2019年2月1日金曜日

遠い昔に完全に終わった歴史上最強プレイヤーArteezyは如何にして世界最強LGDに勝ったのか。

dota allstars(≒dota2)の、17年の歴史の中で最強のプレイヤーは誰なのか。それは衆目一致するところだと僕は考えている。Arteezyだ。Arteezyは全てを変えた。

それまでのdota allstarsは戦いだった。
誰もが相手を倒す為にプレイしていた。
rtzはそんな時代を終わらせた。

rtzは、戦う為ではなく、勝つ為にdota allstarsをプレイした。

学業引退から2ヶ月後。ビザの出なかったルーマニア人の代わりに緊急の代役として大会に出場したrtzは、世界最強チームだったDK DreamTeamという伝説のチームを打ち破り、MLG Columbusという国際大会で優勝してしまった。北米に拠点を置く、名も無き弱小チームが世界最強チームに勝って国際大会を制覇するという異常事態は、dotaシーンを大きく動かした。

「dota不毛の地である北米が、国際大会で強豪の地位につくのは不可能である」という現実的な判断から、dota部門を閉鎖して撤収して久しいEvil Geniusesが、北米のチームが国際大会で優勝を果たしてしまったという荒唐無稽な現実を目の当たりにしてしまった結果、dota部門を再び立ち上げ、dotaシーンへの再参戦した。Evil Geniusesの中核はもちろんその人。rtzだった。





rtzが終わらせたのは、戦いだった。
不毛な戦いだった。


それまでのdotaは、5対5の対戦ゲームだと思われていた。対戦というくらいなのだから、戦うものなのだろう。誰もがそう信じ込んでいた。そして、戦いに酔いしれていた。痛みを伴わない戦いは楽しいものだ。誰もが戦いの虜となっていた。無警戒な誰かを徒党を組んで襲撃し、戦いが始まる。それを目にした誰かが、慌てて戦場に駆けつける。数的不利を被らないように、敵も味方も集まってくる。5対5の戦いである。血湧き肉躍るビデオゲームである。

rtzはそれを否定した。
dotaはゲームである。

ゲームは戦う為の舞台ではない。
ゲームは勝つために存在している。




rtzはそれまで考えられていた価値観を全て否定していった。まずはじめに否定されたのは、「キルをとるのは良いこと」という価値観である。dotaは5対5の対戦ゲーム。1つキルをとると、相手は4人になる。2つキルをとると、相手は3人になる。数的有利が生まれ、数的有利は有利な情勢を生む。有利な情勢は、勝利へと繋がる。

rtzはそんな価値観を否定した。




rtzに言わせると、dotaは欠陥品である。
rtzの言うdota最大の欠陥。

それは、キル/デスが記録されることである。




世の中には無数の対戦ゲームが存在している。どんなジャンルの対戦ゲームだって、キーボードのキーを1つ押し下げれば、キル/デスが表示される。デスの多いプレイヤーはまぬけ。キルの多いプレイヤーは神手。キル/デスはプレイヤーの能力をはかる最も簡単な物差しであり、誰もがその向上を目指してゲームをプレイする。


rtzは言った。
それは間違いだと。
キル/デスに意味はない。





rtzはただ勝利だけを目指した。
その為にキル/デスを完全に棄てた。





「絶望の化身」
今も語り継がれるrtzの異名。
歴史上最強プレイヤーの異名である。



rtzは誰を絶望させたのか。
それは、rtz以外の全てである。

rtzはまず始めに、頓死を繰り返す事でチームメイトを絶望させた。次に、ただまぬけに頓死を繰り返しながら国際大会で勝利し続けることによって、対戦相手を絶望させた。そして最後に、その光景を目の当たりにした私達全人類を絶望させた。人々はrtzを指差し言った。絶望の化身。Incarnation of Despairと。






rtzの理想スコアは1キル4デス1アシストである。
これはdota2においても極めて例外的なスコアである。

たとえば、2019年の今正に、歴史上最強プレイヤーの座をrtzから奪い取ろうとしているLiquidのmiracle-のベストスコアは、24キル0デスであり、miracle-のLiquidにおけるノルマは20以上の貯金をキルデスにおいて稼ぐ事である。rtzの流出後にEvil Geniusesのmid laneをrtzから引き継ぎ、The International2015で優勝したSumaiLの理想スコアは16キル1デスである。

rtz以前も、rtz以後も、キル/デスはプレイヤーの能力を測る最も正確で、最もわかりやすいモノサシである。そのキル/デスで計測不可能だったプレイヤー。それがrtzだった。



rtzのプレイスタイルは、一言で言うと逃げ回ることである。30分、いや50分もの間、戦いを避けて、相手から、そして味方から逃げ回り続ける。


相手に捕まると戦いが発生してしまう。
rtzは戦う為にはプレイしない。
ただ勝つ為にプレイする。

故にrtzは相手から逃げ続ける。
戦いを回避して逃げ続ける。




味方と共に居ると、戦いに巻き込まれる。
rtzは戦う為にはプレイしない。
ただ勝つ為にプレイする。

故にrtzは味方から逃げ続ける。
戦いを回避して逃げ続ける。




それは、僕等のゲームにおいて、そして僕等の価値観において、最悪のプレイヤーの行動パターンだった。dota2を遊ぶ上で、味方に来ない事を祈るタイプの、dota2がどういうゲームであるかを理解していないプレイヤーの行動パターンだった。「this mid no team work, gg. end please.」そんな言葉を僕等は日常的に目にして生きていた。




南宋の岳飛は言う。10里を追うは兵を失い、100里を追うは将を失い、1000里を追うは国を失う。世界中の名だたるeSportsプレイヤーが総出でrtzを追いかけ殺し、そしてゲームを失った。勝つのは常にrtzだった。rtzはゲーム開始からゲーム終了まで、戦いを避けて逃げ続ける事により、全ての敵を打ち破った。rtzの逃走劇は敵を疲弊させ、敵の時間を奪った。rtzに逃げられればrtzに負ける。rtzと戦えばrtzに負ける。rtzを殺してもrtzに負ける。rtzを放置すればrtzに負ける。世界中のeSportsプレイヤーが知恵と力を振り絞ってrtzと戦ったが、終ぞrtzを討ち果たすことは出来なかった。万策は尽きた。



rtzはEvil Geniusesから引き抜かれる形で、欧州のTeam Secretへと移籍。今も尚、不動の歴史上最強チームとしてdota allstarsの歴史に君臨し続け、Team Historyと称されるチームの中核となった。rtzの時代であった。rtzという、絶望の時代であった。けれども、未来永劫続くかに思えたrtzの時代は、唐突に終わった。






rtz時代の始まり。
それはrtzの学業引退だった。

rtzはeSportsシーンになんの爪痕を残すことなく、dota2シーンから引退した。誰もrtzの引退など気にはとめなかった。なぜならば、それまでのrtzは、北米ローカルの二部レベルで得意気に勝つのが精々の、無能で、役に立たない、ただまぬけなだけのプレイヤーだったからだ。「人生はビデオゲームだけではない」そしてrtzは引退した。引退から僅か二ヶ月後。rtzが時の世界最強チームを打ちのめし、衝撃的な内容で世界デビューを飾って国際大会を制覇したのは、既に書き記した通りである。



rtz時代の終わり。
それはzaiの学業引退だった。

Team Historyのポジション3を務めていたzaiは、あの日のrtzと同じように学業引退を表明した。「人生はビデオゲームだけではない」そしてzaiは引退し、無敵のTeam Historyは解散して散り散りになり、rtzの時代は呆気なく終わった。

「Team History」と呼ばれていたTeam Secretを離脱したrtzが向かった先は、Evil Geniusesだった。rtzはsecretに移籍して僅か半年でEGへと出戻った。しかし、半年前とは違うEGがそこにはあった。こともあろうか、EGはThe International 2015で優勝してしまっていたのである。EGのmidには、15歳にして16年のキャリアとまで称えられた未来から来た天才少年、MOBA史上最強mid laner、SumaiLが居たのである。

SumaiLはrtzとは全く別のプレイスタイルを持っていた。彼らは水と油だった。それまではrtzが死ねばrtzのチームは有利になっていたが、rtzが死ぬとSumaiLのチームは不利になってしまっていた。

SumaiLをmidに置いて勝てないEGは困り果て、SumaiLをmidからポジション1にコンバートしてみたが、圧倒的な1vs1勝率を誇る天才mid lanerのSumaiLに、ポジション1の才能は無かった。諦めてrtzをポジション1にしてみたが、逃げ回っては死に続けるだけが取り柄のrtzにも、ポジション1の才能は微塵も無かった。

1チームに2人のmid playerを抱え、尚且つプレイスタイルは水と油。かくしてThe Internationalの優勝チームに、時の覇権プレイヤーrtzを加えたEGは見るも無惨に低迷し、rtzの時代は終わった。2015年、8月14日のことである。








それから3年と半年。


中国は重慶で開催された重慶Major。
絶望の化身が蘇った。


絶望の化身。
名をArteezyと云い、
人々は彼をrtzと呼ぶ。













2019年のdota2シーン。
それは中国の名門チーム、LGDの時代である。

昨年夏。フランスのフットボールクラブ、パリ・サンジェルマンのスポンサードを受け、PSG.LGDとなったLGDは、圧倒的資金力を背景に最強のメンバーを揃え、完全無欠の覇権チームとしてdota2シーンに君臨するに至った。あまりにも奇妙で奇跡的な敗北により、The International 2018では準優勝に終わったものの、2019年のeSportsシーンに不動の覇権チームとして君臨するはずだった。いや、既に君臨していた。

その緒戦。
自国開催の重慶Major。
そこに1つの弱小チームが参戦していた。
北米に拠点を置くEvil Geniusesである。

かつて栄華を誇ったEGは凋落著しく、若干17歳にして最も老練なプレイスタイルを持ち、圧倒的なlane戦勝率を誇る、世界最強のmid lanerにして、The International 2015の優勝プレイヤー SumaiLを擁するも、諸事情により見るも無惨に低迷し、北米予選をぎりぎりの3位で通過して、重慶Majorへと参戦していた。

EGはトーナメントラウンドにおいて、ソビエトロシアが誇る最強チームVirtus Proに為す術もなく敗れ、ルーザーズへと落ち、ルーザーズで地元中国のVici Gamingとの対戦を迎えた。




Vici Gamingは、中国の名門チームである。
幾たびもdota2シーンに覇を唱え、その度に僅かすんでの所で覇権チームとなり損ねてきた。そんなviciが目覚めたのは昨年の秋のことである。viciに所属していた一人のプレイヤーが、大型パッチの好影響を受け、遂にその真価を発揮しはじめたのである。





「dotaにADCは居ない」
2008年にLGD.sgtyというチームがマレーシアで開催されたSMM2008という国際大会で劇的な優勝を遂げ、Team Historyによってその座を追われるまで、7年の長きにわたって歴史上最強チームとして語られ続けた。

LGD.sgtyはADC(アタックダメージキャリー)という役割を否定し、「誰かが勝利をもたらすのではなく、全員が勝利をもたらす」という競技シーンにおけるdotaの方向性を決定づけた。それ以降、10年の長きにわたり、dotaにADCの居場所は無かった。

他のゲームでADCと呼ばれているポジションはdotaにはなかった。故にdotaにおける武器を持って相手を殴るそのポジションは、「ADC」ではなく、「ポジション1」と呼ばれ続けていた。viciのポジション1プレイヤーは、そんな時代を終わらせた。




ADC不毛の時代を一人で終わらせた男。
名を拒絶者と云い、
IDをPaparazi灬と綴る。




拒絶者は、中国のPUBで当時から今に至るまで、圧倒的なトッププレイヤーであり続け、MMRランキング1位の常連である。彼は幾つかのチームを経て、中国の名門チームiGのmid lanerの地位へと登り詰めた。前任者であるFerrari430はdotaの歴史上最も多くのタイトルを手にしたmid lanerであり、dota界最大の巨人の一人である。1つの時代が終わり、拒絶者の時代が始まるはずだった。



けれども、iGは拒絶者を僅か2ヶ月で見切って捨てた。
iGは、将来有望であったかに思える拒絶者にあっという間に見切りを付けて切り捨てて、中国語も満足に喋れないオーストラリア人のanaというプレイヤーを採用した。iGに切り捨てられた拒絶者には、中堅チームを転々とする苦難のキャリアが待ち受けていた。一方でiGが拒絶者という中国PUBの頂点に立つスーパースターを切り捨ててまで採用したanaは「中国語による意思疎通がままらない」という不可解な理由によりiGから放逐された。anaの後釜は、休養から復帰したFerrari430だった。




それからしばらくの間、将来有望な拒絶者を切り捨てて、anaを採用したiGの判断は、間違いであるとされていた。かたや、世界で最もレベルの高いサーバーである中国サーバー最強プレイヤーである拒絶者。かたや、レベルが低く国際大会で振わないアジアの1プレイヤーに過ぎないana。けれども、中国PUB不滅のスーパースターである拒絶者にとって、現実は非常であった。


中国語による意思疎通を理由にiGを放逐されたanaは欧州に渡り、OGというチームでMajor大会3連続優勝を果たしてあっという間に引退。anaの引退後に迷走したTeam OGは内部分裂を起こし空中分解。所属プレイヤーの3人が移籍期間外にも関わらず突如離脱して他チームへと移籍していくという青天の霹靂の中、OGは大会に出場する為に必要な5人のプレイヤーすら足りなくり、コーチがsolo midをやりはじめる混迷の中にあった。慌てた彼らはanaに頼み込んで1大会限定で現役復帰させた。その大会とは、賞金額24億円のThe International 2018。そこでOGは優勝し、anaは再び引退した。2018年、夏の出来事である。







2018年の秋。
遂に、あの男が目覚めた。
中国PUB不滅のスーパースター。
拒絶者である。




2018年の秋に、dota2には大型アップデートが入り、ゲームのバランスが一変した。そのバージョンにおいて、拒絶者は圧倒的だった。これまでの低迷が嘘のように、まったく別のプレイヤーへと生まれ変わった。ゲーム開始と同時にキルを重ね、圧倒的な火力を生み出し、その火力によってチームを勝利へと導く。


拒絶者のポジションは1。
しかし、人々は拒絶者を
「ポジション1プレイヤー」
などとは呼ばなかった。


「世界初のADC」
拒絶者はそう呼ばれた。
LGD.sgtyが2008年にマレーシアにて開催された国際大会で、ADCというポジションを全否定してから丸十年。もはや誰も、ADCが普通に存在していた頃のdota allstarsというものを忘れていた。故に拒絶者はこう呼ばれた。世界初のADC、と。





世界初のADCである拒絶者を擁し、中国最強のmid、中国最強の後衛をも揃えたviciは、重慶Majorの勝者側トーナメント準決勝において、時の覇権チームLGDと相見えた。結果は非情であった。覇権チームは5人全員が圧倒的に強いが故に覇権チームなのである。拒絶者は奮闘したが、viciは人々に「現在はLGDの覇権時代なのだ」という現実だけを知らしめて敗れ、ルーザーズへと落ちた。





ルーザーズからのグランドファイナルを目指すvici。
そんなviciをルーザーズで待っていたものが居た。


世界初のADC、拒絶者を待っていたもの。
それは、絶望だった。
絶望の化身だった。






ルーザーズに落ちたviciの相手は北米の弱小チームだった。
その名を、Evil Geniusesと云う。


EGの強みは、MOBA史上最強のmid lanerとも称えられたポジション2のSumaiL。そして、人の心を持たず、善悪の区別がつかないシリアルキラー、Fear The Darknessというポジション4の後衛プレイヤーだった。

一方で、viciの強みもポジション2と、ポジション4だった。viciのポジション2とポジション4は、共に中国最強の名手であり、その点においてEGとviciは甲乙付けがたい好敵手だった。

けれども、現実は違う。
viciとEGの差は歴然だった。





viciのポジション1には、世界初のADCが居た。
一方EGのポジションは、平凡極まる弱小プレイヤーだった。


viciのポジション1。
世界初のADC。
拒絶者。


EGのポジション1。
過去の人。
rtz。






viciが勝つのは自明の理であった。
現代最強のポジション1プレイヤーにして、10年ぶりにADCという役割をdotaに蘇らせた男、拒絶者。一方のrtzは、何の役にも立たないチームのお荷物。EGがdota2に再参戦したきっかけを作ったというだけの理由で、言うならばコネで、EGのポジション1に居座り続けている無能なプレイヤーだった。




Vici 対 EG。
迎えた初戦。
第1ゲーム。



拒絶者は16キル1デス。
世界初のADCはその名声に違わぬ結果を出した。

一方のrtzは3キル3デス。
キル/デス16の拒絶者。
キル/デス1のrtz。


これが2019年の現実であった。
かつての覇権プレイヤーは見る影も無かった。

rtzが逃げ回るだけで勝てたのはゲームデザインの構造的欠陥であり、度重なるアップデートによりその欠陥が潰された現代のeSportsにおいて、rtzが輝きを放てる場所はなかった。いや、rtzの居場所そのものが無かった。rtzはEGのお荷物であり、そのでたらめな弱さでチームメイトを縛り付ける、足枷であった。




ところが、である。
迎えた第二ゲーム。


あの男が蘇った。
Incarnation of Despair。

絶望の化身。
Arteezyであった。
人々は彼をrtzと呼ぶ。




rtzは逃げ回り続けた。
拒絶者から逃げ回り続けた。

rtzは死に続けた。
拒絶者に、そしてviciに殺され続けた。





しかし、である。
rtzを殺し続け、集団戦を勝ち続け、EGのプレイヤー全員を片っ端から殺し続け、ゲームの展開を完全に握っていたはずのviciは気がつけば何かおかしな状況へと陥ってしまっていた。

18キル7デスと輝きを放った拒絶者は、
11キル7デスのrtzに敗れた。

誰もがその目を疑った。
それは、遠い昔に滅んだはずのrtzのdotaだった。
rtzの勝ちパターンだった。






あの頃のrtzは、忌々しい存在だった。
eSportsを見る者にとって、憎むべき存在だった。
そして、私達dota2をプレイヤーにとって、呪うべき存在だった。

rtzは只管相手との戦闘を避けて逃げ回った挙げ句、惨めで無様な醜態を晒しては、相手にキルを与え続け、挙げ句ゲームに勝利した。

「rtzはdota2のゲームバランスにおける脆弱性を悪用して勝っている」
人々はrtzを憎み、rtzを呪った。

PUBでrtzに影響されて逃げ回るだけのプレイヤーと同じチームになっては、rtzに影響を受けて逃げ回るプレイヤーに対してではなく、rtzそのものに対する憎悪を募らせた。戦いを避け続ける事で、無駄にゲームを引き延ばし、ろくに集団戦が発生しない退屈な時間を他の9人のプレイヤーに強いる、迷惑で有害なプレイスタイル。それがrtzという人が生み出した遺恨であり、業であった。彼が世界中で今も尚、嫌われ続ける理由であった。




当然の如く、valveは懸命にdota2をアップデートし、rtzに利用されたゲームバランス上の脆弱性を潰していった。rtzの覇権時代から含めると、50回以上のアップデートが行われ、絶望の化身が蘇る可能性は完膚なきまでに潰されていた。

2018年秋のアップデートはそれにも増して苛烈であった。LoL化とも呼ばれるアップデートにより、ゲーム時間は20分以上も短くなり、1ゲーム45分だったdota2は気がつけば20分以内に終わるゲームへと変貌を遂げていた。逃げ回っている時間などなくゲームは終わり、逃げ回る場所などどこにもなかった。はずだった。そのはずだった。




迎えた第3ゲーム。
世界初のADCを擁するviciが壊れた。

壊れたのではない。
壊されたのである。

viciを壊した犯人。
それは、あの男だった。

絶望の化身。
Arteezyである。









世界初のADC拒絶者は、11キル3デスと確かな仕事をした。

けれども、遠く過ぎ去った過去の栄光の時代においてrtzが否定した「dota2はキル/デスコンテストではない」という現実がそこには待っていた。集団戦をほとんど無視して逃げ回り続けるrtzは終盤になって突如として牙を剥いてEGを勝利へと導き、vici Gamingの重慶Majorはそこで終わった。同時に、新時代の覇者へと名乗りを上げようとしていた世界初のADC、拒絶者の重慶Majorもそこで終わった。









viciを下して勝ち進んだEvil Geniusesを待っていたのは、絶望だった。

LGD。
覇権チームである。
世界最強チームPSG.LGDという絶望であった。


パリ・サンジェルマンのスポンサードを受け、メンバーを刷新して以降、世界最強の覇権チームとしてdota2シーンに君臨したLGDが、5勝1敗と大きく勝ち越していたVPに一年ぶりの敗北を喫する番狂わせでルーザーズへと落ちてきていた。rtzという異常な勝ち方でviciに偶然のまぐれ勝ちを収めたEG如きが敵う相手ではなかった。LGDの勝利は約束されていた。








しかし、である。
そこに待ち受けていたのは大会史上最高の戦いだった。LGDは存在しない何かと戦い、存在しないはずの何かに敗れ、0勝2敗で重慶Majorを四位で終えた。




LGD 対 EG。
第1ゲーム。

LGDは「絶望の化身」に対する対策を徹底した。
rtzが決して逃げ回る事の出来ないようにと、視界戦を重視したpick&banを行い、rtzはおろか、蜘蛛の子一匹も討ち漏らさないラインナップを敷いてrtzを迎え撃った。LGDの重厚な包囲網の前に、rtzが逃げ回る場所はどこにも残されていなかった。rtzが味方を見捨てて集団戦を無視して呑気にアイテムを買い漁ることなど、天下はLGDが決して許さなかった。

そのLGDの幾重にも渡るrtz包囲網に向けて、rtzは突っ込んで行った。
かつては覇権プレイヤーであったrtzというIDの前に、LGDの戦略は過剰なまでの「絶望の化身rtz」対策に特化してしまっており、rtzを先陣として一点突破で突っ込んでくる、1日前とは全く違うプレイスタイルのEGを受け止めるだけの力は無かった。rtzらしからぬプレイスタイルで、12キル3デスというrtzらしからぬスコアを残したrtzの前に、LGDは為す術もなく第1ゲームを失った。






LGDは混乱の中にあった。

rtzは、絶望の化身なのか。
それとも、他の何かなのか。
そもそもrtzは、かのrtzなのか。

その混乱から立ち直れぬまま、LGDは0-2で負けた。
待っていたのは絶望の化身。




中国が世界に誇るLGDのポジション1であり、世界最強のDPSプレイヤーであるameは第二ゲームにおいて、第1ゲームのrtzと同じ12キル3デスというスコアを残したが、勝ったのはLGDではなくEGだった。

ゲーム開始からゲーム終了まで、集団戦を避けて逃げ回り、味方との協調性を全く無視しては、稚拙な単独行動を繰り返して彷徨い死に続けただけの、7キル5デスのrtzに、LGDは敗れ去った。





かくして、絶望の化身が僕等の前から姿を消して3年と半年後。
絶望の化身は蘇ったのである。

名を、Arteezyと云う。
人は彼を、rtzと呼ぶ。