、マツンバマンです。Liquidのポジション3は世界最強のポジション3なので、当然ドミネーターは買いません。
さて、iceiceiceはどうでしょうか?
ドミネーターを購入する事で勝率が10%下がる世界最強プレイヤーでしょうか?それとも、ドミネーターを頼り縋って買う事で、勝率が5%上がる平凡なトッププロでしょうか?こたえは、既に、あなた方の頭の中にあります。そうです。変態プレイヤーです。dota16年の歴史の中でただ一人、変態という言葉を持って形容される、唯一にして無比なる変態。それが、iceiceiceです。
「的確な行動をすれば、的確な行動をするだけリターンを得られるヒーローを担当すれば強くなる」というのが、トップシーンにおける最強プレイヤーです。iceiceiceは違います。常道を外れた挙動を行うことで、相手を手玉にとるタイプのプレイヤーです。純粋な最強プレイヤーではありません。
ドミネーターは、ジャングルクリープを自らの手下として使役する事が可能になるタンクアイテムです。dota2には、ジャングルクリープを自らの手下として使役する事が出来る、chenというヒーローが存在します。そのヒーローを、トップシーンで使った経験を持つポジション3は、iceiceice以外に存在しません。
全ての点が、線で繋がりました。
iceiceiceは常人ではありません。世界中にその名を馳せた最強プレイヤーが担当すれば、弱くなるであろう退屈で消極的な選択肢を担当しても、弱くならないという、特殊なプレイヤーだったのです。iceiceiceがchaliceを相手にして行ったプレイは、それまでLGDが快進撃の中で使ってきたメインタクティクスでした。LGDのメインタクティクスである「ポジション3に簡単でプレッシャーの少ない役割を」というtankタクティクスは、現在のバージョンにおいて非常に有り触れたものです。そして、先ほど述べた世界最強のポジション3プレイヤーらは見向きもされない、二線級の消極的な選択肢です。
何故、そんなものにLGDは敗れたのか。
属人性。
その一語に尽きます。
シンガポールが世界に誇る変態プレイヤー。
けれども、勝者側決勝は1本先取ではありません。
2本先取です。
まだ終わっていません。
自国開催のDAC2018において、世界最強の2チームを共に撃破するという、破竹の快進撃を見せ続けたLGDには、まだ後がありました。
6,LGDが頼った先。
勝者側決勝の第二ゲーム。
Mineskiのpick&ban進行は、第1ゲームと全く同じでした。iceiceiceに、LGDの快進撃を陰で支え続けたchaliceがやっていた退屈な役割を割り振ります。それに対して、LGDのpick&ban進行もまた、第1ゲームと全く同じものでした。LGDは、自分達の持てるpickの中で、最強のpickを選択し続け、chaliceを除く4人に、最強のヒーローを割り振ろうと、BANされそうな所から順にpickしてゆきます。最後に残されたのはポジション3、chaliceでした。
last pick。
プレイヤーはchalice。
LGDの選択は、バットライダーでした。
この瞬間に勝敗は決していた、というのは些か大げさでしょうか。
第1ゲームにおいて「tank vs tankでは、iceiceiceというdota仙人に新人chaliceが手玉に取られて負けてしまい、ゲームが成立しない」という事実を冷静に分析し、chaliceにtankではない役割を任せました。それが、バットライダー。
バットライダーはtankではありません。DAC2018において快進撃を続けたLGDにおいては、ameとmaybe、さらには後衛の2人のプレイヤーが分担して持ち回りで担っていたイニシエーターという役割です。
chaliceは、その役割を、合格点でこなしたと言えるでしょう。ただし、それは決して絶賛に値するという内容ではなく、合格点にしかすぎませんでした。そしてなによりも、現在のバージョンは、dota2が安易にLoLのtankアイテムをインフレさせた上で完全コピーする形でパクった事によって生み出されてしまった、tankメタだったのです。batはタンクではなく、iceiceiceはタンクでした。
属人性。
「これがiceiceiceでなければLGDは勝てていた」
勝者側決勝を見終えたとき、わたしはそう、思ってしまいました。それは、iceiceiceが居なければMineskiは敗れていたという事を意味します。かつて所属していた中国のViciというチームにおいて、造反という言葉を持って言い表された尋常ならざる低迷を見せ、チームを解散に追い込み、中国の栄光と中国の未来を闇に葬った、中国の仇。中国の大敵。そんなiceiceiceは長い低迷を脱し、復調傾向にありました。そのiceiceiceが、復調ではなく、復活を成し遂げてしまった。遂に、あの男が蘇ってしまった。わたしはそう思い、私はそう喋りました。「iceiceiceが居たからMineskiは勝った」
それは、世界中のトップチームにまばらに存在する、片手で数えられる程の、精密で繊細なプレイが可能で、リスクとリターンを常に頭に入れて正しいプレイを選択しようと試みる、幾人かの特別な才能を持つ世界最強を争うポジション3プレイヤーよりも、人を喰ったような行動を選択しては、相手を煽る課金エモートを打ち鳴らしながら当然のように頓死していくという、常軌を逸した不可解で意味不明な行動を繰り返すiceiceiceの方が、dotaというビデオゲームにおいては強いということなのです。
そうです、あの男が蘇ってしまったのです。
DK dream teamの最強プレイヤー、変態iceiceiceが。
7,グランドファイナル。
けれども、LGDは終わっていませんでした。
何故ならば、LGDは敗者側決勝において、5carryで全てを踏みつぶしてきた世界最強VPに対して、2勝1敗で勝利して、中国を歓喜と熱狂で包み込みながら、グランドファイナルへと舞い戻ってきたからです。グランドファイナルは3本先取。Mineskiの手の内はばれています。1日夜を跨いで、対策を考える時間も十分にありました。グランドファイナルの初戦、LGDはMineskiに勝利します。膠着した試合展開を打ち破ったのは、ameとmaybeという、LGDの二枚看板でした。それにより、Mineski対LGDにおける、変態iceiceiceの属人的な強さという現実と併走する、もう一つの現実の存在が浮かび上がります。
その現実とは、LGDのポジション1とポジション2が、Mineskiのそれよりも遙かに強いという、揺るぎがたい現実でした。Mineskiのポジション1とポジション2は、弱かったのです。そして、LGDは、他ならぬそこが強かったのです。
初戦、mobaはハックアンドスラッシュです。
レベルを上げて、物理で殴るゲームです。
ポジション1(所謂ADC)と、
ポジション2(所謂solo mid)のゲームです。
サブアカウントで格下の相手に得意気に勝って配信で稼ぐ、元プロプレイヤーを見て下さい。みんな、ポジション1かポジション2をやりたがります。mobaとはそういうゲームです。「自分の力で勝ちたければ1か2をやりましょう」と、まるでハウトゥーのように書かれています。
即ち、LGD 対 Mineskiの勝負の行方は定まりました。
ポジション3で勝るMineski。
ポジション1と2で勝るLGD。
LGDが勝つのは自明の理です。
第1ゲームにおいて、LGDはそれを証明します。
一晩かけてLGDが考えたpickは、maybeとameの2人が、レベルを上げて物理で殴るという、ガッチガチのハックアンドスラッシュ戦略でした。初戦ハクスラというのは、攻撃力と攻撃速度とアーマー低下を重ねて相手を殴るのが最強という、単純なゲームのジャンルなのです。そして、mobaとは、RTSという複雑なゲームではなく、単純なゲームをやりたいという人々の欲望によって、その隆盛を極めたビデオゲームの1ジャンルなのです。
ameは8キル1デス。
maybeも8キル1デス。
中盤まで一見すると硬直していたかのように見えるゲーム展開は、ameとmaybeの両者が後半戦用の武器を手にした瞬間に崩れました。太古の世界最強チーム、DK dream teamの最強プレイヤー、変態iceiceiceが完全復活だなんてのは、ただの幻だったのです。世界中が騙された、幻覚であり、ただのボタンの掛け違え、サイコロの出目が悪かっただけなのです。もちろん、嘘です。
続く第二ゲーム、LGDは何も出来ずに敗れます。
LGDの敗因は明確でした。
maybeです。
何故、maybeが「天下を取り損ねた男」なのか。
何故、maybeが天下を取り損ねたのか。
それは、maybeはその長いキャリアの中で、常にライバルの存在せぬ、無敵の存在だったからです。maybeが獲るはずだった天下を、盗み去り奪い取り見る者全てを絶望させた"絶望の化身"の異名を持つArteezyと比較しても、maybeは圧倒的に優れたプレイヤーでした。少なくとも、レベルを上げて物理で殴るというゲームにおいて、maybeの勝負勘とハンドスキル、さらには操作ミスをする確率の低さや、的確に相手を殺し続けるマップ上の大きな挙動など、dotaにおいて優れたプレイヤーを構築する全ての要素において、maybeはArteezyを凌駕していました。
Arteezyがmaybeに勝っていたのは、死に続けるセンスと、マップ上を逃げ回るセンスだけ。もちろんそれは当時のバージョンにおいては決定的なセンスであり、「逃げ回るセンスと死ぬセンスによってチームを勝利させるArteezy」という時代を嫌がったvalveのpatchによってArteezyの時代は終わりを迎えます。
"純粋な強さ"という単語が何を意味するのかを僕は知りませんが、"純粋な強さ"においてmaybeは、天下を取り損ねてなお、圧倒的なものを持っていたのです。けれども、それも、過去の話です。遠い昔に過ぎさった、むかしむかしのお話です。valveのpatchによってArteezyの時代が終焉して幾年月。もう、随分と前から、maybeは圧倒的なプレイヤーではありません。極めて平凡な世界最強プレイヤーの一人です。
maybeが圧倒的だった時代は遠い昔に終わりました。けれども、maybeが圧倒的だった時代は、あまりにも長すぎたのです。それ故に、maybeは今も尚、「自分は触れようとする者全てを破壊する、圧倒的なプレイヤーである」という振る舞いをします。その振る舞いは「maybeは雑である」という表現を持って言い表す事が可能です。
自分がいいプレイをしなければチームが負けてしまうという場面においても、maybeは普段通りのプレイをします。他の素晴らしいプレイヤーならば、最悪の事態を想定して、自分が不利な状況に陥る事で招いてしまう敗北の可能性を、1パーセントでも減らそうという挙動をとります。けれどもmaybeは違います。それはまるで暇人が、暇つぶしの為にゲームをしているかの如く、「来るなら来れば?」というポジションを選択し、挙動を選択し、チームの勝利の事など気にもかけません。
もちろん、maybeだって勝ちたいでしょう。
真剣に勝利を追い求めているでしょう。
けれども、maybeの体の中には、触れようとする相手を全て破壊する事が出来た時代の感覚が、血となり肉となり染みついているのです。そして、それが、よりによってグランドファイナルの大事なゲームで顕在化してしまいます。チーム一丸となって、チームオーダーを組む事によりmaybeにキーアイテムを入れたLGDは、maybeがキーアイテムを抱えて、雑に(雑にとしか形容出来ない形で)頓死し続ける事で、何も出来ずに敗北します。
「LGDのポジション2maybeは、Mineskiのポジション2のnanaよりも遙かに強いからLGDが勝つ」。そんなものは、卓上の空論でした。それを成し遂げられるのは、あの頃のeSportsシーンにおけるmaybeであり、2018年のeSportsシーンは、あの頃よりもずっとレベルの高い、血で血を洗うビッグビジネス。大Eスポーツ時代なのです。
1勝1敗で迎えた第3ゲーム。
ame、9キル1デス9アシスト。
maybe、9キル2デス10アシスト。
所詮mobaはハックアンドスラッシュ。
レベルを上げて物理で殴るゲームでした。
maybeのワンパンでMineskiは消し飛びます。
話は少し遡りますが、0勝2敗でLGDが敗れた勝者側決勝において、LGDは2ゲーム共にGyroというヒーローをpickします。gyroは、DAC2018が始まった時点において、トップシーンにおいては最強のヒーローだというのが、衆目の一致するところでした。そんな強キャラクターであったgyroですが、グループステージ初日終了後のpatchによって、致命的な弱体化を喰らっています。LGDは勝者側決勝で、2ゲーム続けてgyroを選択して敗れた事で、敗者側決勝とグランドファイナルの8ゲームでgyroをpickしませんでした。この大会において、幾つかの強豪チームが「大会の為に一生懸命gyro戦略を仕上げてきたんだから、大会期間中にpatchで弱体化されても、使うしかない」という形でgyroと心中して散って行きました。返す返すも、酷い大会でした。DAC2018において、gyroを使って勝てたチームは、たったの1チームだけでした。Mineskiです。
8,maybe対maybe。
ここに、最悪の現実がありました。
このグランドファイナルは、maybe対maybeだということです。
maybeが雑ならばLGDは敗れ、maybeが普通ならLGDが勝つ。
強さとは、属人的なものです。
藤井六段は強いから藤井六段は勝利し、羽生結弦は強いから羽生結弦は勝利するのです。それはチーム競技においても同じです。クリスティアーノ・ロナウドが強いからマドリーは勝利します。一定のラインを超えたとき、どのような競技も極めて強い属人性に陥ってしまいます。DAC2018の敗者側決勝がiceiceiceによってはじまり、iceiceiceによって終わったのと同じように、グランドファイナルはmaybeによってはじまり、maybeによって終わる。その、はずでした。
勘のいい読者ならば、もう、おわかりですね。
グランドファイナルの第四ゲームになってはじめて、Mineskiには、その名を思い出したくもない、一人のプレイヤーが存在していた事を、否が応でも思い出さざるをえないpick&ban進行が発生します。パンゴリラです。iceiceiceです。DAC 2018において、唯一勝利したポジション3のパンゴリラです。DAC2018において、3勝7敗だったパンゴリラで、一人勝ちしたiceiceiceです。グランドファイナルは、maybe対maybeなどではなかったのです。DAC2018のグランドファイナルは、Mineski対LGDでした。
DAC2018。
それは、幾つかのあっけない局面と、幾つもの残念なpatchの影響を抱えながらも、歴史に残る壮絶な死闘でした。そして、変態iceiceiceが世界に向けて、完全復活を宣言する為の大会であり、変態の為の変態による変態の大会でした。それは、ある視点においては、大会期間中のpatchにより台無しにされた、あの闘劇や、あのti、あるいはあのマニラにも匹敵する、eSports史上最悪の大会でした。
第四ゲームにおいて、圧勝した第1ゲームと全く同じpick&banを試みたLGDの消極的なpick&ban戦略は、変態iceiceiceにパンゴリラを信じて託すというMineskiの勇敢さの前に敗れ去りました。
Mineskiの弱いポジション1がLGDによって完全に潰され、中盤も半ばを過ぎてもノーアイテムという惨憺たる内容の中で、iceiceiceは最悪のケースを想定して自らがADCする選択も視野に入れながらもLGDを一人で翻弄し続ける事により、完全に4人対5人のゲームになってしまったゲームにおいて、4人しかプレイヤーが居ない側のMineskiに小さなそれでいて確かな勝利をもたらし続け、iceiceiceが積み重ねたナイスプレイの塵の山が、巨大な雪崩となってLGDを飲み込んで行くこととなります。
Mineskiには信じられるものが常にあり、
LGDは信じられるものを失いました。
DAC2018で、不滅に思えた世界最強Liquidと世界最強VPの両雄を共に打ち破ったLGDは、その貴重な勝利の中で、chaliceというプレイヤーから、自立自尊の精神を奪ってしまっていました。3本先取のグランドファイナルにおいて、優勝に王手をかける2勝にまでは辿り着いたLGDでしたが、優勝に必要な3勝目は、遠く遠く、見果てぬ夢でした。
世界最強VP相手の3戦。
世界最強Liquidとの5戦。
対Mineskiの2日にわたる6連戦。
LGD最強のgyroという選択も大会期間中のpatchと勝者側決勝の2敗によって消えてしまっていました。LGDの矢玉は、完全に尽きていました。矢玉が尽きたLGDが頼り縋ったのは、強そうなヒーローです。それは、中国が最後にThe Internationalで優勝した際の、最終ゲームのヒーロー。もはや神話となった跳刀跳刀に率いられた、あの栄光のWingsが、The Internationalのグランドファイナル最終ゲームで用いたヒーロー。LGDの脳裏には、あの瞬間の中国全土を熱狂させる歓喜の渦が蘇ってしまったのでしょう。
そのヒーローとは、中盤と終盤の境目である35分~40分という短い時間帯において、圧倒的な強さを発揮する、繊細で儚い、それでいて強烈な強さを持つ、ミッドレンジcarry、アンチメイジでした。けれども、それは、儚いものです。アンチメイジとは、強く儚いものなのです。
chaliceのpickを見てから、iceiceiceが後出しじゃんけんを行うというpick&ban進行が行われた第五ゲームにおいて、そのような儚いヒーローが勝利を収められる可能性は存在していませんでした。ameのアンチメイジは一度としてゲームの糸口を掴むことが出来ず、LGDはameと共に沈んで行きます。天に輝いたのはMineskiの旗。
藤井六段には藤井六段が居るが故に藤井六段は勝利し、羽生結弦には羽生結弦が居るが故に羽生結弦は勝利し、ウサインボルトにはウサインボルトが居るが故にウサインボルトが勝利するのと同じようにMineskiは、iceiceiceが居るが故に勝利し続け、優勝を成し遂げました。
DAC2018は、「Liquidにはmiracle-が居るが故にLiquidが優勝した」となるはずの大会でした。DAC2018は、「VPには捕食者Ramzes666が居るが故にVPが優勝した」となるはずの大会でした。そうはなりませんでした。dota 10年の歴史の中で断トツの才能を持った、あのmaybeを以てしても、そうはなりませんでした。
蘇ったのです。
あの男が、蘇ってしまったのです。
iceiceice。
Mineskiのポジション3。
それは、シンガポールが世界に誇る変態プレイヤーです。
9,追記せねばならないこと。
さて、書き漏らしてしまった重大な事実が幾つかあります。
まず第1に、Mineskiのポジション5は、世界最強プレイヤーであるということです。Mineskiのポジション5はninjaboogieというプレイヤーなのですが、この人は極めて平凡な、ローカルレベルのプロプレイヤーでした。東南アジアにおいてでさえ、平凡なプレイヤーだったのです。実際に、Mineskiの2ndチームを一瞬でkickされるなど、チームを転々としています。現在のMineski以前に、ninjaboogieが最も世界大会に近づいたのは、raveに所属していた時だと思いますが、ビザが出ずに出場を辞退するなどして、大きな結果を手にすることが出来ずに終わっています。
そんなninjaboogieですが、現在のMineskiに加入して以降の内容は特筆に値するもので、DAC2018以前、もっというと、iceiceiceが復調するよりも前から、ninjaboogieに関しては「世界的な名手に劣らない内容を残している」と言い続けて参りました。
さらに、Mineskiのポジション4は、造反レベルの低迷により中国を追われたiceiceiceが自分のチームを立ち上げるにあたり、Twitter公募によって獲得したjabzというタイのプレイヤーであり、世界では1勝も出来ず、アジアでは1敗もしないという、私達東南アジアサーバーのプレイヤーが頭を抱える、最弱の最強チーム「アジア無敵のfaceless」というチームでポジション2を務め、世界では1勝も出来ないが故に煮詰まりに煮詰まり煮詰まりすぎて、アジアでは無敵だったにも関わらず、ポジション2(solo mid)から、ポジション4(サポート)へと転向し、遂に念願の世界初勝利をあげた人です。世界シーンにおけるfacelessは、世界初勝利をあげたというだけで解散してしまいました。facelessは少なくとも、アジアでは無敵だったわけで、その中核プレイヤーであったjabzは当然ですが素敵なセンスの持ち主で、素晴らしいプレイヤーです。
MineskiのDAC2018優勝は、ninjaboogieとjabzという、世界のどのチームと比較しても決して劣ることの無い、世界最強レベルのバックラインによって、成し遂げられたという事実だけは、追記しておかねばなりません。散々書き散らかした後に言うのは気が引けますが、dotaは一人では勝てません。全体的には苦しい部分もありましたが、ポジション2のnanaもまた、「完璧な」と形容したくなる、幾つかの素晴らしいリプレイを大会期間中に複数残しています。
Mushi、iceiceice、nana、ninjaboogie、jabz。
この4人には共通点があります。
それは、最強チームでプレイした経験を持つということです。
そして、誰一人として、mineskiが見出したプレイヤーではありません。
LGDの「yao先生に対する人情人事」とはかけ離れた、真のeSportsチームによる、正しいお金の使い方、自分達の将来に対する投資こそが、Mineski優勝の裏には存在します。良いマネジメントが、悪いマネジメントに勝った。そんな事実も残るのです。大会期間中のpatchにより、味噌がついてしまいましたが、その味噌を振り払えるかどうかは、これからのMineskiにかかっています。少なくとも、Mineskiには世界的な名手が所属しています。そして、Mineskiに所属している世界的な名手は一人ではありません。それが4人なのか、あるいは5人なのか、はたまた3人であるかというのは、またいつか、どこか見果てぬ場所で、語り明かそうではありませんか。三途の川を渡ったあたりで。
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//なお、途中数字が入るべきところがxとyになっていると思いますが、昨日秀丸エディタが初期設定のままだとバックアップをとっていないせいで、草案と、資料用のデータと、序盤のテキストからなる11000字のテキストファイルが吹っ飛んだせいです。追って数値いれます。流石に今日はデータ取り直す気力ないです。ごめんなさい。